06:君を信じる
「ペローンの新聞だ。この村にはずっと誰も住んでいないと聞いたから、新聞も来なくては何かと不便かと思って、それで……」
「へぇ、助かるよ。ありがとな。お前、良いヤツだよな!」
「うっ……(トゥンク)」
俺が煎れた泥みたいなコーヒーを飲んで1度は死にかけたディーンだけど、介抱してたらやっと自然な様子になってきた。
なんでだか知らないが、やけに緊張して機械みたいにカチコチな動きになってたんだよな。
……もしかして、人見知りなのか??
たまにこうやって顔を赤くしてるし、恥ずかしがってるのかもな。
「新聞なんて久しぶりだな。どれどれ……」
ディーンから新聞を受け取って読む。
少しの間、俺が新聞をめくる音だけが小屋に響く静かな時間が流れる。
「あ……勇者パーティ、負けちまったのか」
新聞には大きな記事で「勇者パーティ撤退」のニュースが掲載されていた。
(やっぱりな……勇者パーティで唯一のサポート役だった俺が急にいなくなれば、パーティのバランスは崩れるに決まってる。そんな不完全な状態で魔王に挑むなんてムチャすぎるんだよ)
聖剣に選ばれた勇者レオン率いる勇者パーティは魔王に挑むも敗北。
勇者の賢明な判断によって死者は出なかったが、大怪我を負った。
勇者の証言によると「パーティの仲を引き裂く悪役令嬢の存在によってパーティはバラバラになりかけていた」とかなんとか書かれている。
(ったく、言いたい放題だなあの野郎……そもそも俺は男だっての!!)
しっかし、勇者の影響力ってすげーな。
今までは詩の中にしか出てこなかった「悪役令嬢」なんて言葉がたった数日でもう国中に定着しているくらいだ。
「あぁ、王国は魔王討伐のために勇者パーティを再編成するとの噂だ。人類に平和が訪れるのはまだ先になるだろう。聖剣の勇者も今回の敗北で実力を疑われているとか……実力を確かめるための試練を受ける事になったとも聞く」
「へぇ、レオンも大変そうじゃん。アイツ、ヘンに見栄っ張りなところあるからなぁ……」
個人的にはもっとひどい目にあっていいくらいだけど。
まったく、こんな悪名を広げやがって……。
「そうなのかも知れないな。それにレオン様以外の仲間は重症で……って、勇者レオンと知り合いなのか!?」
「え? だって俺、元勇者パーティだし。っていうか、この悪役令嬢って俺なんだけど……」
「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?!?!?」
「あー、そういえば言ってなかったな」
隠してるワケでもないからぶっちゃけておく。
というか隠してもいずれはバレるだろうからな。
むしろ、こういうのは早い方が良い。
隠しておいて後でバレると余計に面倒になりそうだし。
「だ、だが、君は農家だって……!!」
「そうだぜ。今はただのイチゴ農家だ。外の畑を見ただろ?」
「あ、あぁ……いや畑と言うか、果樹園だが」
うん。
それはそう。
というか意外と冷静だなコイツ。
「はぁ~、俺としてはパーティのためにがんばってたつもりなんだけどな。それが悪役令嬢だってさ。もう完全な悪者だよ」
新聞のページを見せる。
そこには大きく俺の名前と「世紀の悪役令嬢!」という大見出しがある。
「言われてみれば、たしかに名前も同じだ……」
「なんだ、それすら気づいてなかったのかよ」
しっかりしてそうで、意外と抜けてる団長さんだな。
「勇者パーティに入り込んだ悪役令嬢……勇者パーティ全員を手玉にとってパーティを崩壊させかけたという話だな。噂では魔王の手先でその正体はサキュバスだったとか……眼を合わせただけで人間を洗脳する能力を持つとか……」
「んなワケあるか!? 俺はこの通り、普通の人間だっての!」
話の尾ヒレが凄いことになってるな!?
「眼だって、ホラ!」
「うっ……!!」
証拠にディーンをまっすぐに見つめる。
なぜか顔を赤くして逸らされた。
「……ということは、この話は勇者の悪質なデマということなのか?」
「そーだよ。ま、俺の話を信じるなら、な?」
って、誰も信じてくれないんだけどな。
ディーンは良いヤツそうだけど、こいつも同じだろう。
まぁ、噂の元凶が勇者様じゃ仕方ないんだけどさ。
良く分からないスラム出身の魔術師なんかより、誰だって権威ある勇者様を信じるだろうよ。
「し、信じる!!」
「だよなー、いいよ。みんなそうだからもう慣れ…………ん?」
あれ?
今なにか、聞き間違えたか?
信じるって言われたような……。
「だから、俺は君を信じる!!」
ディーンはまっすぐな瞳で俺を見つめながら力強くそう言いきった。
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