デルニエール攻防戦 魔王軍サイド③ 下
魔族が魔力を纏う行為は、人間が強化魔法を用いることによく似ている。体内の魔力を活性化させることで、膂力を増強し、感覚を鋭敏化し、身体能力を底上げする。自らの肉体を戦闘に特化させるのだ。
そもそも魔族は多種族に比べて遥かに頑丈かつ長寿だ。その所以は、彼らの有する膨大な魔力にある。魔力は常に体内を循環し、その恩恵を与え続けるのだ。
魔力とは即ちマナ。マナとは全ての生命の根源である。内なる膨大な魔力は、強靭な生命力と同義なのだ。
「こけおどしだ。この能器将軍に、そのような虚勢は通用せん!」
先程の一合で、お互いの力量は大方把握したはずだ。彼はルークの実力を知ってなお、十分に勝機があると踏んでいるようだった。
少しは楽しめそうだ。ルークの心はほんの少しの笑みを浮かべる。
両者はどちらからともなく愛馬を走らせ、今一度武器を打ち合わせた。
戦いは苛烈を極めた。
一合打ち合わす度、その衝撃は天を衝き大地を震わせる。全速力で駆け続ける馬の上で至近距離を保ちながらの接近戦。
ルークは力と速さをもって真っ向から斬撃を繰り出す。身の丈ほどの大剣を片手で軽々と振り回し、一向に疲れを見せない。
対するハーフェイはバルディッシュを巧みに操り、ルークの剣を捌いていく。単純な力で及ばずとも、捌きの技術は一流だ。強く速いだけの攻撃を容易くいなしている。一瞬の隙をついて繰り出される鋭い反撃が、何度かルークの鎧を掠めていった。驚くべきは、その技を重厚長大なバルディッシュで実行する技量だ。
「いい腕だ」
間断なき剣戟の中、ルークは称賛を嘯く。
能器将軍の名に恥じぬ技巧。ハーフェイは紛れもなく天才であった。若くして七将軍に名を連ねる腕前は伊達ではない。
ルークとて、彼を当世の英雄であると認めるになんら吝かではなかった。
「だが、まだ足りん」
「ほざけ!」
無造作に薙いだ大剣はやはりハーフェイに受け流され、ルークは致命的な隙を晒してしまう。
「もらったぞ!」
がら空きの胴にバルディッシュが迫る。いかに鎧に守られていようと、直撃すれば重傷は避けられない。一騎討ちにおいてそれは敗北を意味する。
「死ねぇッ!」
無論そのようなことにはならない。紙片でも摘まむかのように、ルークが手綱を握ったままバルディッシュの先端を受け止めたからだ。
「なッ――」
これにはハーフェイも虚を衝かれた。たった二本の指に挟まれたバルディッシュは岩石に突き刺さったが如く、押そうが引こうがびくともしない。
視線が交錯する。両者の眼光が放つ圧力には、大きな差が生まれていた。




