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story,Ⅵ:レア素材



 マリエラ・マグノリアは不要だと断っていたが、婦人からせっかく引き受けたからにはと無理言って、薬の料金を受け取ってもらった。

 そして領収書をもらって、フェリオ・ジェラルディンとショーン・ギルフォードは宿屋へ戻ってきた。    

 食堂に行くとフィリップ・ジェラルディンとレオノール・クインが座るテーブルで婦人は待たせてもらっていたらしく、確かに料金を手渡した証拠として領収書を渡すと婦人はとても安心して、お礼を述べてその場を後にした。

 食堂は夕食時に合わせて、客の数が増えてくる中フェリオが声を大にして、叫んだ。


「よーっし! 飯だあぁぁぁぁーっ!!」


 何せ待ち兼ねた、人里で料理人が作った食事である。

 クローバー大陸にあるミント村を後にして以来、こうした食事に一切ありつけなかったのだ。

 確かに、ショーンの手作り料理も十分過ぎるくらいに美味だが、モンスター肉と言うジビエ料理が続きある意味では、家畜では得られない栄養を摂取出来るのはあるが、やはり獣臭さは否めずまだまだ調理方法の研究が必要なのが現実だった。

 野菜類もまた、然りだ。

 しかも材料を気にして、食べる必要もない。

 なので大食らいのフェリオにとっては、待ちわびた時だったのだ。


「ああ……また余計に食費が……」


 弱った表情を浮かべるフィリップに、レオノールが勝ち誇った様子で述べた。


「忘れたのかフィル。俺らには、普通では絶対に入手出来ない、レアアイテム素材がある。おまけに船にも金銀財宝! もう金の心配は必要ねぇぜ」


「あ、そうだった。良かった~!」


 これにフィリップは胸を撫で下ろした。

 

 こうして運ばれてきた酒で皆、乾杯するや──勿論、子供体型のフェリオはジュース──食事にありつくのだった。

 足元では、ルルガももれなく食べ物を貰って、食べていた。




 よほど美味しかったのか、本来ならどんなに食べても腹が膨らまないフェリオであるが、今回は珍しく膨らんでいた。


「相当、食ってたもんなぁ、リオ」


「食欲の(たが)が外れた感じだったね」


 ベッドで眠っているフェリオの顔を覗き込む、レオノールとフィリップ。

 フェリオの眠るベッドでは、ルルガも悠然と横になっている。


「さて。じゃあ僕はひとまずショーンと一緒の部屋に戻るよ。多分、起きたらリオが隣で寝ているんだろうけど」


「ああ。俺もそのつもりでいるよ」


 レオノールは笑って、フィリップへと答える。

 こうして部屋を後にしたフィリップを見送ってから、レオノールは筋力トレーニングを始めるのだった。



「戻ったよ」


 ショーンのいる部屋へ、入室するフィリップ。

 彼は大剣の手入れをしながら、無言のまま視線で返す。

 これに対してフィリップは、少しだけ苦笑する。


「ねぇショーン。いつもなら、今までは僕ら兄妹に一部屋使って、レオノールとショーンがそれぞれ別々の部屋割りだったのに、今回みたいな組み合わせって初めてだよね」


 フィリップはベッドへ腰を下ろすと、ゆっくりとした口調でショーンへと話しかけた。


「……」


 しかしショーンは、手を止める事無く大剣の手入れをしている。


「無言かぁ。ショーンはいつからそんなに、口数少なくなっちゃったんだろう?」


 だがやはり、無口のままのショーン。

 フィリップは大きく一つ、溜息を吐く。


「なーんか、そうしてずっと黙ってると、つまんないな僕。珍しく、ショーンからこの部屋割りを決めたんだから、話し相手になってもいいのに」


 これにようやく、ショーンはゆっくりと口を開く。


「……すみません。今日は何故か、緊張して……」


「緊張、ねぇ……」


 口ごもるショーンに、フィリップは小さくクスリと笑った。


「じゃあ一体、誰に緊張してるの?」


「そ、それは……」


 やはり、ショーンは口ごもる。


「個人? 全員?」


 フィリップはベッドの枠に両手を突いた状態で、身を乗り出す。

 ショーンは俯いたまま、ゆっくりとした動きで大剣の手入れを、続けている。


「答えられないか。まぁでも、大体は見当がつくケドね」


 フィリップは、はしゃぐように言いながら、横に倒れこむとベッドに寝転がる。


「すまない……」


 ショーンの呟きを、聞き漏らさなかったフィリップがケラケラと笑った。


「ほらショーン。また敬語を忘れてるよ」


「あ、はい、その……失礼しました……」


「クスクスクス……でもそんなショーンも、面白いよ」


「それは……ありがとうございます」


 ふいに大剣の手入れの手を止めて、俯いたままショーンは呟いた。

 これを更にフィリップはクスクスと笑ったが、しばらくして満足げな息を吐いた。


「さて。じゃあ僕はもう寝ようかな」


 フィリップはそうして、布団の中へと収まる。


「おやすみなさい。フィル」


 そんな彼へ、ショーンが言いにくそうに声をかける。

 これに、フィリップも答えた。


「うん。でもその前に一言。……──お前は一体誰だ」

 

