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終末世界でもう一度 ゾンビウイルスで世界は終わりましたが、転生した私は『収納スキル』でスローライフを目指します  作者: 柿の種
第4章 広げていこう

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Episode11 - 救ってみよう


 結論から言えば、1階を探索する意味はほぼほぼ無かった。

 入り口から直で行ける範囲に重要度の高い薬品を置かないのは当然だが、外に近いからなのか重要度が低そうなものに関しても破壊処理がされていたのだ。

 もしかしたらゾンビになった後の職員達が壊した可能性もあるが……物資として回収出来るものは1階にはないと判断して良い筈だ。辛うじて使えそうなのは【空間収納】の入れ替えで遠距離武器に成り得る観葉植物の鉢くらいだろうか。


「どうしますか?柊先輩」

「まぁ上もあるみたいだしそっちに――」


 探索中に出会ったゾンビを倒しながら。

 次は2階以上に行こうかと話そうとした瞬間、地響きのような振動が地下から伝わってきた。

 自然現象の地震などではない。恐らくこれは、


「誰か下で戦ってるかも」

「先客ですか……この前の白星ちゃんみたいな?」

「あり得るね。とは言え、このレベルの振動が余波として伝わってくるんだ、ちょっと出来そうなら手助けした方がいいかも。恩も売れるし?」

「……絶対最後が本音ですよね」

「ふふ、何のことやら。――行くよリン!」


 ジト目で見てくる後輩から逃げるように。

 私はリンとわんこ達を連れ、階段の方へと駆けていく。そもそも既に電源が動いていないのだ。エレベーターなどただの入れる棺桶にしかならない。

……もしかしたら3級が暴れてるだけ、かもしれないのが怖いなぁ……。

 階段を飛び降りるようにしながら降りていき、地下。

 辿り着いた先に居たのは……大規模なゾンビのレギオンだった。


「ちょ、柊先輩早すぎますって」

「こういうのは慣れだよ慣れ。でも……ちょっと静かに」

「っ、はい」


 私の真剣な表情を見たのか、軽口を叩くのをやめた五十嵐に薄く笑い掛けながら。

 私はゾンビ達の奥……このゾンビの海の中で戦っている存在へと視線をやった。

 炎、氷、そして電撃。3種類の攻撃と共に、それぞれを組み合わせる事で殲滅力を向上させながら周囲のゾンビ達を掃討している人物。

……三峰……こんな所で再会かぁ。

 三峰詩織。3種類の異能を操る、この終末世界における強者であり……ここから離れた位置にある避難所に所属している筈の彼女がそこにはいた。

 よくよく見れば、居住エリアで色々と仕事をしてもらった面々も居るのが確認できる。

 そして、


「成程、そういう理由ね」


 彼女らが円を描くように展開しているその中心。そこには1人の怯えた女性が居た。

 何やら高そうな服を着て、喚くように色々と三峰やその部下達に指示を出しているようだが……異能によって強化した聴覚に捉えられるのは見当違いなモノばかり。

 何かにつけて「私は秋山の――」だの、「早く倒しなさいよ」などと、状況が見えていないのか言葉を吐くだけ吐き続けている。

 恐らく三峰達は彼女を保護、もしくは護衛するのが今回の仕事になってしまったのだろう。そんな中、どうしてかは知らないが……こんな所に迷い込み、今こうなっている、と。


「柊先輩……ダメですか?」

「まだ。気持ちは分かるけど今じゃない。ただ一気に倒せるように準備だけはしておいて。私が行ったらやっていいから」

「……分かりました」


 五十嵐も身体強化を使える関係上、あの女性の声が聞こえてしまったのだろう。

 睨むようにそちらを見ながらも、私の言いつけを守ってくれるのは良い後輩だ。

……ベストは……三峰が襲われそうになったタイミング。そうじゃないとただの援軍にしかならない。

 一度関わった人間ではあるが、この終末世界ではどれだけ自分達に利がある行動をとれるかどうかが重要なのだ。私達から物資を騙し取った白星のように。

