Episode15 - 救援してみよう
ごめんなさい、予約投稿忘れてました
石垣班担当、高級住宅地エリア。
出現敵性存在……風を操る異能を持った3級ゾンビ。視認される前に近付き、首を刎ね状況終了。
森川班担当、巨大ショッピングモールエリア。
出現敵性存在……3級の姿はなし。複数のレギオンから成る大規模なゾンビの群れ。【液体操作】によって流し潰し状況終了。
稲山班担当、住宅地エリア。
出現敵性存在……土を操る異能を持った3級ゾンビ。水によって土を押し流しながら、刀によって両断し状況終了。
「次が最後、で合ってる?五十嵐」
「合ってます。最後は三峰さんのエリアですね」
「もう疲れたわよぉー……」
「白星ちゃん何もしてないでしょうに」
行動を開始してから、約30分。
1つのエリアを10分程度で片づける事で、要救助者を助け出せる状況を素早く作り続けている……のだが。
……ちょっと見せ過ぎかなぁ、力。でも仕方ないっちゃ仕方ないか。
佐藤元首相が私達に付けてくれた転移能力者の目に、状況終了と告げる度に恐怖が混じっていくのが分かってしまう。
それ以外にも、通信内で初めに反応した石垣班以外は私の力量を見て……火征の様に明確に恐怖を浮かべる者がいた。
圧倒的な力を持った者がどういう扱いをされるかなんてものは、何時だって変わらない。ファンタジー然り、リアル然りだ。故に、この扱い自体は理解出来ていた。とは言え、少しは精神にくるのも事実。
「サクっと三峰さんの所も終わらせて、隠居しよう。そうしよう」
「出来ますかね……?」
「無理じゃあない?佐藤さんや三峰さんには、私達の居住エリアの場所知られちゃってるでしょう?」
「そこら辺は、ほら。居留守とか」
「言ってる事が小学生ですよ、柊先輩」
良いじゃないか、小学生メンタルで。彼らは時にして大人になってしまった私達よりも物事の本質を突いた答えを出してくれるのだから。
と、準備が終わったのか、転移能力者がこちらへと声を掛けてきたのに応えつつ。
私は地面付近へと視線を向ける。そこには、
「大丈夫です?火征さん達」
「もん、だいっねぇよ……ッ!」
「……普通に、動けそうに無いならここで休んでてもらって大丈夫ですよ?一応、救助に関しても私達だけで回るでしょうし」
ほぼ満身創痍となった、火征達のチームの姿があった。
私達の殲滅ペースに合わせ、救助と移動を行ってきたのだ。インターバルがあるとはいえ、溜まっていく疲労には勝てなかったのだろう。
私も動けない人を危険な場所へと連れていくほど鬼ではない。
……無理そうだし、私から言っちゃおう。
転移能力者に、火征達は置いていく旨を伝えようと身体の向きを変えた瞬間。
肩を強い力で掴まれた。……火征だ。
「待て、よ。……ふぅー……んんッ、大丈夫だ。いける。付いていかせろ」
「でも」
「やらせてくれ。他の連中みてぇに、助けてもらっただけには……したくねぇ」
「……まぁ、良いですけど」
正直、意地か何かだろう。立ったのは火征1人。他のメンバーは動けそうにないし……この場で次のエリアに行く意志を見せているのも彼1人。
どうして彼がそこまで私達に付いてくる事を望んでいるのかは分からない。だが、彼自身が行くというなら止める理由がないのも確かだ。
……変に良い人ぶろうとしないでほしいんだけどね。うちには音鳴ちゃんとか居るしさ。
彼が避難所でやってきた事は居住エリアに居る音鳴達から聞いている。
全てが全て事実であるとは考えないが、十中八九それが事実であろう事も分かっている。
だからこそ、伝え聞いていた彼の姿と今の彼の姿が結びつかず……少しばかり混乱していた。
とは言え、今ここで考えるべきはそれではない。
「それでは、三峰班担当……駅前エリアへと転移開始します」
一瞬の浮遊感と共に、次の瞬間。私の視界に映ったのは……崩壊した駅前の姿だった。
建物は崩落し、道路は割れ、何らかの死体だったであろう破片がそこらに散らばっている。現代、現実で地獄を表現するならば……このような光景になるのだろうな、と何処か冷静になって受け止める自分がそこには居た。
……っとと、違う。まず見るべきは景色じゃなくて!
