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終末世界でもう一度 ゾンビウイルスで世界は終わりましたが、転生した私は『収納スキル』でスローライフを目指します  作者: 柿の種
第4章 広げていこう

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使われるモノ、使うモノ


 心底、使われる側という立場はままならないと感じてしまう。


「私と小隊のメンバーで、ですか……」

「そうなるな」

「……うち、暴徒殲滅及び物資探索部隊だったと思うんですが……」

「……仕方ないんだ。今回の事を考えると三峰の小隊が適任ではあるんだよ、戦力的には」

「それは、そうなんですけど……」


 避難所、その中でも防衛や運営を行うメンバーが使う為に用意された会議室の中。

 私、三峰美咲はこの避難所での上司に当たる人物……島崎に呼び出され話を聞いていた。

 とは言っても、呼び出される事自体は珍しい事ではない。私の持つ超能力、そして私が受け持っている部隊の戦闘能力の高さから、避難所外の探索任務を預けられる事が少なくないからだ。

 だが、今回呼び出された内容は普段とは違う理由(モノ)。それは、


「言ってはなんですが、護衛なんてした事ないですよ。元々一般人である私達がその手の心得なんてあるわけないじゃないですか」

「そう、なんだがなぁ……向こうさんからの直々のご指名なんだ。うちで一番強いのを出してくれってな」

「何をしたくて態々自分から今の外に出るんですか……その箱入り娘は」

「知らん知らん。俺達には想像も及ばない理由があるんだろうよ、元上級国民様にはな。とは言え、任務を受けるだけでも生活物資を渡してくれると言ってきてるのも事実ではあるんだよ」

「……しかた、ありませんね」


 護衛任務。

 対象は、大企業であった製薬会社の社長令嬢であり、何やら山奥にある元自社の工場へと赴きたい、との事だ。

 正直、戦う術すら知らない人間を連れて外に出るだけでも危険だというのに、私達があまり得意とは言い切れない山奥が目的地とくれば……あまり良い顔は出来ない。

……こんな時に五十嵐がいてくれたら……あぁもう!考えても仕方ないことです。

 護衛任務に出る事自体は既に決定事項。ならば、それを如何に失敗しないかに思考の方向性を向けるべきだろう。

 故に、


「その令嬢は今何処に?」

「もう避難所内の一番良い部屋にお通ししてあるよ。不満たらたらだったけどな」

「まぁ元は普通の一軒家ですからね。まともに家具が残ってると言う意味では一番良い場所ですが」

「他は頭おかしくなった連中が壊していってるからなぁ……すまん、後の任務の擦り合わせは頼めるか?」

「はぁ……分かりました。とりあえず、貸し1つ、ということで」


 私がそう言うと、島崎は気まずそうにしながら会議室から立ち去っていく。

 その背中を見送りながら、すぐさま自身の部隊に支給されている無線の電源を入れ、


「――皆さん、すぐに武装準備してA級物件前に集合してください。次の任務のブリーフィングを行います」


 自身の部隊の面々へと声を届けた。



―――――



「貴女達が私の護衛なの?……本当に大丈夫かしら?」

「……一応、この避難所では実力のある方だと自負していますが」

「自負だけじゃ私が安全かどうか分からないじゃない!それに……女の人が隊長だなんて……」


 暫くして。集まってくれた隊員達に対し説明をした後、例の護衛対象との顔合わせをしてみれば。

 隊のリーダーが女である私だと分かった瞬間に、何やら落胆したかのようなリアクションを取り始めた。

 こちらに聞こえないとでも思っているのだろう。小さく「ハメられた」「女の護衛なんて役に立たない」なんて声も漏らしていることから、屈強な男達が来るのを期待でもしていたのだろうか。


「っ、この――」

「――やめなさい。……うちの隊員が失礼を。ただ、うちの隊も選ばれただけの実力はありますので。それともおやめになりますか?」


 そんな社長令嬢……秋山の態度が我慢ならなかったのだろう。

 隊員の1人が反論しようと少し身体を前へと傾けた瞬間、片腕を伸ばして制する。

 相手がどれ程こちらを嘗めていようと、これは私達の避難所に益があるものだ。何もなかったとしても、変に危害を加えられたなんて事を言われてしまえば……後々が大変な事になってしまうのだから。


