Episode6 - 訪ねられてみよう
その後、ある程度の日数が経ち。
やっとの事、好感度が溜まった白星はA.S.S的にも住人としての判定を受けた、のだが。
「ねぇ、お姉さぁーん。私、まだここに居ないといけないのぉ?居住エリアの方で私の家とかあるんでしょう?」
「まぁあるにはあるんだけどねぇ。白星ちゃん、目を離すと色々面倒な事になりそうだからさ」
「鎖を外してくれたのは良いけど……どこ行ってもお姉さんの監視付きはちょっと息がしづらいのだけれどぉー」
「これまでの自分の行動を思い返してから言ってねー」
まだ、白星は拠点内部で生活させていた。
住人化に伴って『縁結びの鎖』は外しているものの、彼女は目を離すと何をするか分からない。それこそ、住人化した日の夜にこの拠点から脱走しようとしたくらいには何をしでかすか予想が付かないのだ。
捕まえた彼女の言い分的には、拠点じゃなく居住エリアで過ごしたい、との事だったが……まだまだ監視が必要と判断したのは仕方のない事だろう。
……好感度が溜まってるからって、私の言う事を素直に聞いてくれる訳じゃないのは……まぁ五十嵐や他の住人から分かってた事だけどね。
好感度はあくまで、私に好意的な感情を持っているかどうかの指標であり、住人化用のパラメータの1つでしかない。
住人に対する絶対命令権なるものを私は持っていないし、それがあったとしても……彼らの行動を縛ろうとは思えないが。
「むぅ……でも、お姉さんこの不思議なチョーカーどこで手に入れたの?普通に崩壊前の技術的にも開発出来ないでしょ、こんなの」
「企業秘密。知りたかったら言う事をきちんと聞いて欲しいなぁ」
「それとこれとは話が別だよぉ」
不貞腐れたように、私の部屋でベッドに寝転がる白星の首には白黒のチェック柄をしたチョーカーが着けられている。当然、普通のおしゃれアイテムではなく……これもまた、『縁結びの鎖』と同じA.S.Sのショップ製チートアイテムだ。
その名も『不離のチョーカー』。
効果は単純。このチョーカーを着けている間、チョーカーの所有者から半径2メートル以上離れる事が出来ないという代物だ。
……勝手に外せないようにロックが掛かるのもありがたいけど……その分、私の自由時間は減ったよねぇ……仕方ない事ではあるけど。
鎖で縛るよりもずっと簡単で、勝手に遠くに行かれる心配もないものの。装着者の異能を縛る事が出来ないというデメリットもある。
とは言え、出会った時や捕まえた時のように襲い掛かってくる事は無くなった為、その辺りは心配していないのだが。
「とは言え、外に出ないのも不健康だよねぇ……」
「いや、お姉さん普通に訓練場使って延々身体鍛えてるじゃん」
「リン達の訓練もあるからね。五十嵐も何を思ったのか最近滅茶苦茶頑張ってるし」
「……それ、多分私がずっとお姉さんと一緒に居るからフラストレーション溜まってるだけじゃ……」
「何か言った?」
「なんでもなぁーい」
白星が何かを小声で言ったような気がしたが、置いておいて。
私は彼女を連れて居住エリアの訓練場へと足を向ける。
と、いうのもだ。
「じゃ、戦ろっか。白星ちゃん」
「何が!?いっつも説明不足過ぎるんだけど!?」
「いや、白星ちゃんいつも私の訓練についてはくるけど、隅っこの方で本読んでるだけじゃん。だからここらで、白星ちゃんの訓練もしとこうかなぁって」
「それを先に言ってよ……!それに!」
彼女は周囲を見渡して、
「何で居住エリアの皆も見学に来てる訳!?これじゃ見世物じゃん!」
「あ、私が呼んだんだー!白星ちゃんが柊さんと訓練するっていうから、異能持ち同士の訓練とかどういう感じになるのか見たくって!」
「音鳴ちゃぁん!?」
