Episode11 - 絡まれてみよう
「――では、それぞれの担当地区はこれで決定としよう。何か質問はあるかな?」
話し合い、というよりは。
佐藤と三峰の2人が、今回参加するメンバー達の戦力差を見て配置しただけではあったものの……特にその決め方には異論はない。
私には周りの実力は分からないし、私の見せた実力も実際に戦いを見た三峰くらいしか知らない筈なのだから。
……それにしても……危険度が高めの所に割り振られたなぁ。三峰さん、こっちに何か恨みでもあったりする?するか……。
良かれと思っているのか、それとも五十嵐を取った事を今だ根に持っているのか。
三峰が私達を配置したのは、今回の掃討作戦の対象地区の中でも危険度が高いと説明を受けた繁華街だ。
大規模なレギオンが存在する可能性が高く、3級以上ももしかしたら生まれている可能性もある為、戦闘力が高い者が行くべき……なのだが。ここまで嘗められている私達が、三峰の推薦という形でそんな場所に配置されてしまえば、
「おい……その繁華街は危険度が高いって話だろ?なんで俺らじゃなく、そっちの女達が配置されるんだよ」
当然、こんな声が出てくる。
声の主は、赤い鬣の様な髪をしたガラの悪そうな男性だ。佐藤の様な防弾チョッキなどは付けてはおらず、身体の至る所にナイフなどの刃物を装備している。
私が彼の立場なら同じ様に言うかもしれないが……それにしたって、少しばかりこちらに敵意を剥き出し過ぎるだろう。
殺気を感じる視線でこちらを見ないでほしい。
「実力を鑑みた結果だよ、火征くん。それに君達の避難所もそれなりに危険度が――」
「だからってよォ!こんな犬連れた参加報酬目当ての連中が活躍できんのかって話だろ佐藤サン!」
「……ふむ」
正直、こんな各避難所の代表が居る場所で参加報酬目当てだなんて事を言わないでほしい。
事実であるが故に否定できないのだから。
「分かった。それでは、火征くん達の避難所メンバーの担当を繁華街に。その代わり……石垣くん達を火征くん達が元々担当する筈だった高級住宅地エリアを担当してもらおうと思う。大丈夫かな、石垣くん」
「異論ありません」
「……チッ、わぁーったよ。それで俺らも問題ねェでーす」
石垣と呼ばれた、先程私達の装備や実力についてある程度気が付いていた男性は静かに、しかしながら一度こちらを見た後に担当の変更を了承した。
個人的にはそれは良い事だ。下手に戦闘をしなければならない状況になった場合、細かい所まで見られて本当の実力を看破される可能性だってあったのだから。
問題はもう一方の男、火征だ。
……聞いた事あるなぁ、火征。えぇーっと……確か……音鳴ちゃんとかが逃げてきた避難所のリーダー、だったかな。
名前や、その人物がやって来た事は音鳴を始めとした住人達に話は聞いている。
避難所の人員を奴隷の様に扱ったりだとか。炎を操る異能を持っているだとか。
実力は高いが人格は良い所が一切ない、なんて事も音鳴が言っていた。
「ではこの後、準備が出来次第それぞれの担当地区への転移を開始する。転移終了後、各員の準備が整い次第現場での行動を開始。作戦行動終了次第、再びこの避難所へと転移にて帰投だ。異論は?……ないね、では解散」
佐藤がそう告げた後、こちらへと視線を投げ掛ける。
心配するような、そして申し訳なさそうなその瞳に苦笑しそうになりつつも。私は一度、軽く会釈をしてから五十嵐達を連れその場から去ろうとして、
「待てよ」
「……なんでしょうか?」
火征に引き留められた。
渋々声のした方向へと視線を向ければ、意地の悪そうな笑みを浮かべつつ避難所のメンバーであろう女性と共にこちらへと近付いて来ているのが見える。
それに対し、静かに殺気を放ち始めた五十嵐を片手で制しつつ相対すると。
「お前ら、俺らの邪魔すんじゃあねぇぞ?分かってんのか?」
「えぇ、まぁ。邪魔するつもりもないですよ」
「何よその態度!火征さんはあんたたちが怪我しないようにって思って言ってくれてるのよ!?」
「おいおい、そこまで言わなくていい。分かんねぇ奴には分かんねぇんだよ、俺の優しさって奴は」
目の前で何やらコントを繰り広げられているのだが、これに私はどう反応すればいいのだろうか。
とりあえず、私にはもう用がないと判断し2人と共に会議室の外へと出ようとした瞬間、
「おい、まだ話は終わってねぇよ!」
「えぇっと……何が言いたいのかハッキリ分からなくて。結局何の用なんですか?」
肩を勢い良く掴まれた。
五十嵐の殺気が先程よりも強く、濃くなるが本当に少し待ってほしい。ここで人死にが出ると周りの私達に対する心証が今よりも酷い事になってしまう。
「俺らにお前らが貰う筈の参加報酬の半分を寄越せば守ってやるって言ってんだよ」
一言も言っていなかった筈だ。私の聞き間違いじゃなければ。
「……はぁ、そうですか」
「んだァ?その態度」
「いえ、多分必要無いので……それに、あんまり初対面の女性の肩をこうやって強く掴まない方が良いと思いますよ」
「は?!ちょッ……」
今だ掴んで離さない火征の手を無理矢理振り払うかのように、身体強化を施しながら私は五十嵐と白星を連れて会議室の外へと出た。
そのままビルから私達に割り当てられた準備スペースへと向かって歩いていると、
「柊先輩、良かったんですか?あの男」
「そうね、言ってくれれば殺したのに」
2人が殺気を隠そうとせずにこちらに話しかけてきた。
だが、その感情の中には何もやり返さなかった私への憤りも感じられる。
「いやぁ、別に今ここでやる必要もないでしょ。彼我の実力差も分からない相手と戦う必要もないし」
「それは……」
「確かにそうだけれど……」
彼ら火征グループと事を起こすなら、繁華街での作戦中の方が好ましい。
そこでなら、最悪ゾンビとの戦闘中に命を落とした……と言う事にも出来るし、他の事もその場の判断という事で片づける事が出来る。
とは言え、
「このまま嘗められたまま、ってのも気分が悪いのは分かるよ」
このままで良いとは私も思っていない。
身体強化した私を止められない程度の膂力、碌にこの場に集められた相手の力量を考えられない視野の狭さ。
異能だけで成りあがってきたのだろう。私の様に、身体も鍛えては来なかったのだろう。
「だから、事前に言った事は守りつつ……見返してやろうよ実戦で。ここでやり返したら奴らと同じになっちゃうからね」
「……畏まりました」
「……分かったわよぉ……でも、やって良いってなったら好き勝手するからね?」
私の言葉に、2人は渋々と言った風に頷いてくれる。
我儘でしかないが、ここは守ってもらいたい。私の下に居るのだからこの指示には従って貰わないと困ってしまう。
……後は……【液体操作】をどれくらい使うか、かな。あの火征って人に下手に邪魔されても仕方ないし……上から叩き潰すくらいの勢いでいっか。
やろうと思えば、私1人でどうとでもなるだろうが……今回はフラストレーションが溜まっている2人の分も残さねばならない。
出来ればその機会が訪れてくれれば良いと、そう思いつつ。
私達は改めて装備の最終点検を行い始めた。




