表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/172

story,Ⅲ:仲間の死




「え!? レオノール、どうしたの!?」


 咄嗟にフェリオ・ジェラルディンが、彼女へ手を伸ばす。


「く、う……っ! どうやら毒消しが、効いてねぇみてぇだ……!!」


 レオノール・クインの顔は青褪め、じっとりと脂汗が滲んでいる。

 フェリオがレオノールの手を握った時、異常に体温が高い事に気付く。


「ちょっと待ってて! もう一つ毒消し持って来る──」


「いや、まだ動けるから、自分で取る……リオは、ヒュドラ戦に専念しろ……」


 レオノールは言うと、よろめきながら立ち上がり、荷物の方へと向かった。

 数歩進む度に、まるで鼓動のように全身を、痛みが走る。

 だが、レオノールは耐える。

 当然ながら、その分体力が奪われていく。


「フィリップさん! あの野郎、毒消しが効いてないみたいだ!!」


「……妙だな……」

 

 フィリップ・ジェラルディンは唸ると、九番目の頭めがけて、予知調査プレディジオネリチィカをかけてみた所。


「こいつ……毒回復無効化の上、こいつから毒を喰らった者も毒消しの効果がない、だと……!?」


 言うやフィリップは、レオノールへと振り返る。

 すると丁度レオノールが、二本目の毒消しを服用した所だった。

 だがしかし、10秒後その場で彼女は倒れてしまった。


「レオノール!!」


 フェリオが彼女の元へ、駆けつける。


「毒消しの効果がねぇって……マジかよ……とんでもねぇ毒、喰らっちまった、な……」


 レオノールは言うと、苦しそうに薄っすらと口角を引き上げる。


「毒消しが効かないなら、何が効果あるのか、フィルお兄ちゃん解かんないの!?」


「それは解かっているが……あの九番目を倒して、その血を飲ませる事だ……」


「じゃあ、さっさと倒そう!!」


 フェリオの疑問にフィリップが答えたのを聞いてから、フェリオはヒュドラへと身構える。

 すると背後で、レオノールが呻いた。


「こいつを貼れば……船を守るバリアの完成、だ……」

 

