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バートリ家の吸血姫(※誤解)とワラキア小竜公のありえない婚礼  作者: 江本マシメサ
第二章 ワラキア公の花嫁

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考察

『父は喋らなかったのではなく、喋れなかったのか』


 人化したときも会話はなかったようだが、ブラッド様は父君が無口だと思い込んでいたらしい。


『そういえば、竜の姿でいるときはよく鳴いていたな。何を言っているのか、まったくわからなかったが』


 ならば、父君に言葉を習得してもらうのが問題解決の早道なのだろうか。


『そう、だな。しかし、父にも入れ替わりの原因がわからないのであれば、無駄になりそうだが』


 たしかに、言葉を覚えて聞き出しても、わからない、と言われてしまったら意味がない。


『父の知り合いの竜族に会えたら、何かヒントを得られそうなのだが』

「どこにいらっしゃるのですか?」 

『この世界の空のどこか、だ』


 ブラッド様と一緒に、明後日の方向を眺めてしまう。

 ただ、調査と同時進行でやってみる価値はありそうだが。


「どなたか、お義父様に言葉を教えることができればいいのですが」

『ヤロウカ?』


 そう言って飛びだしてきたのは、モフモフであった。


『言葉、教エル!』

「よろしいのですか?」

『頑張ル!』


 父君が怖くないのか、と聞いたが、『大丈夫!』と言ってくれた。


 モフモフは父君の肩に飛び乗り、『ヨロシク!』と挨拶する。

 父君は特に反応しなかったようだが、拒絶する様子はない。

 ここはお言葉に甘えて、モフモフに任せよう。


「ひとまず、言語の習得についてはモフモフに任せて、お義父様がわたくしが口にした言葉のどれに興味を示したか、調べてみますか?」

『ああ、そうだな』


 先ほど言った言葉は〝あの、初めまして。わたくし、マジャロルサーグ王国の従属国、トランシルヴァニア公国から参りました、エリザベル〟だった。

 今度はどこに反応したのかわかりやすいよう、区切って言ってみた。


「あの、初めまして」


 父君の反応はない。次の言葉に移る。


「わたくし、マジャロルサーグ王国の――」


 マジャロルサーグ王国、と言った瞬間、父君は勢いよく私のほうを見た。


『はっ、くぐ――うう!!』


 その後、トランシルヴァニア公国、エリザベルと続けて言ってみたが、どれも無反応だった。


『父上はどうやら、マジャロルサーグ王国に反応したようだな』


 ブラッド様が言ったマジャロルサーグ王国、にも反応する。間違いないようだ。

 ここで話し合いはお開きとなり、ブラッド様は解散を言い渡す。

 父君はロラン卿とスタン卿に担がれ、私室に戻ることとなった。モフモフは彼らのあとに続く。

 協議室には私とブラッド様、そしてストイカ家の親子が残る。


『入れ替わりは、マジャロルサーグ王国が関係しているのか?』

「どうでしょう?」


 ブラッド様との結婚を取り持ったのはマジャロルサーグ王だが、アトウマン帝国の脅威に晒される中で、ワラキア公国を陥れるような行為はするだろうか?


「送り込んだ花嫁わたくし間諜かんちょうであれば、その可能性もあるでしょうけれど」


 ストイカ家の親子が探るような視線で私を見つめる。それに気づいたブラッド様が、二人にもの申す。


『間諜を自称する者がどこにいるというのか! エリザベルは絶対に違う!』


 その熱い言葉に、セラは冷静に指摘する。


「出会って間もないのに、信用されているのですね」

『それはそうだろう! 十一ヶ月もの間、誰にも信用されなかった私を疑いもせず、救い出してくれた者だからな! お前達の百倍以上、エリザベルは信用できよう!』


 ストイカ家の親子に蔓魔法で拘束され、暗い地下牢に閉じ込められ、肉塊と干したトカゲを与えられていた日々が、心の傷となっているのだろう。お可哀想に……と思わず同情してしまう。


「その、わたくしは間諜ではありませんが、念のため、重要な情報は隠しておいたほうがよろしいかと」


 ストイカとセラは顔を見合わせ、同時に動く。

 何をするのかと思えば、二人揃って片膝を付いて座ったのだ。


「私共は、エリザベル様に心から感謝しております」

「ワラキア公同様、お言葉の一つ一つを信じ、心から仕えることを誓います」

「そ、そんな! 頭を下げないでくださいませ!」


 無意識のうちに魔法がかけられていて、情報を流す可能性だってある。

 だから信用しないほうがいいと思っていたのだが。


「とにかく、今は皆で協力して、ブラッド様とお義父様が元に戻るよう、原因について探りましょう」


 まずは父君が反応したマジャロルサーグ王国について、考えなければならない。


「お義父様とマジャロルサーグ王国は、何か関係があるのですか?」


 その問いかけに、ブラッド様は首を傾げる。


『いいや、なかったはずだ。父は他国について興味がない……と言うよりは、母以外はまったく興味を示さなかった』


 父君の興味はブラッド様の亡くなった母君にあり、それ以外はない、と言い切る。


「でしたら、母君とマジャロルサーグ王国に、何か関連はあるのでしょうか?」

『母上とマジャロルサーグ王国だと?』


 ブラッド様が眉間にぎゅっと皺を寄せた途端、セラが挙手し、ある情報を述べる。


「亡くなった大奥様はマジャロルサーグ王国の出身でございます」

『そういえばそうだったな』


 マジャロルサーグ王国を母君の故郷と認識し、反応を示した、ということなのか。

 そんな話をしていたら、ストイカが何か気づいたようにハッと肩を揺らす。


「ブラッド様、私も一つ、思い出したことがございます」

『なんだ?』

「竜公が被っていた牛の頭蓋骨ですが、あれは新婚旅行のさいに購入した物だったかと!」


 長年、ドラクレシュティ家に仕えていたストイカだからこそ、記憶していたのだろう。

 牛の頭蓋骨は父君の部屋に長らく置かれていた物だ、という話は聞いていたものの、それ以外の情報が潜んでいたようだ。


『なぜ、それを早く言わない!』

「も、申し訳ありません。新婚旅行の話に関連して、思い出したものでして」


 なんでもあの牛は、マジャロルサーグ王国を原産とする種だったらしく、旅先で母君が気に入り、しばらく飼育していたようだ。

 乳牛だったようだが、寿命が尽きたあと、頭蓋骨だけを記念に残していたらしい。


『ふむ……。あの頭蓋骨が怪しいと思っていたが、そうではなかったか。母上であれば、何かそれ以外の情報を握っていたかもしれなかったのにな』

「あ――でしたら、大奥様は嫁いできてから毎日、日記を付けていらっしゃったので、何か残っているかもしれません」

『故人の日記を探るのはいただけないが……』


 ブラッド様は苦悶の表情を浮かべていたものの、すぐに決断する。


『エリザベル、母上の日記を調べるのを、手伝ってくれないか?』

「承知しました」


 そんなわけで、母君の日記から情報を探ることにした。

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