Episode4 - 見学してみよう
「最近は居住エリアの大きさを広げるってよりは、皆その中にある施設の拡充をしてる感じかな」
「へぇ。五十嵐に聞いてはいたけど……結構凄い事になってるね、畑。普通にスプリンクラーとか使ってるじゃん。どっから見つけてきたのアレ」
「RPTに売ってたよ?流石に高かったから、月ごとに誰が買うかを取り決めてる感じだね」
「成程、RPTか……」
白星を連れ、音鳴の案内で居住エリアの中を歩いていく。
まず最初に連れてこられたのは、そこまで大きくはなかった記憶のある居住エリア用の畑だ。とは言え、私が見たのはかなり前。今では森の一部を切り拓いたのか、以前見た時の倍以上の敷地に様々なモノが植わっている様に見える。
だが目を惹くのは、巨大な畑の各所で動いている散水用のスプリンクラーだ。
RPTによってある程度までの物資が手に入るようになった彼らは、まず生活面……その中でも食に関係する施設の拡充を始めたらしい。
……うん、やっぱり私が手を出す必要はないね。居住エリアは居住エリアだけでも発展していける。
根っこの部分にA.S.Sなどの私由来のモノがあったとしても、彼らが考え実行し発展する事が出来ている。
畑を見るだけでも、私が考えていた以上の規模になっているのだ。このままいけば……ゾンビという脅威はあるが、自給自足が出来る一つの街の様になっていく筈だ。
「草薙さんがここのリーダーだね。あの人の異能で大体どんな感じに育つのかが分かるから、品種改良なんかにも手を出し始めようとか言ってるのを聞いたかな?」
「……お姉さん、この畑だけでも私が見てきたどの避難所よりも物資量が桁違いなんだけどぉ?」
「あはは、白星ちゃんが見た所がたまたま貧乏な所だっただけだよ。しっかし品種改良か……草薙さんが異能使って交配し続けてる感じ?」
「確か……その筈?私そこまで詳しくないから、その辺りは直接聞いてもらった方がいいかも」
「ふむ、後で聞いておこうかな」
次に案内されたのは家畜小屋……だった場所。
私や居住エリアの初期メンバーが何とか作り上げた家畜小屋の面影は一切なく、今では数頭の牛や豚、鶏用の個別の小屋や、羊の様な動物の姿まで見える。
「こっちの方はもう原型ないね。凄いな……」
「建築の仕事をしてたって人がいてさ。その人が設計と指示しながら皆で作ったんだ。今のところだと……安定してるのは卵くらいかな?それ以外は豚の種付けがやっと出来たとか言ってたはず」
「おぉー、そっちの知識がある人も居たんだ」
「いや、これもRPT使ってその手の本を大人達が皆で読んでたからだと思う」
「さっきからRPT、RPTって……一体なぁにそれ……?」
白星がそう漏らし、思い出す。
そう言えば彼女はこれまで私の拠点内でしか生活をしていなかった。故に、RPTというシステムがどのようなモノなのかを知らないのだ。
「えぇっと……白星さん、だよね。RPTっていうのはー……」
「あ、大丈夫。話して良いよ」
「そう?それなら……ほら、このタブレットにポイントがあるでしょ?このポイントを使って買い物が出来るっていう……コンビニみたいなもの?であってるよね、柊さん」
「合ってる合ってる。うちの倉庫から引き出してきてるから、コンビニみたいに物資が無限ってワケじゃないけど、私が物資を回収し続けてる内は基本的に何でも揃うようにはしてるよ」
「……もうそれ、崩壊前よりも便利なシステムじゃあないかしら……?」
何やら白星が額に手を当てて天を仰いでいるが……気持ちは分かる。
私もA.S.Sに初めて触れた時は大体似たような事になっていたのだから。
……ま、ここら辺は知っておいてもらわないと……好感度もちょっと上がったっぽいし。