 そうして彼女は、手に持っていた札を船のデッキに、叩きつけるように貼り付けた。

 これにより、見事に船全体を、バリアが包みこんだ。


「後は、よろしく頼むぜ……俺は立ち上がれそうにねぇ、から……ここで見学と決めこまぁ……」


 レオノールはそうして、薄っすら笑みを浮かべるが、顔色はとても悪かった。


「とにかく、あの頭を落として、血を採るぞ!!」


 フィリップの掛け声に改めて、フェリオとガルシア・アリストテレスもヒュドラへと、向き直る。

 ヒュドラはもう目の前で、九つの頭は一斉に船に向かって牙を剥いた。

 しかし、レオノールが“約束の札”を貼ってくれたおかげで、ヒュドラの牙はバリアにて弾き返されてしまった。


「はっ! ザマァ!!」


 ガルシアが啖呵を吐く。


「キシャアアアァァァァーッ!!」


 ヒュドラはどうやら立腹したらしく、それぞれの属性攻撃をしてきた。

 炎や氷や風だのと、あめあられだ。


「“約束の札”様々だね……」


 フェリオがバリアの外で、それらの要素に船が包まれているのを傍観しながら、ぼやく。


「ピンチはチャンスだよリオ! この距離ならこいつらの首を落とせる!!」


 ガルシアは言うと、船の反対側から助走をつけて、縁を踏み台にすると船の外──バリアを抜けて海の方へ向けて跳躍した。

 そして勢いそのまま、九つ目の毒属性の頭を己の剣にて、渾身の力で叩き落した。


「やった! 凄いよガル!!」


 フェリオが目を輝かせて、喜びを露わにする。

 これに敏感に反応した残り八つの頭が、ガルシアへと牙を剥く。


「チッ! やっぱおとなしく血を摂らせてはくれないか!!」


 言いながらガルシアは、バリアの中の船へと戻ってくる。


「惜しかったな。しかし、よくやったぞガル。残りの頭は俺ら兄妹が相手をするから、もう一度行って血を──」


 フィリップが落ち着いた口調で述べている時だった。

 粘着質な音が響き、そちらへ顔を向けると。

 毒頭の切断面から肉芽が膨れ上がっていき、何と頭が再生したではないか。


「そんなぁっ!!」


「ウソだろう!?」


「ク……ッ!」


 三人は、驚愕と衝撃を覚える。


「まさかの不死身タイプか……」


 フィリップが歯噛みする。


「まだまだだぁーっ!!」


「待てガル!!」


 再び駆け出し始めたガルシアを、フィリップが鋭い声で引き止める。


「はい!?」


 慌ててガルシアが足を止める。


「今のままじゃあ、同じ事の繰り返しだ。何か対策を……」


 ここまで顎に手を当て言いながら、はたとフィリップは閃いた顔をする。


「リオ! ガルが首を落としたと同時に、切断面を炎属性魔法で焼き潰せ! 肉芽を焼いてしまえば、再生は出来ん!!」


「!! うん、分かった!!」


 兄からの言葉に、フェリオは使命感を覚えて力強く頷く。


「俺も了解!! じゃあ、行ってきます!!」


 ガルシアも首肯すると、改めて毒頭へ飛びかかろうとするのを、再度フィリップが止めた。


「まだ待て!!」


「ははは、はい!?」


 ガルシアはまたしても、足に急ブレーキをかける。


「こいつを服用しろ。完全体の薬だ」


 そうしてフィリップは、ガルシアへ小瓶を手渡す。


「ありがとうございます!!」


 ガルシアは受け取ると、それを一気に口へ呷った。

 完全体の薬──それは力・防・賢・速・体が一回の戦闘中のみ、一気にアップするレアアイテムの一つだ。

 同時に、フィリップがガルシアへ魔法をかける。


「イリュージョン」


 魔法無効化にする魔法だ。

 それは要素攻撃も含まれる。


「よし。行け!!」


「はい!!」


 フィリップに促され、ガルシアは今度こそ三度、毒頭へと飛び掛った。

 その間に、急いでフェリオとフィリップも完全体の薬を、服用する。


「喰らえっ!!」


 ガルシアは吠えると、毒頭の首に剣を振り下ろした。

 すると、それはまるで豆腐でも切っているかのように手応えなく、スムーズに頭と首を切断出来た。


「行くよガル!!」


 フェリオからの掛け声に、急いで船へとガルシアが戻ると同時に、フェリオが炎属性魔法を放つ。


「燃え尽きろ大爆炎(フレイオン)!!」


 紅蓮の炎が、毒頭の切断面を焼き付ける。

 ジュウゥと、蒸発音が響く。


「グオアァァァァーッ!!」


 八つの頭が絶叫を上げる。


「成る程。一つの頭が感じる痛みを、他の頭にも伝わるのか」


 フィリップはニヤリと口角を引き上げる。


「よし! もう一回、あいつの首筋を斬り付けて、血を採ってくる!!」


「お願いねガル!!」


「任せとけって!!」


 ガルシアとフェリオは言葉を交わすと、毒頭だった首筋へとガルシアは飛び移った。


「ガアアアァァァァーッ!!」


 八つの頭がそれぞれの属性攻撃を、ガルシアへと放射する。

 しかし、先程フィリップからかけられた魔法無効化によって、まるでダメージを受けていなかった。


「スッゲ! メチャ便利!!」


 ガルシアは口笛を吹くと、改めて血を摂ってから涼しい顔で戻って来た。


「じゃあ、早速レオノールにこの血を……! レオノールお待たせ!! 今すぐこの血を飲んで!!」


