Episode10 - 辿り着いてみよう
ちょっと来週の更新後くらいから1~2週間くらい更新おやすみ頂きます。リアルの都合です。
居住エリアを出発して、次の日。
三峰に指定された場所にあったのは、1つの巨大な避難所だった。
……あぁー……成程、ここが佐藤元首相の避難所だったんだ。
過去、死に戻る前。その巨大な避難所には一度訪れた事があった。というのも、この避難所は将来的に各地の避難所と避難所を繋ぐ貿易の様な事をし始めるのだ。
物資を循環させ、その中心的立ち位置となってゾンビを駆逐していく……なんて事を避難所内で聞いた覚えがある。
当時の私は、家族や御世話になっていた避難所のメンバーを連れて物資の無心に訪れていた為に長居はしていなかったが……まぁ、今回もそこまで長居するような事は無いだろう。
「あっ、柊さん!こちらです」
「はいはーい」
近寄ってくる私達を発見したのか、武装した三峰がこちらへと駆け寄ってきて案内してくれる。
私以外は初めての場所だ、配慮してくれたのだろう。しかしながら、その配慮によって私達は周囲の……恐らく、今回の掃討作戦に参加するであろう他の避難所の面々から注目されてしまっていた。
「おい……あれ何処の避難所のメンツだ?」
「知らねぇよ。女3人に……犬5匹?ふざけてんのか?」
「アイドル枠かもしれねぇぞ?ほら、士気を高める為の~って奴」
「ハハッ、そりゃあ良いな!戦果でも出せば抱かせてくれるってか!元首相は太っ腹だねぇ」
こちらを侮るような視線に始まり、下卑た視線。中には、リン達を見て新しい食糧として奪おうと気を伺っている者すら居る始末。
そんな者達が何か凶行を起こした時用にと意識を割きつつも、
「……結構発展してますね?ビルに……あれは露店?」
「そうですね。この避難所では建築に強い超能力者が周囲を囲う壁や住む家などを作り、他の各面々が作物などを作る事で物資の循環を行っているようです。時折、武装した部隊が外に出ていくのも確認しているので戦力もある程度あるのかと」
「へぇ、そこから参加報酬なんかを出すのか……」
三峰が案内してくれた先は、1つのビル。
終末世界前は何処でも見る事が出来たモノではあるが、今では人が集まっていたという事実からゾンビの住処になっている事が多く近付く者が少なくなった場所の1つ。
後から付けたのであろう真新しい木製のドアを開き中へ入り、すぐ近くにあった会議室へと案内されるがまま進んでいけば、
「おぉ、三峰くん。その女性達が最後の?」
「えぇ、私が推薦した方々です」
「君が推薦してくれただけあって腕が立ちそうだ。……失礼、紹介が遅れたね。私が佐藤。佐藤重政だ。一応、この国の最後の内閣総理大臣をやらせてもらっていた」
「ご丁寧に。柊雛奈と申します。後ろの、メイド服を着ているのが五十嵐雨音。チョーカーを着けてるのが白星蓮華です」
白髪混じりの髪に、防弾チョッキの様なモノを身に付けた初老の様に見える男性……テレビで何度か見た事がある佐藤元首相だ。
前線に出ず指揮官の様な立ち位置なのかと思っていたが、何かしらの武術を修めているのだろう。身体の動かし方の節々が戦う者の動きをしている。
……なぁーんて、その辺りの武術の知識なんて私にはほぼ無いんだけどね。でも、ちゃんと戦ってきた人の眼だ。
光が消えていない。まだ信じられるものがある。そんな人がする眼を目の前の男性はまっすぐと私に向けてきていた。
「柊くんに五十嵐くん、そして白星くんか。宜しく。……ちなみにそっちの可愛らしいわんちゃん達は?」
「私達の相棒ですね。躾けてあるので、狩りでしたらそれぞれが単独でも行えるくらいの力量があります」
「おぉ、それは頼もしい。では君達はこれで全員という事かな?」
「そうなりますね。……少ないですか?」
「いやいや、三峰くんから話は聞いているよ。君らだけでも十分なんだろう?期待しているよ」
その言葉に苦笑しつつ。
私は会議室の中へと視線を向ける。そこには以前勤めていた会社と同じ様に、長方形の大型の机が置かれており。私達や三峰、佐藤を除き10人ほどの男女が各々好きなように椅子に座っていた。
彼らもこちらへと観察するような視線を投げてきてはいるが……その中にある感情に好ましいものは少ない。
……うーん、思ってた以上に嘗められてるなぁ、これ。見た目とかで分からないものかな?