私と白星に向かってサムズアップをする音鳴に、同じ様にサムズアップを返しながら。
軽く準備運動を終えた私は、彼女に対して軽く手招きする。
その姿に心底嫌そうな表情を浮かべた後、チョーカーの所為で遠くに離れる事が出来ない事を思い出したのか私の対面までとぼとぼと歩いていく。
「……一応聞くけど、どれくらいまでやって良いの?」
「んー、私は水の発生くらいしか使わないつもりだから、白星ちゃんは……生物出す以外なら何でもやっても良いよ。但し、お互い一撃でも喰らったらそこで組手は終了ね」
「ハイハイ……つまりは殺しはなし、他はほぼ全力ってコトね……分かったわよぅ……」
お祭り騒ぎの様になっている他の住人の1人……丁度良いので、この騒ぎを作った音鳴に開始の合図をしてもらおうと、視線を向け。
私と白星が構えを軽く取った瞬間、
「あのー……すいません、柊さんはどちらに……あっ!ちょっ!?」
私達の間に、1人の女性が住人達の中から押し出されるようにして飛び出してきた。
今の世界では珍しい、スーツに身を包みながらも身体の所々に行軍用の装備を身に着けたその女性は、
「……三峰さん?」
「あっ、柊さん!申し訳ありません!」
つい先日、製薬工場でも共闘した三峰その人だった。
―――――
「――と言う事で、柊さんには五十嵐と共に掃討任務に参加して頂きたいと思いまして」
「ふむ……成程」
場所は変わり、居住エリアの中のまだ使われていなかった白星用の家。
その中の木製のテーブルを挟み、対面には三峰が。こちら側には、私と五十嵐、そして離れる事が出来ない白星の3人が座っている状態だ。
「話を聞く限り……結構大規模ですね?首謀者……ってよりは、立案者は誰です?有名な人?」
「立案者は佐藤元首相ですね。まぁもう日本という国が機能していないので、権力なんてものはありませんが……それでも、ここらでは一番巨大な避難所のリーダーとしてご活躍されています」
「へぇ、首相ですか……ちなみに断った場合は?あと参加報酬」
「柊先輩!」
「五十嵐、こういうのはちゃんと聞いといた方が良いんだよ。何も聞かずに断って、後日事情も知らず取り巻きに報復されましたーじゃ恰好が付かないしね」
「そ、それは……」
私の言い分に、席を立ちかけた五十嵐が何も言えずにゆっくりと椅子に座り直す。
普通の、それこそ終末前の世界であれば首相立案の作戦など断れる筈もない。しかしながら、今は事情が違うのだ。
私達を捨て駒の様に使う作戦かもしれないし、そもそも首相の名前を騙る何者かが立てた作戦かもしれない。出来る限りの懸念を潰しておきたい所なのだ。
「ふふ……問題ありませんよ。まず断った場合ですが……何かあるという訳ではありません。報復に関しては絶対にない、とは言い切れませんが……私が断じてそんな事はさせないと約束しましょう」
「いや、約束ではなく書面上の契約にしましょうか。血判で」
「柊先輩……!」
「良いんですよ、五十嵐。そちらの方が柊さんも安心できると言う事でしょう?私は構いません」
適当な綺麗な紙を白星の異能の中身から出してもらい、簡単に契約書を作成していく。
内容を簡単に要約すれば……『この話し合いで嘘を吐かない事』、『三峰はこの話し合いの中で約束した事を絶対に遵守する事』、『隠し事はしない事』。この3点だ。
三峰は私が書いた簡易的な契約書を受け取り読み込むと、すぐさま自身の親指を軽く噛み切り判を押した。契約完了だ。
……ま、こんな形式的な契約で縛れるモノなんて人の良心くらいなんだけどね。
そうして出来上がった契約書を、再度白星の異能の中へと仕舞って貰ってから、
「さて、話していきましょうか」
「えぇ、勿論」
こうして予想打にしていなかった話し合いが始まった。




