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終末世界でもう一度 ゾンビウイルスで世界は終わりましたが、転生した私は『収納スキル』でスローライフを目指します  作者: 柿の種
第4章 広げていこう

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Episode9 - 遠征してみよう


 衝撃的な出会いから数日。

 五十嵐は未だあの時出会った少女の事を考えているのか、時折物思いに耽るように何処か遠くを見ている事がある。

 とは言えど、それをずっと続けていても答えは出ない。

 終末世界では物資の奪い合いなんて日常茶飯事ではあるし、今回そこに人死にが付いてこなかっただけ幸運であると言えるだろう。そもそもとして、物資どころか両者の命すら失ってしまう可能性だってあるのだから。


「はい、という訳で今回も未探索の地域に行こうと思います」

「……どういう訳です……?というか、未探索?もう大体周辺の地域は探索しましたよね?」

「うん、まぁしたっちゃしたんだけどさ。まだ手を付けてない所があるんだよ」


 朝食後。私は五十嵐を引き留めて、今現在探索しようと狙っている場所の共有を始めた。

 彼女の言葉の通り、山を中心とした周囲の住宅地は既に探索を終え領地としている。

 しかしながら、


「ここ。山の中にあるんだけどね?」

「……えぇーっと……これ、ちょっとした村ですか?今草薙さん達が住んでるような廃村?」

「いや、私が知ってる限りゾンビが出てくるまではきちんと人が住んでた村だよ」


 例外も存在する。それが、山の中……終末以前でも交通手段の関係からあまり人の行き来が無い位置に存在している村だ。

 無論、地図上やネット上にも存在している村であるし、人が住むには人里離れすぎて不便であるという点を除けば別段おかしい所はない。

 だが、私が今回ここを探索しようと考えた理由は別にある。


「ここ、有名な製薬会社の社員が使ってた村らしいんだよ。工場も……ほら、ここにある」

「あっ、本当……危ない薬品とか作ってたんですかね?」

「どうだろう。でも、そういう所だからこそ、今使える薬品とかありそうじゃない?」

「確かに。どれがそうかは分からなくても、ここの会社なら他の……痛み止めやらそれの原材料とかありそうですね」

「そういう事ー」


 少しばかり楽観的な視点もあるだろうが、普通の住宅地を探索していても得られない物資を得る事が出来る……そう考えれば、私がここを探索したいと思うのは当然だろう。

 それに、工場を領地と出来れば……A.S.Sの補助ありきの考えではあるものの。その機能の一部を稼働させる事も可能かもしれない。

……薬が作れるようになれば……結構将来的にも安心出来るからね。

 ポイントによって風邪に対する薬などを用意出来るが、それもポイントがある前提の考えだ。

 物資として【空間収納】の内部に抱える事が出来てさえいれば……不測の事態にも対応しやすい。


「今回は流石にちょっと遠いから、野宿もする前提で。わんこ達も……5匹だけ連れて、後は居住エリアの方で皆を守ってもらうつもり」

「了解しました。野宿用の道具の備えはどれくらい?」

「キャンプ用の新品が幾らか倉庫の中にあったはずだよ。それに寝ずの番を立てるつもりだから、周囲の安全自体は確保出来るとは思う」

「なら、いつも通りの探索装備と……食糧を少し多めに持っていきますか」


 毎度思うが、話がスムーズに進んでくれるのは有難い。

 これだけでも五十嵐を身内に引き込んだのは正解だったと思ってしまう。


「行動開始はいつからです?今から準備すれば……大体昼前には確認含めた用意は終わりますけど」

「じゃあ丁度良いし昼食べた後に出ようか。五十嵐が準備してる間に、何かあった時用の連絡手段を音鳴ちゃん達に渡してくるよ」


 ゾンビとの戦闘に慣れているわんこ達が居たとしても、もしかしたらという場面は起きてしまう。

 その時の為に、という事で。私へと直接繋げる事が出来る無線機などを一応用意はしておいてはあるのだ。

 最悪、私だけであれば異能を全力行使する事ですぐにでも戻ってこれる距離ではある。使われないのに越した事はないのだが。



―――――



「じゃあ戻ってくるまでの事は任せたよ。音鳴ちゃんと草薙さんの言う事を良く聞く事。分かった?」

『ワン!』

「よろしい。じゃあ行ってくるよ。戻るのは……大体遅くて3日か4日後くらいになると思うから、そのつもりで」

「分かりました。どうか、御無事で」

「あは、大袈裟だよ。戦争にでも行くみたいじゃん」


 数時間後。

 昼食を終えた私と五十嵐は、リンを含めた5匹のわんこを連れて居住エリアへと訪れていた。

 ここから製薬工場、その近辺にある村を目指すのだが……その間の事の為にも、アインスを筆頭にしたわんこ達を預けねばならなかったからだ。

 基本は私の出した指示に従う様に言い聞かせてあるが、現場でのその場その場での判断自体はアインスに。私に連絡が来るような事態に陥った場合に限り、居住エリアの皆の指示を聞く様にさせている。


「よし、じゃあ行こう!ここから長いからね」

「はい!……まぁ先輩が用意したお弁当とかの所為で、気分は遠足ですけどね……」

「良いじゃん、遠足。それくらい気楽に行こうってだけだしね」


 居住エリアを出て、手元の地図を頼りに村のある方向へと向かって山の中を突き進む。

 一応コンパスや、遭難した時に空中から周囲を見れるドローンなどは用意しているが……基本的には使わないだろう。

 五十嵐には見えないが、私の視界には今もA.S.Sによる目的地へのナビ、ルート指示が表示されているのだから。

……うーん、これ終末世界になってなかったら……近い将来、似たようなガジェットが出てたんだろうなぁ。

 あったかもしれない未来を考えながら。

 時折、人里の方から迷い込んだのであろうゾンビや、狂暴化した野生動物なんかを討伐しつつも進んでいく事暫し。

 ある程度陽も落ち始めたという事で、今日の行軍は一度やめて野宿の為のスペースを作る事にした。


「うん、拓けた場所があるね。水場は……近くないし、ここにしよっか」

「分かりました。じゃあ簡易テントを立ててきますね」

「おっけ、じゃあ火は任せてよ」


 本当は異能を使って、ちょっとした広場のような場所を作り出せれば良かったのだが……生憎【植物栽培】にはそんな便利能力は付いていない。

 五十嵐に気が付かれないよう、ポケットの中に手を突っ込んでから【空間収納】内の着火剤とマッチを取り出し、軽く集めた枝木を使って焚き火を作りだす。

 ゾンビに見つかる可能性はあるが、それ以上に森の中では野生動物の方が怖い。

 彼らのフィールドで彼ら以上に立ち回る事は出来ないのだから。


「ふぅー……終わりました。焚き火も良い感じですね」

「そうだね。先に寝る?」

「良いんですか?柊先輩は疲れてないんです?」

「疲れてるかそうじゃないかで言えば……まぁ疲れはあるけど、この手の行軍に慣れてる五十嵐が先に休んでた方が色々良いかなってね」


 私の言葉に納得したのかしていないのか。

 彼女は少しだけ不服そうな表情を浮かべながらも、懐から圧縮ビスケットを取り出し少し齧ると自分の立てた簡易テントの中へと入っていった。

……行軍に慣れてるかどうかってのは大事だからね。その点、私は……まぁ慣れてるか。今世じゃないけど沢山したしね。

 寝ずの番程度だったら幾らでも出来る。

 火の扱いも、相方が寝ている時に襲撃に遭ってしまった場合の対処法も……身体に染みついているかのように、何も考えなくとも出来てしまうのだから。


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