story,Ⅵ:鬼ごっこ
黒い翼を持つレイブンと、獣耳に尻尾を持つコヨーテは、掛け声と共にパッとその場から離れて逃走を開始した。
思わず戸惑った四人だったが、先に動いたのはレオノール・クインだった。
これを見て、フェリオ・ジェラルディンも後に続く。
「待ちやがれ、オルァー!!」
「そらそら~! 捕まえちゃうぞぉ~!!」
これに、レイブンとコヨーテはキャッキャとはしゃぎ声を上げ、それぞれから逃げ惑う。
レイブンをレオノールが、コヨーテはフェリオが追いかける。
「どうしようか……」
困った表情を浮かべているフィリップ・ジェラルディンに、ショーン・ギルフォードも苦笑する。
「どちらにせよ、捕まえてしまわないと上の階には、行けないみたいですから」
ショーンの言葉と目線に、フィリップもその先へ目をやると上に伸びる階段の先が、白亜の蓋で塞がっているではないか。
「これは確かに……そのようだね」
フィリップは嘆息を吐く。
しかしすぐに、フェリオの声が飛んで来た。
「そっち行ったよお兄ちゃん! 早く捕まえて!!」
「え!?」
これに振り向くと、彼の方へコヨーテが逃げて来ているではないか。
「よっ、よし!!」
フィリップは言いながら、両足で踏ん張ると両手を広げた。
速度的には、一般的な幼児と変わらない速度である。
これなら、彼でも捕まえるのは容易だろう。
4m、3m、2mと、フィリップめがけて突進してくるコヨーテ。
そして、ついに目の前まで来た。
フィリップは、広げていた両手を閉じる。
「捕まえ──たっ!?」
直後、目前から姿を消すコヨーテ。
フィリップが気付いた時には、彼の頭上をコヨーテは飛び越えていた。
「そ、そんな!?」
フィリップは、口をあんぐりさせ、頭上を見上げる。
しかしコヨーテの着地点には、ショーンが立ちはだかっていた。
「逃がしません──よ!?」
ショーンも両手を伸ばしたが、その時にはコヨーテは大きくバックジャンプして、それから逃れていた。
「そう簡単には、捕まんないよ~! おじさん達♪」
コヨーテは走りながら、アッカンベーをして見せると、顔を正面に戻して走り去って行った。
「おじさん……」
愕然としながら、呟くフィリップ。
「もぉ~っ! 何やってんだよ二人揃って! 動きが鈍いからおじさん呼ばわりされるんだよ!!」
フェリオが、フィリップとショーンの前を駆け抜けながら文句を述べ、去って行った。
「おじさんとは……頂けませんねぇ」
そう呟いたのは、ショーンだった。
「フィルはレイブンを。私はコヨーテを追いかけます」
「え?」
フィリップが振り向いた時には、既にショーンは走り去ってしまっていた。
「えっ、えっ! ええー!?」
フィリップは狼狽しながら、顔をあちらこちらと向けると、嘆息を吐いた。
「仕方ない。参加するか……」
そうしてフィリップは、レオノールが追い掛け回しているレイブンの方へと、向かった。
「クッソー! ちょこまかしやがって!!」
レオノールの両手が何度も、空振っている様子が見て取れる。
「レオノール~! 僕も手伝うよ!!」
「ああ! 頼む!!」
フィリップからの声に、レオノールは返事する。
そして改めて、レオノールと一緒にはさみうちにしようと、フィリップはレイブンめがけて手を伸ばしたが。
「キャア!!」
突如レイブンは飛び上がり、翼を羽ばたかせた。
「わぁっ!?」
「なぁっ!?」
フィリップとレオノールは、声を上げると共に互いにぶつかってしまった。
フィリップの方が20cm以上も背が高いので、レオノールは転倒してしまったが、彼も細マッチョな彼女の突進に堪らず、転倒した。
そんな二人の頭上で、レイブンが安堵の息を吐いていた。
「ふぅ。危ない、危ない☆」
「イテテテ……」とレオノール。
「イタタタ……」とフィリップ。
「ご、ごめんレオノール。大丈夫?」
「ああ。問題ねぇ。ただ……」
心配するフィリップに答えてから、レオノールは尻餅を突いた姿勢のまま、頭上を見上げた。
「おい、てめぇ! 降りて来い!! 飛ぶなんて卑怯だろう!!」
こぶしを振り上げながら、抗議するレオノール。
「そんなことないよぉ~。あたし達も言ったはずだよ? “どんな手段を使ってでも構わない”って。だからあたし達も、どんな手段を使ってでも逃げるのよ☆」
レイブンは翼を羽ばたかせ、一定飛空しながらキャハハと面白そうに笑った。
「あのガキ……調子に乗りやがって」
レオノールは立ち上がり、グッと腰を沈み込ませると、頭上のレイブンめがけて大きく跳躍した。
しかし当然ながら、そんな彼女の手からヒョイと、レイブンは横へと避けた。
「く……っ!」
空中だと、下降する重力のおかげで左右への動きは、不可能である。
呆気なくレオノールは、手ぶらのまま着地した。
「チクショウ……このままじゃ、埒があかねぇ……!」
だがその時、何者かの詠唱が聞こえてきた。
「野を駆ける素早き者よ。風とならん。──ウィンドチーター!!」
これにより、レオノールの頭から足の爪先まで、グリーンの光が渦巻いた。
フィリップによる、スピードアップの魔法だ。
「よぅし! 気が利くぜフィル! 次こそあのガキ、捕まえてやらぁ!!」
レオノールは意気込むと、空中を飛び回って逃げるレイブンを、凄いスピードで追いかけて行った。
「じゃあ、今度はリオとショーンへも、スピードアップの魔法をかけるかな」
フィリップはレオノールを見送ると、遠くでコヨーテを追い掛け回している、フェリオとショーンの姿を確認してから、二人へも魔法を放った。
これに気付いたショーンが、一度足を止めると言った。
「では、せっかくなのでもっと身軽に、なりましょうかねぇ」
そうしてショーンは、背負っている英雄の大剣を手に取ると、それを床へと置き、穿いていた靴も脱いで床へと放った。
直後、ドスドスンと音が響く。
「え? そんなに重い靴を履いてたの!? ショーンは!」
これに、フィリップは驚愕する。
「それでは、本気で参りますよ!」
ショーンは言うや否や、裸足で床を力強く蹴り上げた。
いつもお読み頂き心から感謝致します。
もし何かしらアドバイスがありましたら、ご遠慮なくお申し付けください。
執筆活動の良き参考にさせて頂きます。
今後とも、どうぞ宜しくお願いします。
緋宮




