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終末世界でもう一度 ゾンビウイルスで世界は終わりましたが、転生した私は『収納スキル』でスローライフを目指します  作者: 柿の種
第4章 広げていこう

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Episode13 - 雑談してみよう


 休憩と言っても、先程の戦闘での肉体的、精神的疲れを癒すだけのもの。

 ここで本格的に拠点を築く様な事はしないし、あくまでも探索途中の一時的なものだ。


「五十嵐、ご飯にしよっか。まだ残ってたよね?」

「そうですね。一応……携帯食料もありますが、サンドイッチやお弁当なんかもありますよ」

「ん、じゃあ私サンドイッチにしとくよ。わんこ達にご飯配ってるから、五十嵐は適当に休んでて」

「畏まりました。何かあったらすぐ言ってくださいね」


 荷物の中から、今の世の中では珍しいであろうサンドイッチや惣菜の詰められた弁当を取り出し始めた私達を、三峰達は信じられないと言った表情を浮かべながら見ている。

 当然だ。彼女らが養補給の為にと荷物の中から取り出したのは……以前も口にしていた圧縮ビスケットと少ない水のみ。彼女らの所属している避難所が貧困である訳ではなく、寧ろ遠征に出ているメンバーに物資を渡せる程には余裕がある……筈なのだ。比較対象である私達がおかしいだけで。

……ま、あげないけどね。住人になってくれたら別にって感じだけど。

 口には出さず、こちらを羨ましそうに見てくる隊員達に見せつけるようにしながら私はサンドイッチを頬張った。あっさりとした薄切りの肉と、トマトやレタス、他にも恐らくは冷蔵室に適当に突っ込んでおいたマヨネーズなどの調味料の味が口いっぱいに広がるのを感じつつ。

 私はリン達の餌を取り出す為に、ほぼ何も入っていないカモフラージュ用のリュックへと手を伸ばす。

 誰からも見えていない状態で、【空間収納】から取り出したのは……食べやすいようにカットされた焼いた鹿肉だ。味付けなどはしていないが、ここで変にドッグフードなどを取り出すよりは自然ではあるだろう。


「あ、あの。少し良いですか?」

「ん?あぁ、三峰さん。どうしました?」

「いえ……聞いても良いか分かりませんが。何故、貴女はあの時……彼女を助けなかったのですか?」

「あぁー……それ聞きますぅー?」


 こちら側の陣営が完全に休憩体勢に入ったのを見てか、それとも自分達の食事が終わり手持ち無沙汰なのか。三峰がおずおずと私に向かって話しかけてきた。

 当然、内容は先程の戦闘での一幕。私があの令嬢らしき女性を助けなかった場面の事だ。

 彼女から見れば、私がまだまだ余裕があるように見えたのだろう。だが、それを責めるような雰囲気ではない。単純に疑問に思ったのだろう。

……ま、やろうと思えば助けられたけどさぁー。【液体操作】の出力も五十嵐レベルまで落としてる訳だし?

 余裕は勿論あったに決まっている。周囲をゾンビで囲われ、私の味方は近くには居ない状況。

 前世であれば絶望していた所だろうが、今は違う。【液体操作】を使っている上でまだ余力は有り余っていたし、何なら身体を動かしてもいなかったのだ。【空間収納】によるワンショットも狙えただろうし、【植物栽培】による即席の植物による侵食なども出来ただろう。

 だが、それをしなかった。それには当然、五十嵐レベルで異能を使っているが故の制限もあるが、


「正直言えば……そうですね。助ける価値がないと、そう思ってしまったんです」

「価値、ですか」

「そう、価値です。あの人は護ってもらう立場でありながら、その要である三峰さんをゾンビの中へと突き飛ばそうとした。その後も助けに来た私に対して礼の一つも言わなければ、自分で戦おうともしない。挙句の果てに、道が出来たら我先にと逃げ出す始末。知り合いでもないのに救いたいとは思いません。助ける価値がないので」