「い、良いわよ!貴女達を護衛にして行けばいいんでしょう!?……それにお父様も仰られていたもの。多少の困難は人格の形成に大いに役立つものだ、って!今回はその機会なんだわ!」

「はぁ……そう、ですか。失礼、詳しい事はお嬢様から聞いた方が良さそうだったので、私共の隊はどこに行けばいいのかを伝えられていないのですが……」

「何よそれ!?……いいわ、説明してあげましょう。今回私が行きたいのは秋山家が運営していた製薬工場よ。そこにあるちょっとした薬が必要なの」

「薬、ですか。ちなみにその工場はどちらに?」

「そうね、少し待ちなさい」


 そう言って、秋山は懐へと手を入れたかと思えば。少し汚れてしまっている大きな紙を取り出した。

 彼女はそれを、自信満々にこちらへと見せつけるようにしながら広げると、


「ここよここ!この避難所からそう遠くないでしょう!?」


 その紙のある一点を指し示した。

 そこに描かれていたのは、この避難所の周辺も載っている世界崩壊前の地図。

 だが、『工場ならば街中にあるのかもしれない』と考えていた私にとって彼女の示した場所は少しばかり……否、かなり面倒な場所だった。

……どう見ても森の中……いや、山の中?それにこの位置だと……五十嵐達の拠点がそう遠くないですね。

 街中と山の中では勝手が違う。街中ならば、警戒する方向がある程度絞る事が出来るものの……山、そして森の中では暴徒以外にも野生動物や植物なんかにも気を向けねばならないのだから。

 幸いにして、私達は数日程山の中で生活をした経験がある為、問題として考える点は少ないものの。それにしたって面倒であるのには変わらない。


「……本当にここに行くんですね?」

「勿論よ!さぁ行くわよ!時間は待ってくれないんだから!時は金なり、そう言うでしょう!?」

「あっ、ちょっ!待ってください!――総員、護衛対象を中心に2メートルを保つように展開!私が護衛対象の傍でカバーします!」

「「「りょ、了解!」」」


 こうして、秋山令嬢の護衛……もとい、御守りが始まってしまった……のだが。

 大変なのはここからだった。


「きゃぁ!?虫よ虫!どうにかしなさいよ!」

「山の中ですし、仕方ないですよ」

「虫よけスプレー的なの持ってないわけ!?これだから庶民は嫌なのよ……!」

「……」


 自身がこれからどこに行こうとしているのか理解しているのか否か、私達では気にならない程度の虫に一々喚き散らし、野生動物や暴徒などに自身の存在を報せ、


「ひっ、き、来たわよ!早くどうにかしなさいよ!」

「暴徒1人ですね。無力化……完了。状況終了です、先に進みましょう」

「な、なんでそんなに平気な顔してるのよ!?今人を殺したのよ!?この人殺し……!」

「……」


 世界が今どのような状況なのかを知っているのか否か、暴徒1人を制圧した程度でこちらを人殺し呼ばわりして、あからさまな軽蔑的な態度を取ってきたり。


「ねぇ疲れたわぁー……ここら辺で休みましょうよ。家か何か無いわけー……?」

「ありませんよ。現在位置は山の中腹辺り、人工物もありませんし……出来る限り進んで広い場所に出ない限りは休めません」

「貴女超能力者なんでしょう?ほら、パパっと出しなさいよ休めるもの」

「万能ではないので」

「つっかえないわねぇ……もういいわ!私ここから動かないから!早く寛ぐ為の準備をしなさい!」

「……」


 こちらの行軍計画を無視し、現在どの位置に居るのかを理解せずに山の中で座り込んで我儘を言う始末。

 それ以外にも、細かい王様面をした見当外れの指示やこちらを人と思わない様な態度。

 それらが1つ1つ積み重なっていき……次第に、私達のフラストレーションが溜まっていくのを感じていた。

 だが、それにも秋山令嬢は気が付かない。私達の間に漂う空気が険悪なモノになっていったとしても、この令嬢はそこまで注意深く人を見ていないのだから気付けない。


「……隊長、もう限界です」

「我慢して、というのは簡単ですが……無理そうですか?」

「あの女の態度に加えて、計画が狂った所為で持ち込んできている食糧や物資がどう計算しても片道分しかありません。途中、何処かで動物を狩れれば食糧に関してはどうにかなるでしょうけど……それにしたって、暴徒制圧用の武装が足りなくなります」


