表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第四章:レアアイテムハント編
21/172

story,Ⅶ:思わぬ急接近



 午前中に山を越え、この廃墟と化しているホウセンカ村に到着し、モンスターを一掃してからもうとっくに、西日が差し始めていた。


「今から、ハイビスカス塔を目指しても、半分も行かないうちに夜になっちゃうだろうね」


「そうですね……今日のところはここで一晩過ごし、早朝に出立するのが良いと思われます」


 フィリップ・ジェラルディンの発言に、ショーン・ギルフォードは力アップ効果のあるリストバンドになっている、腕時計を覗き込んでから答える。


「そういや、さっき裂けた床の間に、これが落ちていたんだけれど……」


 フェリオ・ジェラルディンが言いながら、半ズボンのポケットから丸い輪っかを取り出した。


「ん? そりゃ、バングルじゃねぇか」


「もしかして、先程のデビルアイの、ドロップアイテムかも知れませんね」


 レオノール・クインは、フェリオからバングルを受け取ると、彼女のその手をショーンが覗き込んできた。

 銀色の素材にエメラルドグリーンのラインが二本、そのバングルを一周する形で刻まれていて、更に同じく0.5mm程のエメラルド宝石の小粒が三つ、並んで埋め込まれている。


「どんなバングルなのか、調べてみましょう」


 ショーンは言うと、自分の荷物から2cm幅の、手の平サイズをした書物を取り出した。


「何それ? ずっと持ち歩いていたの?」


 フィリップが、彼へ声を掛ける。


「ええ。旅する上で、こうしたドロップアイテムを手にする機会が増えるだろうと思い、購入しておいたのです」


 ショーンは答えてから、その場で床の上へ直座りした。

 その本には、“良く分かるドロップアイテムの全て”なる題名が、書かれている。

 全部で256pになる、その書物をパラパラとめくっていく、ショーン。


「じゃあ、僕らは夜を過ごせる為に、必要そうな物を改めて家探ししてくるから、そのバングル預けておくよ。行こう、リオ」


「うん!」


 こうしてジェラルディン兄妹は、ショーンとレオノールをその場に残して行ってしまった。

 見比べやすいように、レオノールは手に持ったバングルを本の隣に添えつつ、ショーンがページをめくる本を隣で一緒に、覗き込んでいた。

 

 しかし、256pのドロップアイテムがあるのを、その書物の著者はよく調べたものだ。

 世の中、専門的な本を書く為に、自らの足で冒険する作者は少なくない。


 ショーンが、真ん中辺りのページを開いた時。


「お! あった!! これじゃね!?」


 書物に掲載されている、バングルのリアルなイラストと一致する。

 そこには、“自動MP回復効果”と書かれてあった。


「これは便利な物を拾いましたね」


「ああ! リオかフィル行きだな!」


 レオノールが嬉々とする。

 これに、クスッと小さくショーンが笑った。


「ん? 何だよ? 何かおかしかったか?」


「いえ……。自分の物にはならなくとも、あなたは自分の事のように喜ばれるのだと、微笑ましくて」

 

 そう言ってショーンは、自分と顔がくっ付きそうな距離に顔を近付けている、レオノールへと振り向いた。

 ドキッとするレオノール。


「そんな貴女がとても、可愛らしく思えまして」


 ショーンは優しく微笑みながら、淑やかな声で彼女へと囁きかける。


「なっ、な、何だよ、それ」


「さて。何でしょうね……」


 紅潮し、すっかり戸惑うレオノールへ、ショーンは囁くと少しだけ、顔を動かした。

 二人の口唇が、重なる。

 3秒ほどして、口唇をそっと離すショーン。


「こういうのも、悪くはないでしょう……? “ノール”」


「え……?」


 ピクンと小さく、肩を弾ませるレオノール。


「貴女の事です。ノール」


「ノール……」


 ショーンの言葉を繰り返して、レオノールは呟く。

 彼女は、心臓のドキドキが止まらない。

 そんな彼女の様子に、ふと再度ショーンは微笑むと、パタンと本を閉じた。

 同時に、ジェラルディン兄妹が戻って来る。


「超便利な物、見繕って来たよ~! こういう時、廃屋も悪くないって思えちゃう♪」


 フェリオが、声を弾ませる。


「何か、分かったー? そのバングル!」


 フィリップは、両手に入手した物を抱えて、声をかけた。

 見ると、片手に本、もう片手にバングルを持ったショーンが、ニコニコ笑顔を浮かべていた。


「ええ。分かりましたよ」


 レオノールは、彼から1m程離れ、こちらへ背を向け何やらモジモジしている。


「何だった?」


「これは“自動MP回復”効果があるバングルでした」


 フェリオの問いかけに、ショーンが冷静な様子で答えた。

 しかし、フィリップはレオノールの様子がおかしい事に、すぐさま気付く。

 だが、何も気付いていないフェリオが、再度声を弾ませる。


「ヤッタね! フィルお兄ちゃん!」


「これは普段、戦闘で一番魔法を多く使用する、リオが身に付けるといいよ」


「ホントに!? わぁい!」


 喜ぶフェリオへと、ショーンは笑顔で持っていたバングルを、手渡す。


「それで、何を入手してきましたか?」


「カセットコンロとボンベ。そしてランプや鍋、フライパンだよ」


「これは、料理のレパートリーも増えますね」


 側にあるテーブルに、それら一式が入ったカゴを置くフィリップの動きを追って、カゴの中身へ目を向けるショーン。


「ショーン。なるべくマズ~い料理を作って。じゃあないとまた、リオの胃袋が調子に乗っちゃうから」


「そうですね。上手くバランス取ってお作りしましょう」


「えー! 酷いや二人とも!! ねぇ!? レオノール!!」


 フェリオから、名前を呼ばれてビクッと上半身を弾ませるとレオノールは、至って普段通りに対応する。


「ま、まぁ、俺ァ食えりゃあ、それでいいかな!!」


「では、早速調理に取りかかりましょう」


 そうして何事もなかったかのようにして、ショーンはその場から立ち上がった。





「本当に、つくづく思わせられるのですが……リオの食欲には、感服致しますね。軽く豚一頭分は、平らげましたよ」


 食材で一杯だったが、今ではペタンコになった荷物袋を、ポンポンと手で叩いてみせるショーン・ギルフォードの発言に、フィリップ・ジェラルディンは苦笑する。


「この子の胃袋は、亜空間だから」

 

