ファイル7 化け猫に支配された部屋
小林と千堂は、大家様の依頼で家賃を滞納しているというアパートの老婆の部屋へ再び足を運んだ。前回訪れた時、猫が2匹しかいないと言われていたが、ドアを開けた瞬間、二人は目を疑った。
部屋の中はまるで猫屋敷。床に散らばる新聞紙の隙間から、10匹以上の猫が目を光らせて覗き込んでいた。猫たちは一斉に鳴き声を上げ、壁を爪で引っ掻きながら歩き回る。部屋中に猫の鳴き声が響き渡り、まるで何かの儀式でも始まったかのような不気味さを感じさせた。
「うわ…こんなに…」
千堂は目を見開き、呟いた。
小林は鼻をつまみながら
「この匂い…ふんとオシッコの臭いがひどいな…まるで腐ったような匂いだ」と顔をしかめた。
猫たちが自分の周りをうろつきながら鳴き、足元をすり抜ける。
「お金は払いますから…お願い、もう少し待って」
老婆が弱々しく言うと、小林はしばらく彼女を見つめてから、頷いた。
「念書ももらっているから、家賃のことは大丈夫だろう。ただ、これだけ猫がいると、どうしたものか…」
小林はぶつぶつと呟きながら、家賃のことを再確認して部屋を後にしようとした。
しかし、それから数週間後、家賃は一向に入ってこなかった。再度部屋を訪れると、最初とは比べ物にならないほどの異常さが待っていた。部屋は静まり返り、まるで時間が止まったようだった。
「おい、何かおかしいぞ…」
小林は声を潜めながら、周囲を見渡した。千堂も直感的に不安を感じていた。
「まさか…」
千堂はつぶやきながらドアを開ける。中に足を踏み入れると、目に入ったのは、餓死した猫たちの姿だった。猫たちの死体が散乱し、床に転がると同時に、その死体を他の猫が貪り食っている姿が目に入った。
「こ…これは…」
小林は息を呑み、後ずさった。
「おい、こいつら、死体を…食ってるぞ!」
猫たちは一心不乱に餓死した仲間を食い尽くそうとしている。その目はすでに生気を失っており、血走っている。
動物本能で、死肉に群がるその姿はまるで恐ろしい悪夢のようだった。
「ひ…ひどい」
千堂は目を背けたが、目の前で猫たちの恐ろしい姿が続いていた。猫たちの鳴き声がますます激しくなり、まるで何かに取り憑かれているかのようだった。
その時、部屋の隅から聞こえてきた声が耳に入る。
「にゃあ…にゃあ…」それはただの猫の鳴き声ではなかった。どこか不気味で、亡霊のような響きがあった。
「これは…どういうことだ…」小林が恐る恐る言うと、突然部屋の中がひどく冷え、空気が重くなった。猫たちがさらに狂ったように鳴き声を上げながら、彼らに向かって近づいてくる。
「うるさい!静かにしろ!」
小林は叫びながら、足を速めて部屋の奥へと進んだ。その時、床に転がっていた猫たちの死体が一斉に動き出し、まるで生きているかのようにわずかな動きで這い寄ってきた。
「化け猫…」小林が震えながら呟いた。「化け猫だ…」
突然、部屋の暗がりから人影が見えた。それは、老婆だった。だが、顔が変わり果て、目が赤く血走っている。老婆の顔は、まるで猫のように鋭く歪んでいた。
「にゃあ…」老婆が低く呟くと、周囲の猫たちがさらに狂ったように反応し、部屋中に鳴き声が響き渡る。
「う、うわっ!」小林が後ろに飛び退くと、千堂も動けないまま立ち尽くしていた。
その後、老婆は姿を消し、どこからともなく「にゃあ、にゃあ…」という声が響き続けた。二人が急いで部屋を出ると、外の空気がひどく冷たく感じた。
数日後、老婆の遺体は川で水死体として発見され、警察の捜査が入ったが、猫たちの異常な行動や老婆の化け猫のような姿は、何も説明できるものではなかった。
「これが…本当に化け猫の呪いだったのか?」
小林が言うと、千堂は黙ったまま、重い足取りで歩き出した。
そして部屋の中に残された猫たちの影は、今もなお、動き続けているようだった。
ファイル7 化け猫に支配された部屋 エンド