 当然、出来る限りの我儘を聞いていれば……消耗品は底を尽く。

 普段の探索任務であれば、即時帰投を行う程の物資しか残っていないとしても……今回は帰れない。

 何が楽しいのか、ご機嫌な令嬢が避難所へと帰還するのを許してくれないからだ。

……私も減るものは減るんですが……仕方ありませんね。

 とは言え、これ以上隊員達だけに無理を強いる事は出来ない。


「そう、ですか……仕方ありません。配置を変えます。皆にはストレスが掛かるとは思いますが、私が先頭に。道中の制圧や、食糧の確保も私が行います」

「っ、それじゃあ隊長が休める時間が!」

「静かに。……私の超能力があれば、物資を使わずに制圧も狩りも出来るのは理解できるでしょう。せめて片道分の物資を保たせるならばこれしかありません」

「……申し訳ありません」

「謝らないでください。それに工場に着けば、物資に出来そうなモノも残ってはいるでしょう。それに賭けましょう」

「「「はい!」」」


 そこからは、あまり記憶はない。

 山の中、地図と方角を確認しながら我武者羅に。超能力を使う事で何かが擦り減っていく様な感覚を覚えながら前へと進み。

 気が付けば、私達は製薬工場の前へと立っていた。

 恐らく、道中で何かあったのだろう。秋山令嬢がこちらを見る目が凡そ護衛へと向けるモノではなくなっていたのを確認して、力の入っていた肩から力が抜ける。そう、それはまるで……バケモノに向ける視線だ。

……連れてきたら連れてきたで、バケモノ扱いですか。人殺しよりは……まだ良いですかね?

 だが、それにももう何も感じない。精神的に、肉体的に疲れ切っている私や隊員達にとって、秋山令嬢の喚く声は既にほぼ耳に届いていないのだから。

 工場へと足を踏み入れ、秋山令嬢が目当てのモノを探す中……私達はまた暴徒の制圧に没頭していた。

 波の様に押し寄せるそれら。初めは道中の様に、私だけの力で何とかなっていた。しかしながら、


「ッ、状況!」

「2階からも不特定多数の暴徒を確認!対応可能数を超えています!」

「物資!」

「保ちません!超能力を使ったとしても……制圧可能な個体数は全体の1割以下!」

「総員、秋山令嬢を連れ暴徒の少ない方向へと移動します!籠城し、状況が落ち着くのを待ちます!」

「「「了解!」」」

「――ッ!?――!!」


 手に負えない。私の超能力でも制圧出来ない程の暴徒の数。

 それらから逃げるように工場の中を逃げる内、下へ下へと駆けていき……ついに、私達は追い詰められた。

……籠城する場所すらないとか、本当に嫌になりますね……!

 かつて死にかけた時よりも、更に死が近いと感じてしまう状況。

 軽く広がり、円の様に陣形を組んだ私達の周囲には暴徒の海。今は何とか私が超能力によって押し留めているが……それも、長くは保たないだろう。


「――もう、もう嫌ぁ!私は秋山の人間なのよ!?」


 だが、私達が折れるよりも先に。この状況の根本的な原因を作った人間の心が折れた様だった。

 彼女は集中している私の身体に縋りつきながら、


「早く倒しなさいよ!早く!此処に来る時みたいに!簡単なんでしょう!?」

「……五月蠅いです。今、なんとかする為に耐えてるんです。黙ってください」

「っ……何よ、その言い方!!」


 つい、イラっとして言ってしまった。

 とは言え、このままの状況を続けていても解決策はない。

 何かないか、周囲へと視線を投げながら思考の海に没入しかけた瞬間、


「さっきも同じような事を言ってたじゃないの!……このままじゃあだめじゃない!私の為に囮になりなさいよッ!この愚図ッ!!」


 トンっと、軽く。

 私の背中が何かによって押されてしまった。見れば、そこには絶望したかの様な表情を浮かべる秋山令嬢の姿があり。

……あっ、終わるんだ、私。

 静かに、そして簡単に私は死を受け入れた。

 短く、しかしながら濃い人生だったな、と我ながらにして思う。だが、その終わりがこんなものになるとは考えもしなかった。

 最後の最後に、裏切り。ゆっくりと流れていくように感じる時間の中、私はどうすれば良かったのだろうと考えて目を閉じていく。

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