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終末世界でもう一度 ゾンビウイルスで世界は終わりましたが、転生した私は『収納スキル』でスローライフを目指します  作者: 柿の種
第5章 新しい視点を

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Episode5 - 初めて話してみよう


 それから軽く昼食を居住エリアの面々に御馳走になったりしながら。

 私達2人は一度、拠点へと帰る事になった。


「……お姉さんってぇ」

「うん?」

「割と、しっかりリーダーしてるのね。まぁそんなに知ってる訳じゃなかったけれど」

「自覚は無いけどね」


 自室兼白星の部屋の様になっている部屋、そのベッドに腰掛けて。適当な小説でも読もうかとしていた所で白星から話しかけられた。

 何やら居住エリアから帰ってきた辺りから考え事をしているようだったし、また私から逃げる為の算段でも練り終わったのかと少しだけ警戒していると。

……おや、好感度が結構上がってる?

 視界の隅にずっと表示させていた、白星の好感度がそれなりに上がっているのが目に入った。

 確か居住エリアに行く前まではほぼ底を尽いていた筈のそれ。これまでどれだけ共に時間を過ごしたとしてもミリも上がらなかったそれは、今では半分程度まで上がっている。

 直接的な原因は分からない。

 とは言え、これはチャンスだろう。


「白星ちゃんはさ、ここから解放されたとして……その後はどうするの?」

「どうするってなぁに?どう生きていくか、って事かしら?」

「まぁそうかな。世界はゾンビに溢れてる。人間も前までみたいに隣人愛に溢れてる訳じゃない。異能なんてものも出てきちゃってる。そんな中で……どう、生きていこうと思ってるの?」


 ある意味で、これは自問自答。

 自分にも返ってくる質問を、今私は黒い鎖によって繋がれた少女に向かって問い掛けた。


「さぁ、分からないわ。これまでも行き当たりばったりで……それこそ、その日暮らしだったのよ?前までの生活水準にはどうやっても届かないのだから……どうにか、生きていける場所を探し続けるんじゃあないかしら」

「……それだったら、別にここに留まって私達の仲間になっても良いんじゃないの?」

「それも手ねぇ。こうして鎖に繋がれたままっていうのは論外だとしても、あの居住エリアで生活するのは……悪くないわね」


 その言葉に、私はゆっくりと視線を白星へと向ける。

 しかしながら、彼女はどこか虚空を見つめており……こちらへと視線は合わせない。


「でも……人間は裏切る生き物よ。これは絶対なの。私はそれが怖い。信じて、その場に留まって……そうしていつか来る裏切りを待ち続けるのなら……私はこれからも1人で良いの」

「……」

「あら、否定しないのかしら?」

「否定できないからね。……白星ちゃんが言う様に、人間は裏切る生き物さ。絶対に、誰が何と言おうと私は否定しない」

「それは……どうして?」


 純粋な、何故そう言い切れるのかを問い掛ける視線を彼女はこちらへと向けた。

 当然だ。彼女は……この世界で生きる誰もが、私が裏切られた事実を知らないのだから。


「ちょっと話はずれるけれど……昔さ、1人の……そう、ちょっと純粋すぎた人が居たんだよ」

「……へぇ?」

「その純粋すぎた人はね。家族からまるで奴隷の様な扱いを受けていたんだ。両親はその人の弟に溺愛し、弟はそんな環境で育ったが故に、その人の事を姉だとは思わずに……ただの召使のように扱ってたんだ」


 思い出す。

 異常でしかなかった、しかしながら私自身がずっと目を逸らし続けていた過去の事実。

 私の家族という肩書だけが付いている、理不尽を強いてくるだけの他人の事を。


「ただ、その人はそんな環境が普通なんだと思ってたんだ。いや、思い込んでたのかな。どんなに奴隷の様に扱われたって、反抗する事もなく。ただただ貼り付けたような笑みを浮かべて、馬車馬のように働いて……で、ある日。家族で物資を探しに行く事になってさ」