見れば、本当に少しだけだが白星の好感度が上がっているのが分かる。
今までは拠点内だけという閉鎖的な空間だけだった為に、どれだけ私の拠点周りが発展しているか知らなかったのだ。そこに、私が覚えている限りでも今の世の中でもトップクラスに栄えているエリアを見せられれば……それなりに精神的に揺らぐのも仕方ない。
「はは、一応崩壊前の通販サイトとかが似たようなサービスを海外でしてた筈だから、前よりも便利ってワケじゃないよ」
「そこで崩壊前のモノが比較対象に挙がる時点で桁違いなの分かってる?お姉さん?」
「まぁまぁ気にしない気にしない。とりあえず次にいこっか。あとは……」
「んー、とは言っても、あと案内出来そうな所は……私達が住んでる家とか、最近作った訓練場とかになるかなぁ?」
「あ、じゃあ訓練場先に見せて貰っていい?ちょっと気になる」
案内されている最中、もちろん居住エリアで暮らしている住人達と軽く会話を行う事はある。
この場所を与えてくれたのが私だからと慕ってくれる人や、最近あった事を世間話的に振ってくる人。五十嵐に伝えようと思っていた事務的な報告をしてくる人や、音鳴の様に困ってる事がないかと聞きに来る。
その全てが、私が助けるなり誘導するなりして連れてきた人達だ。
……話せる、意外と普通に話せるね。うん。気負い過ぎだったかなぁ。
あまりここに来ようと思わなかったのは、単純に。
ここには私に助けられた人が多すぎるが故だ。変に信仰の対象の様な事になっても困るし、全ては自分の益に繋がるからこそ助けてきただけ。
その上で、過剰な反応を貰う事が怖かっただけではあるのだ。
「……緊張は解けた?お姉さん」
「ん?あぁ……変な所で目敏いねぇ、白星ちゃん」
「そりゃあ今の世の中を1人で生き残ってきたんだから。目が良くなくっちゃダメでしょう?」
「ふふ、そりゃそうだ」
私達がそんな会話をしていると。
気が付けば、居住エリアの外れ辺りにまで音鳴に案内されていた。
木人のようなモノが数個程置かれ、地面が均されているそこでは今も数人の住人達が組手をしているのが見えている。
「暇な人とか、休みの日はここで身体を動かしてる人が多いね。私も……ある程度動けるようにって事で運動はしてるかな」
「今のご時世、動けて損はないしね。ゾンビ1体くらいなら倒せるようになってると……良い感じだね」
「まぁ私は出来るとは思うけど……他の、異能とか持ってない人達が結構大変そうかな?」
とは言え、異能が無くとも体術次第でギリギリ2級までならゾンビを倒せるのは自分自身の経験から分かっている。
その上で、異能が絡めば……相性や使い方にも依るが2級は余裕で倒せるように成れるだろう。
特に、3級の動きを一時的にでも封じる事が出来た【植物栽培】や、大きな音を出す事が出来る音鳴の異能なんかは戦闘でも役に立つのは容易に想像出来る。
「白星さんはどう?ゾンビとか倒せるの?1人で生きてきたって言ってたよね」
「聞いてたのね……まぁ、その辺りに歩いているのならそれなりに倒せるわよ。ただ……私の倒し方は異能に頼ってるものだから、身体の動かし方は素人とあんまり変わらないわ」
「それでも倒せてるなら凄いよ!私は逃げてばっかだったし……」
「人には得手不得手があるからね。音鳴ちゃんは逃げるのが、白星ちゃんは倒すのが得意だっただけで」
「お姉さん?それだと私、脳筋女みたいに聞こえるのだけれど?」
話をしようと言っている相手に対して、家具を使って足止めしようとしたりするのは十分脳筋に近いのではないだろうか。
そう考えたものの、ぐっと飲み込んで……何かを察したのか白星に軽く足を踏まれ睨まれた。
そういう所だと私は思う。