 フェリオは、ガルシアから血が入っている小瓶を受け取り、彼女の元へ駆けつける。

 だがしかし、彼女はグッタリと力なく、横たわっている。


「大丈夫レオノール!? さぁ早くこの血を──」


 フェリオは言いながら、小瓶の飲み口を彼女の唇へと押し付ける。

 しかし、反応がない。


「ねぇ? レオノール!? レオノールったら!!」


 この様子に、フィリップが気付いて歩み寄ると、彼女の手首に二本指を当てる。


「……マズイ。脈がない……!」


 フィリップは呟くと、ガルシアへと振り返った。


「今すぐ聖水を持って来い!! 早く!! 急げ!!」


 フィリップの剣幕に、ガルシアは必死に荷物をまさぐって、聖水をフィリップへと投げて寄こした。


「受け取って!!」


 彼からの掛け声に、フィリップは聖水を受け取ると急いでレオノールの口内へと、ゆっくり注ぎ込んだ。

 しかし30秒経っても、1分経っても、彼女が目を開けることはなかった──。


「手遅れだ……レオノールは──死んだ……」


「そんなっ!!」


 フェリオが口に両手を覆う。

 そしてみるみるフェリオの両目に、涙が込み上げてきた。


「ウソだ! ウソだ! ウソだ!! レオノール!! ウソだ!! 目を開けてよ!! 目を開けてレオノールゥゥゥゥゥーッ!!」


 フェリオは彼女の亡骸に縋りつき、咽び泣いた。


「チッ! クソ……ッ!!」


 フィリップは立ち上がると、大股で船の縁へと歩み寄り、ヒュドラと向かい合う。


「今のガルに使用した属性攻撃で、どの頭がどの属性か見抜いた! 吹き荒れろ風神刃(エアロオン)!!」


 左端である一番目の頭に、フィリップは風魔法を放つ。

 これに呼吸を合わせるが如く、ガルシアがその首めがけて跳躍し、剣で首を切断する。

 同時に、フィリップが更に炎属性魔法をその切断面へと、放射する。


「燃え尽きろ大爆炎(フレイオン)!!」


 炎頭は反撃する暇も与えず、たちまち倒されてしまった。

 これに慌てた残り七つの頭たちが、攻撃を開始する。

 六番目の氷頭が、吹雪の息をフィリップに向けて吐いたが、船全体を包むバリアに守られ、バリアの面上で拡散する。


「最初はヤバイと思ったけど、あながち余裕だな」


 ガルシアが言った直後、倒した筈の一番目の頭が再生したではないか。


「フ……怒りで盲目になっていた。冷静に考えれば炎に炎魔法は回復させるだけだったな」


「え!? じゃあどうやって一番目の頭を倒すのさ!?」


 フィリップの発言に、ガルシアが愕然と尋ねる。


「炎弱点は風だが、切断面を凍らせてみよう。もう一度だガル」


「おうっ!!」


 彼の言葉に、ガルシアは後方へと下がって助走体制を取る。


「凍れ氷結拷問(フローズン)!!」


 フィリップが呪文を口にした直後、ガルシアが一番目の頭めがけて跳躍する。

 しかし一番目の頭が炎を吐いて、フィリップの氷魔法がバリアの外に出た瞬間に、掻き消された。


「なっ!? しまっ……!!」


 その時にはもう、ガルシアは一番目の頭上にいた。


「ええい!! ままよ!!」


 そのままガルシアは、空中で剣を振りかぶった。

 その動きを見て、ガルシアの行動を予測したフィリップも、身構える。


「せいっ!!」


 流れに身を任せて、一番目の首へ剣を振り下ろし頭を落とすと同時に、その残余部分を蹴ってガルシアが船へ戻った時には、フィリップは既に氷魔法を切断面へと放っていた。

 すっかり凍りつく、一番目である炎頭の切断面。

 少し様子を窺ってみたが、もう再生する様子はない。


「よし。次は三番目だガル。このまま一気に俺が魔法を放った奴から、片っ端頭を落としていけ」


「“三番目”ですね!? 了解です!!」


 そしてチラリとフェリオの方を見たが、まだレオノールの亡骸に覆いかぶさって、泣きじゃくっていた。

 自ら戦闘意欲が湧かない限り、戦力にはならないのでまだ放置する事にする。


「生きながらにしてその身を滅せよ──生者必滅!!」


 これに自分が標的だと気付いた三番目が、フィリップが放った魔法に反撃し、口から雷を放ったがその雷を貫通して、三番目の頭へ到達しその頭を石にしてしまった。

 海なので、土魔法が使えなかった為に、一か八かで石化魔法を使用したのだ。

 見事、上手くいった。

 その三番目の首を、ガルシアが斬り落とす。

 切断面を、再度フィリップが炎魔法で焼き潰す。

 次は四番目の頭、“風”だ。

 風の弱点である“氷”魔法を放つ。


「凍れ氷結拷問(フローズン)


「キシャアアァァァァーッ!!」


 四番目が口から風を生み出して、反撃したが効果はなく虚しく凍らせられた頭は、ガルシアによって落とされフィリップによって切断面を、焼き払われる。


「次は六番目の“氷”だ」


「うぃっス!!」


「燃え尽きろ大爆炎(フレイオン)


 これに六番目の頭は恐怖に怯んだが、容赦なくガルシアはその頭を落としフィリップが、切断面を焼き潰した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