13:異世界食材でボルシチ作り
数日後、朝早くに目覚めた私は、部屋の外で野菜を収穫して調理に取りかかった。
「今日は、岩トマトと岩カブ、岩マメでボルシチもどきを作りましょう。調味料だけは揃っているからね」
これらの調味料がなくなる日が怖いけれど、あるうちはなんとかなりそうだ。
岩カブは赤カブに近く、岩トマトは普通の大きなトマトのようだ。
まずは、岩カブの葉を切り落とし、皮を剥いて食べやすい大きさに切っていく。
鍋に岩カブと岩マメを入れて、最後にトマトと水を投入。
真っ赤に染まった鍋を見て、私はウンウンと頷いた。
普通のボルシチとは違い具の種類が少なく肉類がないけれど、それらしいものが出来上がりそうだ。
「あとは、コンソメや砂糖を入れてグツグツ煮込むだけね。少し塩こしょうを足しておきましょう」
味見しつつ、ボルシチ風の料理を調整していく。
しばらく煮込んでいると、良い匂いが漂い始めた。
カルロとチリがソワソワしている。
ブルーノは肉食らしく、興味がなさそうだ。彼は自分で獲物を捕って食べるらしい。
煮込み終わったら、サワークリームやパセリをかけて出来上がり。
「うーん、具が偏っているけど美味しそう!」
器に盛り付けて、ほかほかの白ごはんと共に低いテーブルに並べる。
「まるで、血のようだ……」
「魔王って、人間の生き血は口にしないの?」
「私はしない。モンスターの生肉だって、血抜きはする」
カルロはボルシチの色を警戒しているが、美味しそうな匂いにはあらがえないようだ。
スプーンで恐る恐る具材をすくって口へと運ぶ。
「これは……熱いが美味い。白い部分の酸味がきいて、赤い部分はコクがある。血のような色だが、全く違う味だ」
「そりゃあそうよ。だって、この赤は岩カブと岩トマトの色だもの。白いのはサワークリームっていうの。私のは冷蔵庫にあった生クリーム(消費期限間近)とヨーグルトを使っているわ……って言っても分からないでしょうけれど」
「クリームは昔、一度だけ口にしたことがある。あれは甘かったが……」
「お砂糖を混ぜれば甘くなるわよ。今回はプレーンヨーグルトだったから酸っぱいの」
「だが、この血のようなスープには良く合う」
「良かったわ。向こうの世界の料理が口に合って」
食事が終わり後片付けが済むと、私は洞窟の外へ野菜の収穫に向かった。
一応、カルロにも声をかけておく。
(前に植えた、麦がそろそろ実っているはず)
この数日間はダンジョンの全てを整備して回ったり、積極的に作物を植えたりした。
拡張をして、岩山内にダンジョンを少し広げた。
境界は見た目には分かりづらいが、なんとなく、ここからがダンジョンだと私には分かった。
たぶん、ヌシの力が働いているのだろう。
■ステータス■P1
<ダンジョン>
ダンジョン:<名称未設定>(レベル1)
ヌシ:モエギ(レベル5)
体力—50/50
気力—75/75
特性—創世神の加護(ダンジョン内・自由カスタマイズ)
装備—
性質—ダメージ無効(ただしダンジョン内に限る)
面積:1300平方メートル
拡張—レベル6で可能(+200平方メートル)
地形:洞窟・岩山
<モンスター>
魔王:カルロ(レベル70)
ウルフ:ブルーノ(レベル8)
■ステータス■P2
<スキル>(レベルにより出来ることが増えていく仕様)
畑作:レベル4(畑で日本の作物を育てられる。四季は関係なく収穫の早さはレベルによる。消費する体力は作物によって異なる)
勧誘:レベル1(下級モンスター1体をダンジョンへ呼び寄せることが出来る。体力を15・気力を15消費する)
整備:レベル5(ダンジョンを少しだけ整備する。体力を5消費する)
召喚:レベル2(1回限り、前世にあったもの(無機物)を一つ呼び寄せることが出来る。体力10・気力20消費する)
<畑作メニュー(岩山)>
岩麦:レベル1(岩山に生える麦。3日で収穫できる。50株につき体力を10消費する)
なんだか魔王の成長が早すぎる気もするが、そしてウルフもレベルが上がっているが、気にしないことにした。強くなるのは、きっと良いことだ。
鎌がないので家にあったハサミで少しずつ岩麦を収穫するが、なかなか進まない。
困っていると、カルロがやってきた。
まだ私のことが心配なカルロは、すぐにこうしてあとを付いてくる。
「どうした。モエギ?」
「小麦の収穫をしているのだけれど、なかなか刈り取れなくて」
「なるほど。手伝おう」
魔王は風の刃のようなものを空中に作り出し、まっすぐ飛ばした。
一瞬にして小麦がバサバサと刈り取られていく。
「これは、魔法か何か?」
「そうだ。モンスターは人間とは違って、魔法を使用できる」
「この世界の人間は、魔法を使えないのね?」
「魔力の結晶……魔石というアイテムがないと、奴らは魔法を使用できない。こざかしい人間共は、魔石を道具に組み込んで独自の魔法を放つ」
言いながら、魔王は風の魔法で刈り取った束を1カ所に纏めた。
(まさに人間コンバイン! ……いや、人間じゃなくて魔王だけど)
あっという間に収穫が終わってしまう。
「すごいわ! これからもお願いしていいかしら? 穂も取りたいんだけど」
「任せろ」
褒められてご機嫌な魔王は、穂を梳く作業まで肩代わりしてくれたのだった。
その後はカルロに魔法で風を送ってもらい、籾殻を飛ばす。地道な作業だ。
そして、なんとか精米(精麦)の手前まできた。




