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双極の旅人~行方不明の魔王と死せる勇者の顛末~  作者: 緋宮 咲梗
第四章:レアアイテムハント編
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story,Ⅴ:村長の家



 引き続き、家探しをする一行の前に、新たなモンスターが出現した。

 青白い肌の生首(・・)で、血のように真っ赤なざんばら髪をしていて、60cmはあろうかという大きな耳を翼のように羽ばたかせながら空を飛んでいる姿が、何ともグロテスクだ。


「あれは、チョンチョンというモンスターですね。一種の吸血鬼です」


「吸血鬼!?」


 ショーン・ギルフォードの説明に、みんな一斉に声を揃える。


「ただ、あのチョンチョンの場合は人の体内に入り込んで、内側から吸血する“寄生型”です」


「属性は?」


「闇です」


 フィリップ・ジェラルディンの質問に、サラリと答えるショーン。


「だったら、光属性の武器はまだ、効果あるな」


 レオノール・クインは言うと、自分の武器であるドラゴンナックルの手首両サイドに付いている、メタリックなボタンを押した。

 すると、手の甲部分に引っ込んでいた鋭い爪が三本、飛び出す。


「飛行タイプだから、物理攻撃が届けばいいケド」


 フェリオ・ジェラルディンは言うと、攻撃型光魔法を口走る。


「光よ、我に力を!!」


 手中に出現した光球を、頭上にいるチョンチョンへとぶつける。

 見事に命中したが、短くゲッと呻いただけですぐには倒れない。


「思っていたより、体力あるね。あいつ……」


 引き続き、光攻撃をすべく手を構えるフェリオ。

 しかしここで、チョンチョンは奇声を発した。

 金属を引っ搔くような声だ。

 するとどこからともなく、もう一体のチョンチョンが飛んで来た。


「チッ! 仲間を呼びやがった。早いうちに片付けねぇと」


 言うや否や、レオノールは深く腰を落とし、大きく跳躍した。

 そして爪で、最初のチョンチョンを切り付ける。

 爪攻撃を受けてチョンチョンは、奇声を上げながら地上へ落下し、絶命した。

 その奇声で、更にもう一体のチョンチョンが、姿を現す。


「これは……奇声を上げさせずに倒さないと、限がないよ」


 二体になったチョンチョンを見上げながら、フィリップが険しい表情で述べる。


「数さえ増やさなければ、大した敵ではありません。任せてください」


 ショーンは言い残すと、自分より離れているチョンチョンへと駆け出しがてら、大きく跳躍。

 英雄の大剣を振りかぶると、チョンチョンを一刀両断した。

 ど真ん中から切り離されたチョンチョンは、声を発することも出来ず、地面に落下する。

 だが、残るもう一体のチョンチョンが、この中では一番弱そうだと判断してフィリップへと、襲いかかる。


「く……っ、この!!」


 フィリップは、杖を振り回し何とか追い払おうと、必死だ。


「この! お兄ちゃんに何を!!」


「そうは問屋が卸さねぇぜ!!」


 フェリオとレオノールが、残ったチョンチョンに攻撃を仕掛ける。


「光よ! 我に力を!!」


「粉砕撃!!」


 二人から、同時に攻撃を受けてさすがに体力の高いチョンチョンも、あっと言う間に力尽きた。


「フゥ……危なかった。ありがとうリオ、レオノール」


「ま、この調子でこういったザコモンスターが、廃墟に漂ってると解釈出来るな」


 レオノールは言いながら、ドラゴンナックルの爪を引っ込める。


「さぁ、家探しを続けましょう」


 ショーンも背後へと、大剣を戻す。

 気を取り直して、まだ見ていない家へと足を運んだ。

 そうこうしている内に、更にお金を入手し、約15000ラメーにもなった。


「フィルお兄ちゃん。お金がこんなに……!!」


「ありがたい、ありがたい……!!」


 感動している兄妹に、レオノールが呆れる。


「貧乏旅人、ここに極まりだな……」


 それに、ショーンも苦笑する。

 勿論、その他のアイテムも入手出来た。


「やはり、闇属性のモンスターが出現するだけに、まだこの村が健在だった頃はそれを意識してか、光系の魔法札がある空き家が多いですね」


「俺ら、物理攻撃を主とする立場にとっては、ありがたいことではあるけどな」


 入手した魔法札は、当然ながら魔法の使えないレオノールとショーンの二人が、それぞれ平等に分けて所持した。

 こうして、ほとんどの空き家を巡ったが、唯一最後に残しておいた空き家があった。


「さて、では残るは……」


「他の家よりも少し大きな、あの家だね……」


 フィリップとフェリオが口にする。


「おそらくは、元々村長だった奴の家だな」


「いかにも、この廃墟の主が潜んでいそうですね」


 レオノールとショーンも、その家を前にして言う。

 その廃屋は、一階建てではあったが他の家よりも、広い面積だった。

 大人の胸部ほどの高さをした、両開きであろう金属性の門は錆びて、片方が傾いている。

 周囲には、雑草が生い茂っていた。

 静まり返る、その廃屋を前にフェリオが、その門へ手をかけて言った。


「さぁ。いざ、入門!!」


 門を押し開けると、不気味な軋み音が辺りに響き渡った。

