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終末世界でもう一度 ゾンビウイルスで世界は終わりましたが、転生した私は『収納スキル』でスローライフを目指します  作者: 柿の種
第5章 新しい視点を

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Episode12 - 作戦開始してみよう


「では転移を開始します」


 私といつものメンバー、そして火征達の避難所のメンバー達を数人の転移異能持ちが包囲するように囲みながら手のひらをこちらへと向け。

 一瞬の浮遊感と共に、次の瞬間には私達は今回の作戦地域である繁華街……その近くである転移予定ポイントへと転移していた。

……数人、ってのは予想してなかったけど……多分、周りの人は補助する為の人かな?1人でこの大人数を転移させるの難しいだろうし。

 転移した私達が最初に行ったのは、事前に渡されていた通信用の機器の組み立て。

 個人にも小型の通信機器は持たされているものの、本営……元首相達の居る避難所と通信するには通信強度が足りなさすぎる。その為、簡易的ではあるが通信拠点の様なモノを設置する必要がある為だ。


『各員、配置についたようだね。……それでは、この時間をもって暴徒掃討作戦を開始する。生存を第一、作戦の成功を第二に考え行動するように』

『『『応!』』』


 暫くして。通信機器から響き渡った声と共に、私達と火征達のメンバーは繁華街へと移動を開始した。

 と言っても、火征達が先行するように全力で行軍を開始した為に半ば置いて行かれるような形にはなったのだが。


「……追いかけなくていいの?」

「んー、私達は彼らが取り逃した奴らを地道に潰しながらゆっくり行こうか。相手側の戦力が不明な分、慎重になった方が絶対良いからね」

「了解です」

「わふ!」


 とは言え、焦って火征達に追いつくような事をする必要はない。

 そもそもが今回は指定エリア内のゾンビの掃討が目的なのだ。取り逃しは認める訳にはいかないし……こんな作戦に呼ばれるくらいの実力なのだ。3級以上が出てこない限り、彼らも苦戦する事は無いだろう。

 当然、私達も今更2級以下のゾンビに後れを取るような実力ではない。

 時折雑談を交えながら、しかしながら虱潰しにするように火征達の後を追っていくと、


「……っ!……!」

「……ん?何か聞こえませんか?柊先輩」

「そうだね……白星ちゃんは聴こえた?」

「聞こえないわねぇ。2人が聞こえてるって事は……身体強化してるかどうかの差じゃないかしら?」


 微かに、誰かの焦った様な声が聞こえたような気がした。

 これは……悪い予想が当たってしまったのかもしれない。

 私は他の面々と視線を合わせた後、白星を担ぎ上げると共に走り出す。本当だったら置いてった方がいいのかもしれないが、彼女には私から離れられない様にチョーカーを着けさせている都合故だ。

……問題は……どの予想が当たったか、だね。

 予想以上の、火征達でも対処しきれない程の物量のレギオンか。

 それとも、私が少し前に戦った様な3級以上のゾンビか。

 はたまた、それ以外のイレギュラーか。


「ひっ、ひぃい!?き、聞いてねぇよこんな奴!」

「火征さん!逃げましょうよ!?こんなのが居るとか聞いてねぇっすって!」

「馬鹿野郎!ここで退いても追いつかれるのがオチだっつうの!」


 辿り着いた先。

 繁華街の中でも開けた交差点。そこには……地獄の様な光景が広がっていた。

 2色の(・・・)火の粉が舞い、周囲の建物には今も炎が燃え続けている。そしてその中心には……2つの影が立っていた。

 1人は、満身創痍といった風に肩で息をしつつ、傷だらけの身体を動かしている火征。

 そしてもう1つの影は、


「3級か」


 焦点の合っていない瞳を明後日の方向へと向けながらも。

 両の腕を火征の方へと向ける、頭から1本の立派な角が生えたゾンビだ。

 以前、私が住宅地で倒した様な異能持ちの個体であり……見る限り今回の個体は炎を操る異能を持っていると考えた方が良いだろう。

……これは運が良かった(・・・・・・)かな?