 唐突に、声音を変えると落ち着き払った口調に怜悧な目つきで、そう述べた。

 これにハッとするショーン。

 しかしまたフィリップは無邪気な笑みを浮かべると、寝返りを打ちショーンへと背を向けると最後に挨拶を述べた。


「じゃあ、おやすみ☆」


 そのままフィリップは、寝付きに入る。

 ショーンはこれに、愕然とした様子でそんなフィリップの背中を、見つめる。


 今の一瞬は、もしかしたら裏人格だったのか。

 いや、それでもいつもの時と、出現条件が違う。

 しかも、主人格と連携的な話し方も、あり得ない。

 では一体、今のは……本人であるフィリップ自身の、言葉……──!?

 そんな、まさか!!


「あ、えっと、その……フィル……? まだ起きていますか? それとも、もう──……寝、た……?」


 言葉の語尾に至る頃には、まるで幼い子供が大人の顔色を探るようになってしまった。しかし。


「……」


 返ってくるのは無言。

 沈黙が続く中、やがてある音にショーンは気付く。

 それはフィリップの静かな寝息。


「もう寝てしまったか……フィリップは……──フィリップ……フィル」


 囁くように語るとショーンは、どこか愛おしげな眼差しでフィリップを見つめてから、大剣を壁に立てかけると立ち上がって、灯りを消した。




「よぅし野郎共!! 超絶貴重なレアアイテム素材を、売り捌きに行くぞぉ!!」


「おーぅっ!!」


 フェリオとフィリップは元気良く、片手を天に空き上げると、レオノールの掛け声に答える。


「はいそこぉっ!! 元気がないぞぉっ!!」


 黙っているショーンへ、目敏くレオノールは指差す。


「ぉ……ぉぅ……」


 口角を引き攣らせながら、ショーンは小さく呟く。


「声が小さいが、まぁいいだろう。さぁ、ショーンも漏れなく素材運びしてくれよ」


「ええ。分かっていますよ」


 言うとショーンは、レオノールへと微笑みかけた。


「だ、だったらいい……」


 つい、レオノールの顔が紅潮する。


「じゃあ、誰がどこの店に行く?」


 フェリオの言葉に、フィリップが答える。


「そうだねぇ。防具屋と武器屋は、男の役目にした方がいいのかもね」


 すると、我に返ったレオノールが、言葉を挟む。


「ああ、その辺は気にする必要はねぇよ。この街には“素材専門店”があるんだ。そこへ持っていけばいい」


「素材……」


「専門店~!?」


 フィリップとフェリオが、それぞれ答える。


「そうだ。まぁ、とりあえず行きゃあ解かるさ」


 こうして四人は、その素材専門店へ向かった。

 兄妹は、レオノールとショーンの後を付いて行く中、街の中心地へ向かうにつれて二人には、まるで見聞きしたことがない物があちこちで目に飛び込んできた。

 その一つに、二足歩行の爬虫類が車輪の付いた金属の箱らしき物を引いて、前進している姿だった。


「あれ、は……モンスター!?」


「一体、これは……!?」


 フェリオとフィリップが、身構える。


「大丈夫、大丈夫! ありゃあ、俺達には害はねぇ。トプトプ車だ」


「え? と、ぷ……??」


「とぷとぷしゃああぁぁ~!?」


 キョトンとするフィリップに、顔を顰めるフェリオ。


「そうだ。あの生き物が、トプトプと呼ばれている生き物だ」


 レオノールは近くにいる“トプトプ”を指差して述べた。

 それは、馬ほどの大きさをした雑食性の、一見恐竜を思わせる生き物だ。

 頭部には後方に伸び、しなやかに下方へとカーブを描いた、“角”らしきもの──鶏冠──が付いており、それを御者が先端を持ち、操っているようだ。

 皮膚の色は、オレンジやイエロー、グリーン等、単色ではあるがそれぞれ色が違っていて、カラフル。

 まるで指紋のように、所々に一~二本程度のラインが波状に入っており、それは個々によって違う。

 鳴き声はまるでカナリアのように美しいが、雑食の為、草食および肉食。

 普段はおとなしく小心者だが、凶暴化すると低周波空気振動を発して、標的を攻撃する。

 モンスターではないが、爬虫類の亜種的存在であり、人馴れしやすくこうして家畜化が可能。

 足が速い為、交通の便として利用している。

 目は猫のように明るさで、瞳孔の大きさが変化する。


「ま、その素材専門店はここから少し、離れている。本当は近くの宿屋を予定していたんだけど、まぁ、ほら、フィリップが熱中症になっちまって悠長に選んでいられなかったからな」