 異能の制御的にも余裕があったとは言い難いのでね、と付け加えると、三峰は少しだけ考えるような素振りをしつつも、私の返答を咀嚼していっているようだった。

 とは言え、私のこの感覚は彼女には分からない。なんせ、一度死んでいなければ共感など出来っこないのだから。

 嘘でコーティングされた胸の内は、私だけが知っていればいいのだから。


「分かり、ました。納得はしませんが」

「えぇ。それで良いと思います。納得なんかしない方がいいんです、こんな人間の考え方なんて」

「そんな卑下するような事を言わないでください」

「あぁ、いや。卑下とかそんな感じじゃなくて……事実というかなんというか……」


 リンが心配してくれているのか、こちらの手を優しく舐めてきてくれる。それにありがたいと、頭を撫でつつも。

 難しい表情を浮かべながらその様子を見ていた三峰に対し、


「まぁ……私に助けを求めなくても済むように、三峰さんが強くなればいいんです。そうすれば、自分の手の届く範囲なら全部救えるようになるんじゃあないですか?」

「そんな無責任な事を……」

「だってそういう話、というか問答でしょう?これ。結局、三峰さんの頭の中は『どうやったら彼女を救えたのか』で埋まってるんですから。答えは単純……『目に見える範囲全てを救えるように強くなる』、結局、これしかないんですよ。今の世の中では」

「……」


 あまり考えたくはないが、この終末世界では強さは正義だ。

 強ければ今の私の様にある程度の自由が利くし、助けられるような立場であれば悩み、考え……その立場から、弱さから抜け出さねばならない。

 強さこそが絶対で、弱者は強者の庇護下に入らねば生きていけない。そんな世界なのだから。


「ま、強くなるんだったら訓練なり戦闘なりを延々繰り返すしかないんですけどねー。……たまに、ウチに立ち寄ってく人に、角付きのゾンビを倒したら異能の出力が上がった、なんて話を聞いた事がありますが」

「!……成程、ありがとうございます」

「礼を言われるような事を言ったつもりはないですよ」

「では適当に懐にでも仕舞っておいてください。こちらは言いたくて言った事なので」

「そういう事なら有り難く仕舞っておきましょうか」


 3級以上のゾンビでも、三峰ならばある程度の苦戦はするかもしれないが倒す事が出来るだろう。

 その上で、核をどう加工して使用するかは彼女自身が考えればいい。ヒントだけでも与えたのだ、これから先、死なれて人里にとんでもないバケモノが誕生するよりかは良い筈だ。

 私達の話を見守っていた他の面々に早く食事を終わらせるようジェスチャーを送りつつ。私は適当に壁に寄りかかって自分の言った事を反芻していた。

……うーん、少しだけ感傷的になってる?さっきの出来事で揺さぶられちゃったかなぁ。

 未だ、人は信じ切れない。

 五十嵐に自分の力の全容を教えていない事もそうだし、三峰に正直に話さなかった事もそうだ。

 だが、少し前までの私だったら……恐らく、彼女に対して3級ゾンビの事を教える事は無かっただろう。


「少し、前に進んでるのかなぁ……」


 自分でもどうなのかは分からない。

 だが、前に進めているのならば……それは少しだけ良い事なのだろう。いつまでも人間不信であるのに、別にそれでいいとまで考えている私ではあるが。

 最近は不本意ながらも大勢の人と関わらざるを得なくなってきたのもまた事実。

……難儀な事だねぇ。自分の事ながら。

 自嘲気味に笑みが零れつつも、周りを見渡せば。

 凡そ全員が食事を終え、自身の装備や残っている物資の確認などを行っているのが目に見えた。


「うん、皆点検とかが終わったら探索再開しましょうか。私達が調べてないの、あと地下とかくらいなんで……そこまで時間は掛からないと思いますけどね」


 私の言葉に、他の面々は思い思いの返事を返す。

 その様子に一つ頷きながらも、私は今後の自分の課題について頭を巡らせていた。

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