 ソファーに座る、自分の膝を枕に眠っているフェリオ・ジェラルディンの、大食いした割りには目立つ程膨れていない腹を、フィリップは優しく擦る。


「んー、まだ、食べ足りない……ムニャムニャ……」


 このフェリオの寝言に、思わず吹き出すフィリップとショーン。

 その場にいたレオノール・クインも、これに付き合ったが所詮は作り笑いでしかなく、正直脳内はショーンとのキスで頭が一杯だった。

 確かに筋肉ムキムキ細マッチョで、男言葉を使う好戦的な、武道格闘家のレオノールだが、それでも18歳の乙女なのだ。

 例え、フィリップからは女センサーが働かなくとも、彼女が男に恋する権利はある。

 最初のきっかけは、もしかしたら自分の思い違いかも知れないと、すぐに普段通りに戻れたレオノールだったが、さすがに今回のキスは決定的だった。

 これは、自分の一方的な恋心かとも思えたが、まさかショーンの方からキスしてくるとは、つまり彼もレオノールへ想いがあると言うことの、表れだろう。

 そう思うとつい、興奮せずにはいられないレオノールだったが、ここはフィリップの手前、何事もなかった雰囲気を通すべく、彼女は懸命に努力していた。


「さて。部屋割りはどうする? 僕は、いつも一緒に寝たがるリオがいるから、やっぱり僕ら兄妹と……ショーンとレオノールにする?」


 フィリップの発言に、思わずレオノールがテーブルを挟んだ向かいのソファーから、勢い良く立ち上がった。


「バッ! バカ! 何言ってやがる! おっ、俺はこれでも女だぞ!? 男と同室なんてまだ早……、いや、こっ、個室にしてもらいたい!!」


「え? でも個人だけじゃあ、もし万が一何かあった時危険じゃ……」


 フィリップは、立ち上がった向かいの彼女を、見上げる。


「だだだっ、大丈夫だって! この俺だぞ!? モンスターに襲われても一発でのしてやらぁ!!」


 ……どうにも、紅潮した顔と動揺した口調は、隠し切れない。

 これに、クスッと小さく笑うとフィリップは、首肯した。


「レオノールがそう言うのであれば。でも、何かあったら一人だけで対処しようとはせず、必ず僕らを呼ぶこと。いいかい?」


「あ、ああっ!!」


 だが、あいにく今いるこの家は、部屋が二つしかない。

 すると、ショーンも腰を上げた。


「私は、別の部屋に寝泊りしましょう。もう一つの部屋を、貴女が使いなさい。ノール」


 その呼び方に、大きく胸が高鳴るレオノール。


「ひ、人前でそんな! いや、何でもない! じゃあ、俺も寝る!!」


 レオノールは、あからさまに動揺するや、一つの部屋へと足早に行ってしまった。


「クスクス……分かりやすい性格してるよ。レオノールは。じゃあ、僕も部屋に行くよ。全く。ショーンも隅に置けないんだから」


「そうですか?」


 フィリップから指摘され、ショーンは落ち着き払った笑顔で答える。


「では、私は左隣の民家にいますから」


「了解。おやすみ」


「ええ。おやすみなさい」


 こうしてフィリップは、眠っているフェリオを抱き上げると、部屋へと姿を消した。

 ショーンは、下唇を人差し指でそっと撫でると、レオノールのいる部屋へ顔を向け、小さな声で呟いた。


「おやすみなさい。ノール……」





 翌朝、朝食を終えて四人は、ハイビスカス塔へと出発した。


「ねぇ、レオノール。目が赤いけど、昨夜はちゃんと眠れたの?」


 フェリオに指摘され、レオノールは昨夜より落ち着いた様子で答える。


「ん? あ、ああ。眠れたぜ? 目が痒かったから、擦り過ぎたせいだろう」


 余裕の笑顔を、レオノールは見せたが。

 もしかしたら、死ぬんじゃないかと思えたくらい、心臓が早鐘を打ち満足に眠れていないのが、正解だった。


「無理をせず、頑張りすぎないでくださいね。何かあれば、私が貴女の分まで頑張りますから」


「ボクもだよ!」


 まだ何も気付いていないフェリオも、ショーンの言葉に続く。


「おう! サンキューな!」


 ……危ない危ない。フェリオの発言がなければ、また動揺してしまうところだった。


 レオノールは、そっと自分の胸を撫で下ろした。

 ハイビスカス塔の方角は、西へ真っ直ぐ行った所にある。

 道すがら遭遇する、雑魚モンスターを倒しながら、一行は前進した。

 おかげで、昨晩と今朝、フェリオが食べ尽くした食材が、すぐにまた荷物袋を一杯にした。

 

 本日も晴れ。

 爽やかな風が吹く平原を、太陽光が穏やかに照っている。

 正午になる頃には、何とか無事にハイビスカス塔へと、到着する事が出来た。


「よーっし! 待ってろよ、レアアイテム!!」


 レオノールは塔を前にして、改めて気合いを入れ直すのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