 錆びれた門を抜け、両開きのドアをそれぞれ、レオノール・クインとショーン・ギルフォードがゆっくりと押し開ける。

 甲高い蝶番(ちょうつがい)の軋み音が、再度周囲に響き渡る。

 これにレオノールがぼやいた。


「いちいち扉開く度に音が鳴ってちゃ、忍び込む意味ねぇぜ!」


 こうして開き直ったレオノールは、途中までの扉を派手に蹴り開けた。

 窓から、太陽光が差し込んでいたが、それでも中は薄暗かった。

 人の気配に、長期に渡って閉じ込められていた空気が、息を吹き返したかのように揺らぐ。

 足元で、ドブネズミとゴキブリが這い回る。

 それに、フィリップ・ジェラルディンがキャアと叫んで、片足を上げショーンにしがみついた。


「……生憎、私は男性と抱き合う趣味は、持ち合わせていないのですが」


「むっ、むむむむ、虫が……っ!!」


「ゴキブリくらいで騒ぐなよ。俺が行く先々で踏み潰してってやるから」

 

 レオノールが、呆れながら嘆息吐く。

 四人は周囲に注意しつつ、探索する。

 歩く度に、床板までもが大きく軋む。

 すると、羽音と共にビッグバットが出現した。


「大蝙蝠……! 可愛い……!!」


「そりゃ、いい目の保養になったな! ゆっくり愛でてる場合じゃねぇぜ。ギルフォードさんよ!」


 頬を緩ませているショーンへと、レオノールは吐き捨てると指にはめていたナックルから、爪を出してビッグバットを跳躍しながら切り倒していく。

 幸いにも天井があった為、飛行する高さが限られ彼女にとって厄介な飛行型モンスターではなかった。


「光よ、拡散せよ!」


 フィリップは言って、ロッドステッキを真上に突き上げると、出現した白い光が眩く閃光し屋内全てを、駆け巡った。

 当然、室内をも明るく照らし出す。

 この光攻撃を受け、屋内のあちらこちらにいたビッグバットが次々と床へ落下し、倒されていった。


「フィルお兄ちゃん、光属性の攻撃魔法、入手したんだね!」


「今まで、まだレベルに達していなかったけど、ようやく使えるようになったんだよ」


 喜ぶ妹のフェリオ・ジェラルディンに、フィリップはニッコリと笑顔を見せる。

 フェリオの光攻撃は単体だが、フィリップは複数体へが可能になった。

 そうして先を進むと、一際大きな扉の前へ出た。


「ここは……ダイニング、かな?」


「みんな、気を付けて。邪悪な気配がする」


 フェリオの言葉に、フィリップが緊張した様子で述べる。

 レオノールとショーンは、顔を見合わせると互いに首肯してから二人同時、ドアを蹴り開けた。

 すると、そこには何もいなかった。

 ──いや。羽音と共に、頭上から風を感じた。

 みんな一斉に見上げると、黒い目蓋(まぶた)を持つ巨大な一つ目に、蝙蝠の羽が付いた人間と同じ大きさのモンスターが、一定飛空しながらこちらを見つめていた。


「デカい目玉!!」


「あれは、デビルアイというモンスターです。手強いので皆さん、気を付けてください!」


 驚愕するフェリオの発言に、ショーンが簡略的に説明する。


「ったく! チョンチョンと言い、デビルアイと言い、ここにゃあグロいモンスターばかりだな!!」


「しかも、飛行タイプがほとんど」


 拳を構えるレオノールと、デビルアイから少し距離を取りながら間合いを確認する、フィリップ。


「ひとまず、四方に散ってください! デビルアイの得意技は──」


 ショーンの言葉が終わらない内に、デビルアイがフィリップへと振り向き、バチンと瞬きした。

 直後、赤い輪っかが目から放たれたかと思うと、フィリップを中心に通過した。


「フィルお兄ちゃん!?」


 フェリオが、兄の様子を窺う。

 しばらくして。


「──ぅわああぁぁぁぁぁーっ!!」


 フィリップが顔面蒼白となり、持っていたロッドステッキをがむしゃらに振り回し始めた。


「どうしたフィル!! しっかりしろ!!」


 レオノールが声をかけるが、フィリップの動きは止まらない。


「デビルアイの得意技は、当人の恐怖対象の幻覚を見せて、混乱させる事、ですが……」

 

 改めて、ショーンが言葉の続きを口にする。


「ほぅ。フィルにとっての恐怖対象を、ってか」


 これを聞いてか、レオノールは冷静になる。


「うあぁぁ……っ!! あああ……──っっ!!」


 とうとう、床にへばり付いて背を丸くして縮こまってしまうフィリップを、みんな思いの他落ち着いた様子で見ていた。

 ついに、フィリップはおとなしくなったかと思うと、青い髪色が薄く褪せていく。

 やがて彼は、ゆっくりとした動きで立ち上がり、派手に白いマントを背後へ振り払った。


「──この俺様を呼んだのは、貴様か? デビルアイ」


 みんなの予想通り、フィリップの裏人格が出現した。

 高慢な笑みを浮かべる彼へ、フェリオが笑顔で声をかける。


「ようこそ。裏フィルお兄ちゃん♪」


「まぁ、そういうことです。では皆さん、かかりましょう」


 ショーンも苦笑すると、大剣を構えた。


「いい刺激になるぜ。フィリップ」


 レオノールは言うと、ドラゴンナックルから爪を飛び出させる。


「どうやら貴様らも、この俺様が必要だったらしいな」


 言うとフィリップは、顎を上げてフフンと鼻を鳴らした。


いつも読んで頂いて本当にありがとうございます!

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