 そう考え、早くゾンビ達を倒したいと逸る気持ちを抑えていると……どうやら、1人だけ我慢出来なかった者が居たようで。


「――このままじゃあだめじゃない!私の為に囮になりなさいよッ!この愚図ッ!!」

「ッ!」


 護られている筈の女性が突然、ゾンビの海の中へと三峰の背中を突き飛ばしたのだ。

 その光景を見て……思い出す。この製薬工場にまつわる、過去の……私が一度死ぬ前の話を。

 何処にその工場があるのかは知らなかった。興味も、そもそも近付こうとも思わなかったから。何せ、その製薬工場には複数の異能を操り、ゾンビ達を統率しているという推定4級以上のゾンビが居るというのだから。

 本当に居るかどうかも不明ではあったが、目の前で……今ゆっくりと突き飛ばされていく三峰の事を考えれば納得がいく。彼女はかつてこの場所で同じ様にここで死に。そして4級以上のゾンビとなってしまったのだ。

……許せないなぁ、流石に。

 正直な話、三峰がゾンビになるかもしれないというのは今の私にとってはどうでもいい。自分とは関係が遠い知り合いではあるし、会話をした仲ではあるがそれだけだ。

 許せないのは、彼女を突き飛ばした女性の方。かつての私を殺した、私の家族のような自己中心的に助かろうとした女性の方だ。


「くっ……ここまでか……!」

「隊長!」

「お前、何してやがる!」

「クソ、やめろ!こっちが離れたら崩壊する!」


 ゾンビ達が倒れ込んだ三峰へと殺到し、誰もが彼女の最悪な結末を想像した次の瞬間。


「――は?」


 彼女は無事だった。

 三峰へと触れるほんのちょっと前。透明度の高い液体で作られた何重もの水の膜によって、ゾンビ達の動きが鈍り止められているのだ。

 誰がやったのか?当然、私だ。水の膜を操り、捕えたゾンビ達全てを圧死させると同時、


「はーぁ……あんまりさぁ、無理しない方が良いですよ?本当に」


 一足飛びの要領でゾンビの頭を蹴り、跳んで。

 今も尚、体勢を直せていない三峰の前へと降り立って、一つ溜息を吐く。

 私の姿を見てわなわなと口と身体を震わせる彼女に、薄く笑い掛けつつも。


「貸し、1つで」


 そう言った瞬間、階段のある方向から水飛沫が上がる。

 私が飛び込んだのを合図に、五十嵐とリン達が暴れ始めたのだ。

……ホント、身体が勝手に動くってのはこういう事を言うんだろうなぁ。

 助けずとも良かった。飛び込まずとも良かった。だが、突き飛ばされた彼女の姿を見て……重ねてしまったのだろう。

 あの時の苦痛を、絶望を、少しばかり思い出してしまったのだろう。

 私の身体は他の誰かが同じ様に、ましてや私の目の前でそれを感じるのは良しとしなかった。

 ただ、それだけの事なのだ。これは。


「……だから、ここからは単純に!憂さ晴らしッ!!」


 刀を抜き、【空間収納】内から大量の水を引き出しながら。

 その全てを【液体操作】によって操って周囲のゾンビ達を巻き込み、圧縮し潰していく。

 このままならば安全は確保出来るだろう。とは言え、如何せん数が多い。

 白衣を着ている者以外にも、何やら病衣を着ている者まで居るのは……恐らく。ここで行われていた事に関係しているのだろう。


「ちょ、ちょっと柊さん……!なんで貴女がここに……!?」

「うるっさい!こっちが言いたい事ですそれ!というか、助けてもらったら?!」

「あ、ありがとう?」

「そう、それでいい!他の皆も!」

「「「「あっ、ありがとうございます!」」」」


 体勢を立て直しながら、未だに状況を呑み込めていない三峰と隊員達に無理矢理礼を要求して。

 とりあえずゾンビ達がこちらへと来ないようにしつつも、ここから離脱する為の道を作る為に水を操り始める。

 そんな中、


「あっ、貴女!いきなり出てきて何なんです?!名を名乗りなさいな!!私はこの秋山工業の一人娘ですのよ!!」


 1人、何やら空気を読めていない者もいる様だった。


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