一瞬、呆けてしまった頭を横に軽く振ってから。私は救助対象である三峰達のメンバーを探し……すぐに見つける事が出来た。
建物の瓦礫に隠れるようにして、三峰がこちらに視線を送っていたからだ。
五十嵐、リン達、そして火征にそちらへと行くように指示をした後、
「で、白星ちゃん。ポリタンクとか全部出してもらっていい?」
「……やっぱりやるの?私、巻き込まれるの嫌なのだけれど……」
「逃げないって言うなら外してあげる。というか、今逃げたら目撃者が多いから、絶対情報は回ってくると思うけどね?」
「逃げないわよ。お姉さんの所、居心地良いし」
水の入ったポリタンク等、事前に準備し白星の異能の中に仕舞いこんでいた全ての物資を取り出してもらい。
そのまま白星のチョーカーを外してから、五十嵐の方へと向かって放り投げておく。
「きゃっ、柊先輩?」
「ごめんごめん。とりあえず、それは五十嵐が白星ちゃんに着けておいてよ。ちょっと……流石に巻き込みそうだし」
「……やるんですか?」
「やらないと、でしょ?」
視線を駅前広場……その中でも、開けている場所へと向ける。
そこには、1体のゾンビが立っていた。
生前着ていたのであろう服は所々破け、血も滲んでいる。恐らくは……大学生くらいの男だ。
だが、それだけであったら今の私は警戒しない。
……角が……2本。
3級ゾンビであれば、1本生えている筈のそれ。しかしながら……目の前のソレには2本、角が生えていた。
それが意味する事はただ1つ。
「4級ゾンビなんて、この場で私以外に誰が相手出来るのって話だよ」
4級。
異能を操るだけでも厄介だった3級の、更に上。前世でも出会った事は無いし、話に聞いたのも一度か二度程度。それだけ希少で……出会った人が少ないか、殺されているかのどちらか。
だからこそ、この状況は少しだけありがたかった。
……動かないでいてくれてるってのは……単に嘗めらてる?いや、そんな知能は無いか。
脳をウイルスにやられているのだ。ゾンビに嘗める嘗めないなんて考える知性が残っている筈もない。
だからこそ、今の……三峰達を救助出来る状況はただの幸運。
4級に動きがあった瞬間、私が相手をし切れるか分からないのだから。
「……ふぅー……とは言え、注目は惹いた方が良いよね」
仕方ない、そう息を吐きながら。
私はこれまで自身に架していた制限を1つ外す事を決めた。
「全力で、とは言えないけどさ」
それが意味するのは……異能の全力行使の解禁だ。
今までは出来る限り五十嵐の異能レベルに合わせた出力までしか使ってこなかったソレ。しかしながら……相手が相手だ。様子見はしていくが、攻防の核となる【液体操作】は私に出来る全力で使わねば……最悪、私が殺される。
故に、
「技名とか決めてないから恰好付かないんだけど……こういうの、名前が無い方が逆に格好良かったりしない?」
指を弾く。その瞬間、私の周囲の水源が間欠泉のように噴き上がり周囲を水で満たしていく。
その光景に驚き、足を止めようとした五十嵐達を視線で促して。
未だ動きの無い4級に対して刀を構える。
「さ、まだまだ制限の多い私だけど……全開をもってお相手しようか!」
突然のエンカウント。
唐突過ぎる4級との戦闘。だが、ここでやれるのは私しかいないのだから……やり切るだけだ。