 炎を操る、発生させる等の異能であれば……十二分に対処が出来る。寧ろ、変な能力よりも相手をするのは容易だろう。

 なんせ、わんこ達を除いたメンバーは私を含め【液体操作】や収納系異能によって炎への対策をその場その場で用意しやすいのだから。

 とは言え、


「どうするんですか?柊先輩。……お話では、最初は様子見と言ってましたけど」

「流石にこれは……私達が出張った方が良い場面じゃないかしら?お姉さん」

「そうなんだよねぇ……うーん」


 思った以上に急を要する場面に出くわしてしまった、というのが素直な感想だ。

 本当はもう少し……それこそ、ひと昔前の無双系ラノベの様に大量の敵を薙ぎ倒しながら登場、なんて事が出来ればいいな、と考えていたのだが。

 と、私達の会話が聞こえたのだろう。火征と3級の戦闘に巻き込まれまいと逃げ出そうとしていたメンバーの1人がこちらへと気が付いて、


「ッ、おいお前ら!やべぇ敵が居るんだ!早く逃げろッ!!」

「……との事ですが」

「どうするのよ、お姉さん。気が付かれちゃったわよ」


 こちらを心配するような声音で、必死に逃げるよう叫んでくれた。

 当然、そうやって声をあげれば……戦いの中心に居る火征や、3級もこちらに気が付いてしまう。


「チッ!おい早く逃げろッ!!お前らみたいな雑魚じゃ足手まとい――」

『ァあ!』

「――しまッ……!?」


 他のメンバーと同じく、逃げるようにこちらへと促す火征に対し3級ゾンビの行動は早かった。

 今までは火征に向けられて放たれていたのであろう、炎の渦や龍の様にも見える炎を操り私達へと向かって攻撃を仕掛けてきたのだ。

……あぁ、もう!予定通りにはいかないもんだなぁこういうのは!

 流石に攻撃されてしまっては参戦しない訳にはいかない。

 すぐさま白星へと視線を向けると同時、彼女が異能の中から取り出したポリタンクを掴み、


「どっせぇい!」

「『!?』」

「柊先輩、援護します。周囲のゾンビは任せてください」

「お姉さん、とりあえず持ってきた水の……十分の一くらいの量は出しておくから勝手に使って頂戴?足りなかったら言ってくれたら追加で出すから」


 強化した膂力にものを言わせ、炎の渦と龍に向かって放り投げる。

 次の瞬間、ポリタンクが内側から弾け……その内容量の倍以上の水がそれらの攻撃を包むように出現し、炎を一瞬で消してしまった。

……ま、こんなもんだよね。

 【液体操作】によって空気中の水分を集めつつ、ポリタンク内部の水を操る事で瞬間的に大量の水を用意し……その圧倒的質量で迫って来ていた炎を圧し潰しただけの事。

 集められる量にも依るが、これくらいだったら私よりもレベルの低い五十嵐にだって出来る芸当だ。


「真打登場、とか言ってみたりして。どうかな、白星ちゃん?」

「……あほな事言ってないで集中した方がいいんじゃないかしら?ほら、あの角生えてるののヘイトが完全にこっちに向いたみたいよ?」

「げぇ」


 どうやら、自慢の炎を消されたのが気に食わなかったようで。

 角付きはその全身から炎を垂れ流すように発生させながら、こちらへと向かって凄まじい勢いで迫って来ているのが見えていた。

 元々相手をしていた火征も火征で、その後ろから何とか追いかけようとしているものの……全身のダメージが祟ってか上手く身体を動かせていない、。


「白星ちゃんは出来る限りのバリケード作っちゃって。耐火製で……出来る限りその後ろから出ない様に」

「了解、水は被ってもいい?」

「良いよ。操らないようにするから」


 短く、私から一定以上離れる事が出来ない白星にそう伝えると。

 既にほぼ一息の距離まで近づいてきていた3級ゾンビへと向かって駆けだした。

 それと同時、


「火征さーん!コレ、倒しちゃいますけど良いですよね!」

「はぁ!?お前が倒せるのか!?やめておけ!!」

「まぁ見ててくださいよッと!」


 至近距離ならば消されないと思ったのだろうか。

 互いに距離が縮まり、ほぼ格闘戦の距離まで近付いた私に対し。3級ゾンビは我武者羅にこちらへと向かって炎を纏わせた腕を振るい始める。

 凄まじい勢いだ。ただの人間でなくとも、まともに喰らえば致命傷は免れない。

 しかしながら、私は私で普通から逸脱した人間だと自認はしている。


「ッ」


 強化した眼で動きを読み、腕を躱し。

 炎の勢いを【液体操作】によって抑え込み。

 がら空きになってしまっている隙だらけの胴体に、水を纏った足で一撃……体重を乗せた蹴りを放つ。


『!?』

「こんなもんじゃないでしょって、ね!」


 思い描いていたものとは違うが……掃討作戦、その中での初の真剣勝負が始まった。

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