「……」

「その人は黙々と、家族と御世話になっていた場所の為に物資を集めていた最中……その家族が大量のゾンビに見つかってしまったんだ」


 死ぬ前の、本当に直前の事。

 格闘技術や、支給された武装で何とか2級までを半生半死になりながらも倒せる程度の実力しかなかったあの頃の事。


「その人は家族を逃がす為に必死に応戦した。持っていた武器と、鍛えた肉体で何体かのゾンビを倒しながら……でも、限界もすぐ近くまで迫っていたんだ」

「でも、家族も居たんでしょう?」

「居たね。でも居ただけさ。ゾンビを倒す訳でもなく、ただただ腰を抜かした弟。その弟を救おうと……その人の事がまるで視界に映っていないかのような母親。そして……」

「そして?」

「何を思ったのか、ゾンビと戦っているその人を群れの中へと突き飛ばした父親が居たんだよ。そこには」


 私の言葉に、白星は少しだけ驚いたように目を見開いて……すぐに下へと視線を下げた。


「それで……その人はどうなったの?」

「死んだよ。異能も無い、1体ゾンビを倒すのに数分も掛かる……そんな人が群れの中に突き飛ばされて、しかも体勢を崩したんだ。後はどうしようもないよ」

「そっか……」

「最後まで……その突き飛ばされる直前まで、その人は信じ続けてたんだけどね。いつかは家族が認めてくれる。純粋に、私も心から家族と笑い合える時が来るんだって」


 その言葉と共に、一つ息を吐く。

 これが創作の話だと思われても良い。死んだ人間の気持ちを語っているのだ、そう考えられても仕方ないだろう。

 だが……彼女の問いへの答えにはなったと思う。

……どんなに信じていても、裏切られる。そして、それを身をもって体験した私にとって……それが無いなんて事は口が裂けても言えないんだ。

 白星がもしも否定の言葉を待ち望んでいたのなら……申し訳ないが、私にはその言葉を言えるだけの語彙は無い。

 今の私の基部にはその体験があって、その体験があるからこそ今のこの場があるのだから。


「……さて、聞きたい事は聞けたかな?」

「えぇ、えぇ……今の話が何を意味するのかは……深くは聞かない事にしておくわ。でも……そうねぇ」


 彼女は少しだけ眉が下がった、整った顔をこちらへと向け、


「ある程度は、貴女達と一緒に行動してあげても良いわ」

「その心は?」

「そう単純な話でもないけれど……そんな話をしてくれて、そんな話を知っている貴女が作ったあの居住エリアに住んでみたい。その先に何が待っているかは分からないけれど……でも、このまま1人で居るよりも、色んなものが見れそうだもの」

「おぉう真面目。でも……まぁ、そう言ってくれるのは有難いよ」


 視界の隅に見えている好感度のゲージが、少しずつ上がっていくのが見えている。

 まだ完全にマックスになった訳ではないが……それでも、こうして上がってくれたのだから昔話をした甲斐があったのだろう。

……とは言え、まだまだ白星ちゃんを離す訳にはいかないけどね。

 住人になったとしても、暫くの間は私の傍に置いておく必要があるだろう。

 彼女は頭が良い。他の住人の頭が悪いという話ではなく……これまで外の世界で1人で生きていた、その経験があるが故に、下手に信用してすぐに鎖を外してしまえば……もしかしたら物資を盗めるだけ盗んで行方を眩ませる可能性だってある。


「……はぁー……やだやだ」

「?どうしたの、お姉さん。突然そんな事言って」

「いんや、別に何でもないよ。色々考える事が多いなぁって思っただけ」


 そんな私の考えを知ってか知らずか。

 白星は小さく首を傾げつつ、会話は終わったと言わんばかりに適当な娯楽本を手に取って開き始めていた。

……裏切りがあるから人と住めないのと、人を信じ切れないから裏切れないように縛り付けるとじゃあ……天と地の違いがあるよねぇ。

 白星は前者、私は言わずもがな。

 それが分かっていながらあんな話をした自分が嫌になりながらも……今日の所は考えるのをやめて、手に持っていた小説を開き文字を追う事にした。

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