書籍化記念番外編『ソリ遊びをしよう!』
しんしん、しんしんと雪は降り積もる。
お城が山岳地帯にあるからか、冬はほぼ毎日のように雪が降るらしい。
祖国とは異なる雪景色は、見ていて飽きない。
窓を眺める私に気付いたブラッド様が、なぜか謝罪してくる。
「すまない、雪ばかりで退屈だろう?」
「いいえ、そんなことありませんわ。雪は空気を浄化してくれるようで、見ていて心が落ち着きますの」
「そうなのか?」
「ええ」
祖国では雪が積もるほど降ることはなかった。だから余計にこの国の冬が新鮮に思ってしまうのだ。
「幼少期、一度だけ雪が降り積もった日がありまして、乳母とソリ遊びをしたんです」
「ソリ遊び?」
「ええ。薪を運ぶようなソリに乗って、牽いてもらうだけの遊びなんですが、楽しくて楽しくて」
「そんなに楽しいのか?」
「はい!」
幼少期の私は翌年も、その翌年も、ソリを楽しみにしていたのだが、雪が深く降り積もる日はなかったのだ。
「すっかり忘れていたのですが、思い出すことができました」
「そうか」
ただの思いで話のつもりだったが、ブラッド様は思いがけない提案をしてくれた。
「ならば雪が止んだら、ソリ遊びとやらをしようか!」
「わたくしと、ブラッド様がですか?」
「ああ、イヤか?」
「いいえ、まったく!」
「ならばストイカにほどよいソリを用意するよう頼んでおこう」
「あ、ありがとございます」
まさかの展開となった。
奇しくも午後から雪が止んで、ソリ遊びを行うこととなった。
しかしながら、中庭にあったソリは、サンタクロースがトナカイに牽かせているような大型の物で驚く。
「どうかしたのか?」
「いえ、その、思っていたよりも立派なソリだと思いまして」
もう少し小型のソリでもよかったのだが、というと安定感がなかったとブラッド様は言う。
「ストイカで試してみたのだが、何度か吹き飛ばしてしまった」
「ま、まあ、そうでしたのね」
ストイカのほうを見ると、若干くたびれているように見える。
「おケガなどありませんでしたか?」
「はは、この通り、丈夫が取り柄でして、問題ありません」
「ならばよかったのですが」
ただ、この大きなソリは人力で引けるものではない。
「その、輓獣に牽かせるのでしょうか?」
「いいや、私が牽くが?」
「ブラッド様がですか!?」
このソリは44ポンド(20キロ近く)くらいあるだろう。それに私が乗ったら、132ポンド(60キロ近く)になる。
人が牽ける重さではない。
「私が安全に牽くから、安心してほしい」
「しかし、ご負担になるのでは?」
「私を誰だと思っている?」
「ワルキア公国の大公様で、小竜公様です」
「そうだ。不可能なものなどない」
そんなわけで、ブラッド様の牽くソリに乗せていただくこととなった。
ブラッド様はソリに繋がった手綱を手に取り、ぐっと牽き始める。
すると、するするとスムーズに動き始めた。
「エリザベル、どうだ? 怖くないか?」
「はい!」
「もう少し早くするぞ」
「お願いします」
どんどん速度が上がっていく。
ブラッド様は風を切るように駆けていき、見事なソリ牽きを披露してくれた。
「ブラッド様、すばらしいです! とっても楽しかったです!」
「そうか、よかった」
ブラッド様は息を切らすことなく、余裕を感じた。
さすが、竜を父親に持つ御方だと思った。
「わたくしも、ソリが牽けたらいいのですが」
「いや、エリザベルはしなくてもいい」
ブラッド様にもソリに乗る楽しさを味わってほしかったのだが。
なんて考えていたら、思いがけない方向から声が届く。
『嫁と息子が乗ったソリは、我が牽いてやろうぞ!』
振り返った先にいたのは、中型竜の姿になった父君だった。
『さあ、乗れ!』
「いや、私は」
「乗りましょう、ブラッド様!!」
父君のソリ牽きは森で行うこととなった。
そんなわけで、ブラッド様と二人でソリに乗ると、父君が牽き始める。
樹氷の森を父君が牽くソリで進んでいった。
「父上、もっとゆっくり進んでくれ! エリザベルが怖がるだろうが!」
「わたくしは平気ですわ!」
ダイヤモンドダストが舞い、美しい光景が広がる。
なんてきれいなんだ、と夢心地になった。
『嫁、楽しかったか?』
「はい!!」
ブラッド様は父君の牽くソリ酔いをしてしまったらしい。
『嫁、もう一周行くか?』
「ダメだ!」
また今度、一緒にやろうという話になる。
雪の日の楽しみが増えた日の話だった。