「ゴメン……」


 謝るフィリップに、レオノールは軽い口調で遮る。


「いや、お前は悪くねぇから」


 すると今度は、フェリオが謝ってきた。


「ゴメン……」


「だー! お前もいいからっ!! 話が前に進まねぇーっ!!」


 怒鳴るとレオノールは、頭を抱える。

 そして改めてレオノールは、ショーンと一緒にトプトプ駐車場に向かい、それに乗り込んだ。

 ちなみに、トプトプはここヒマワリ大陸にしか、生息していない。

 御者が鶏冠を下に軽く引きおろすと、トプトプは竪琴のように軽やかに鳴いて走り出した。

 車内は思っていた以上に振動はなく、心地良かった。

 そもそも、車道が整備されているのも、理由の一つだろう。

 ちなみに、トプトプ車は偶数ごとに最大八人までに分けられて、乗車可能になっている。


「凄い凄い! 景色がどんどん通り過ぎて行くよ!!」


「ああ。本当だねぇ……!」


 フェリオとフィリップが車窓を眺めて、はしゃぐ。

 車道は白っぽい、もしくは良く見ると薄いピンク色のアスファルト車道だ。

 それだけで、街のオシャレ感が増している。

 20分程で、プルメリア街の中心地に到着した。

 車から降りるとフェリオは、前方へ回り込んでトプトプへと手を伸ばし、手の平で首元を撫でた。


「ありがとうね。ここまで運んでくれて」


 するとトプトプは、クルルルと軽やかな響きで喉を鳴らした。


「可愛い~! ねぇ、ショーン!?」


 これに、他所を向いていたショーンが、フェリオへと向き直る。


「え、ええ……」


「何だそりゃ。今までと違って、反応薄っ!!」


 言いながらフェリオは、空笑いする。

 こうして四人は、リュックを背負い素材専門店を前にして──ジェラルディン兄妹は驚愕した。

 それは、まるで天ほど見上げるような、高層建築物だったからだ。


「ななな、何このドデカい建物は!?」


「大きいねぇ……」


 動揺するフェリオに、ポカンとするフィリップ。


「この中に、素材専門店が一フロア分、入っているんだ。さぁ、行こうぜ!」


 レオノールは言葉と共に兄妹を中へと、誘う。

 ここは、1Fが素材専門店。

 2Fがアイテム屋と本屋。

 3Fが武器屋と防具屋。

 4Fはコスメとエステ店、マッサージ店。

 5Fがおもちゃ屋。

 6Fは劇場。

 7F~10Fがホテルになっている。

 更に地下にあたるB1はいろんな料理店が入っていて、B2は食料品売り場と言った、デパートである。

 中に入ろうとしながら、屋上を見上げていたフェリオが突然、声を上げた。


「ああっ!! 何あれ!? 新たなるモンスター!?」


 そう叫んで屋上を指差したのは、下から風を送ってユラユラ揺れる吹流しみたいな、ピエロが四つ。


「ありゃあ、ビニールであってモンスターじゃねぇよ。ガキがあれに反応して屋上にあるミニ遊園地に行かせるのが目的の……宣伝みたいなもんだ」


 レオノールの発言に、フェリオがピクリと反応した。


「クスクス……確かに反応したね。リオ」


 フィリップが愉快そうに笑う。

 現在、子供体型であるのもあって、すっかりフェリオをふてくされてしまう中、皆デパートの中へと入って行った。

 そしてすぐにある素材専門店には、いろんなあらゆる素材が展示され、売られていた。

 基本、手軽に入手出来る低レベルモンスターからの素材から、見た事もない素材までと様々だ。

 四人が入店するなり、一人の女性がすぐに見た目だけで、素材を売りに来たと判断して、検品室へと案内した。


「はい、換金のお客様ですね~! こちらの3番のお部屋へどうぞ!!」


 言われて、周囲を見渡してみると、検品室はザッと8部屋あった。

 ひとまず案内されるまま部屋に入ると、三畳程の広さで真ん中に幅広いテーブルが、置いてあった。

 するといつの間に一緒に部屋へ入ったのか、検品者である中年の男二人がそのテーブルの、向こう側へと座った。

 長身の男に、中肉中背の男だ。


「では、素材をテーブルにお出しください」


 言われるがまま、四人は背負って来たリュックを下ろして、中身をテーブルへと出していく。

 それまで無関心そうな表情をしていた、検品者二人の顔が見る見る変わっていった。

 それもそうだろう。

 そう簡単には上陸出来ないオリーブ大陸からの、獲物である。

 紛れもないレア素材ばかりだ。


「一体、これらはどこで……」


 これに、フェリオとフィリップとレオノールの三人は、声を揃えて言った。


「オリーブ大陸です♪」




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