05:騎士団長ディーン
「アシエ! アシエ・ノプテルはいる……いらっしゃいますか!!」
「はいはーい」
イチゴ売りの翌日。
隣町の騎士たちが村へとやってきた。
「わ、わわ、わ私の名前はディーン!! ペローン騎士団の団長であります!!」
そう声を裏返して元気に挨拶してきたのは見覚えのある短髪の爽やかなイケメンだった。
モンスターや悪党から街を守る騎士としての軽鎧だった昨日とは一転して、今日は黒いスーツをビシッと着こなしている。
ちなみにペローンってのは隣町の名前だ。
「おー、昨日の騎士さんじゃん。団長だったんだ」
「お、俺を覚えているのか!?」
ディーンと名乗った騎士団長が驚いたように目を丸くする。
「なに言ってるんだよ、当たり前だろ? 団長さんのおかげでウチのイチゴは大繁盛! いやー、ほんと助かったよ。なにせ無一文になるところだったんだからさ」
おかげで稼がせてもらった。
ある意味で命の恩人かもしれない男だね。
「それで、なんか俺に何か用?」
「あ、あー! た、たまたま通りかかったから、ちょっと寄っただけだが……こ、これ! たまたま持ってたから!」
そう言ってディーンはバカデカい花束を突き出してきた。
カチカチで機械みたいな動きだ。
「えぇ、たまたまって……」
用もなくいつもこんな花束を持ち歩いてるの??
なにそれ……おもしれー男。
「そっか。じゃあもらっとくよ。ありがとな」
受け取るとバラの良い香りが広がってくる。
包みも丁寧だし、良いバラなんだろうな。
「まぁ、立ち話もなんだし……入れよ? ボロっちい家で良かったらな」
「お、おう!?」
ディーンは相変わらず機械みたいなカクカクした動きで小屋に入ってきた。
「あ、外の連中は良いのか?」
「……! 気づいていたのか、さすがだな。彼らは……警備の者たちだ。付いてくると言って聞かなくてな」
さっきから『硬すぎるでしょ団長!!』とか『不器用すぎますよ団長!!』とか『これはチャンスですぞ団長!!』とかヒソヒソ話しているのが聞こえているからな。
「まぁ、放っといて良いならそれでいいんだけど。敵意がないのはなんとなくわかるし」
「君は……なんというか、本当にすごいな」
「気配には敏感でね。そんなところで立ってないで座れよ、泥水みたいなコーヒーで良かったら出せるけど。飲む? なーんて……」
「い、いただこう!!」
「……マジ?」
ジョークのつもりだったんだけど。
「ピー!」
とりあえず「コーヒーに再挑戦してみるか!」とキッチンに戻ると、そこにはエサを待っているピーちゃんがいた。
ちょうど今からエサを用意するところだったんだよね。
「あ、ピーちゃん。見ろよ、多分すげー良いバラの花束だぜ。香りも良いだろ?」
「ピー……ピッ!」
ムシャリ。
「うわあああああああ!? なにやってんのピーちゃん!? これエサじゃないって!!」
確かに良い香りはするんだけどさぁ!!
『なにやってんだ鳥畜生!!』
『団長が必死に厳選したバラを!!』
『串焼きにしてやる!!』
ほら、外の人たちもお怒りじゃん!!
「ピー!!」
こいつ、満足そうな顔しやがって……怒りにくいじゃねぇかよ!
「ど、どうかしたのか!?」
騒ぎを聞きつけてディーンまでキッチンにやってきてしまった。
俺の手には包みだけになった花束……というかただの束。
「え? あ、あー、ちょっと……ピーちゃんがエサと間違えて食べちゃって。ごめん!」
さすがに誤魔化すのも不可能なので素直に謝る。
すると今度はディーンが慌てだす。
「だ、大丈夫か!? バラにはトゲがあるんだぞ!?」
プレゼントをエサにしてしまって怒られるかと思ったけど、それどころか心配されてしまった。
「あ、それは大丈夫。こいつ硬い物でも鋭い物でも毒があってもなんでも食べるから……」
昨日は近くの森で捕まえたポイズンヘッジホッグ(※ハリネズミ)をムシャムシャやってたし。
「そうか……だったら良いんだ。良かった。この子は君の大切なペットなんだろう? バラは、また買えば良いからな」
そう言ってやさしそうに笑う。
どうやらとんでもなく良いヤツみたいだ。
「そっか……というか、わざわざ買ってきてくれたのか?」
「え? あ、いや、まぁ、たまたま買っただけだから!」
「ぷっ、あはは! なんだそれ!」
良いヤツだけど、ウソは下手らしい。
なんでウソつくのか分かんないけど、悪意は感じないな。
「だったら、今度は一緒に買いに行こうぜ。ピーちゃんも花束を気に入ったみたいだし……エサとして」
「……っ!! も、もちろんだ! 良い花屋を紹介する!!」
『良くやった鳥畜生!!』
『デートの約束キタコレ!!』
『ナイスアシスト!!』
なんか良く分かんないけど外の人たちの怒りもおさまったようだ。
良かったなピーちゃん。
世にも珍しいフェニックスの串焼きにならなくて済んで。
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