実力を見誤られる、という1つの目的については何もしなくても達成できそうではあるが……こうもほぼ全員から嘗められていると少しだけ気分は良くない。
とは言えこちらから実力を明かす様な事をする訳もない。私は三峰に案内されるがままに用意された席へと座った。
その様子に、周囲の面々は小さく近くの仲間内で話し始めるが……強化された私の聴力にはその全てが聞こえていた。
「……なんだアイツら?流石に嘗めすぎじゃね?武器らしい武器も持ってねぇじゃん」
「しっ、聞こえたらどうするの。……でも、あんな弱そうな人達にも頼らないといけないくらい状況が悪いって事じゃない?私達が頑張りましょ」
こちらをしっかり嘗めている男女の会話に始まり、
「生活が苦しいのか?……物資さえ出せば何でもしてくれそうだなぁ」
「ははっ、交渉でもしてみます?」
「馬鹿野郎。ちょっと脅してやれば少ない物資でも従ってくれるだろうさ。あとでやるか」
「ヒュ~、それでこそリーダーっすわ」
道中でも向けられた様な下品なモノ。
だがそれらはまだ良い。そう見られるように私達側が仕向けているのだから想定通りとも言える。
「……あの三峰の令嬢が案内をしていた?何処の避難所か分かるか?」
「いえ、ですが……あの装備、新品の様に見えますね。派遣かどうかはさておきとして、かなり優遇されているように見えますが」
「優遇?何処がだ。三峰の令嬢が下手に出て、首相が腕が立つと言ったんだぞ。それなり以上の実力は持っていると見て間違いない。出来れば友好的に……」
問題は、こちらの実力をしっかりと見抜いた上で付け入ろうと考えを巡らせている連中だ。
避難所に辿り着くまでに道すがら少しはわざと装備を汚してきたにも関わらず、質の良さなどに気が付いている、というのは厄介だ。何せ、こちらが実力を隠そうとしても『何故』という疑問を生んでしまうのだから。
疑問というものは、人の原動力に成り得るものだ。それこそ、相手が何者か徹底して暴こうとするくらいはやってきてもおかしくない程に。
……うん、警戒するのはこっちの実力に少しでも気が付いてそうな2人組の男。それ以外は……まぁ、嘗めてくれてるならそれでいいや。一旦ね。
居心地が悪そうな横の2人には後で何かフォローをしておく必要はありそうではあるが、それでも大体は予想通り過ぎる反応だ。
想定外もあるものの、許容の範囲内と言えるだろう。
「――静かに」
話し声が充満しかけた会議室の中に、1つの乾いた音が鳴る。
いつの間にか会議室の机、その上座となる位置に佐藤が立っており手を叩いたのだろう。
会話が止み全員が視線を向けたのを確認すると、満足したように彼は頷いて、
「では、各代表も集まったようだし。第1回大規模掃討作戦についてのブリーフィングを開始しようじゃないか」
笑みを浮かべてそう言った。
佐藤は三峰へと視線を向けると、
「まずはこれを見てほしい。事前に説明したとは思うが、今回我々が暴漢達の掃討を行う予定の各地域の地図になっている。とは言え、これは社会崩壊前のもの。全てが今現在と同じとは限らない為、それを留意してほしい」
三峰が皆に見えるよう、机の中心に複数の地図を広げ始めた。
私達も見た、各地の詳細な地図だ。
「それぞれ、都市部、繁華街、駅周辺など以前は多く人が集まっていた場所だ。それ故に暴漢達も集まり、今も無事な人々を襲い続けている」
一息。
「私はこれを許せないから、なんて根拠のない言葉で行おうとは思っていない。単純に、この国の領土を取り戻し……その上で、今健康な人々が暮らせる、物資を確保できる土地を増やしたい。それを第一に考えてこの作戦を決行しようと思い至った。それだけは頭の中にいれておいてほしい」
偽善ではなく、あくまで利を求める為に行う事。
その事を念頭においてほしいとこちらへと言葉を投げかける彼に、少しだけ関心してしまう。
……考え無しって訳じゃなく、その後の為の布石とかそういう事かな。ここで参加報酬として物資を吐き出しても、この土地を得てその後に生み出せる作物や得られる物資を計上すれば元を取れる……って事か。
寧ろ、そうやってメリットデメリットで考えて行動してくれた方がこちらとしては有難い。
なんせ、変に裏を疑う必要が無くなるからだ。信用をせず、仕事さえこなせばこちらにも利が来るのだから。




