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【ホラー小説ランキング2位達成】5千PV突破 訳あり不動産の事故物件調査ファイル  作者: 虫松
第一部 小林治編

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ファイル36 小林の影と呼ぶ声

小林は、その朝少しだけ機嫌が良かった。


理由を聞かれても答えない。

ただ、コーヒーを一口飲んでから、独り言のように言った。


「……また来た」


夢だという。


夜のあいだ、

見知らぬ建物の前に立っていた。


住所は、

番地も、町名も、

どこかが欠けている。


地図アプリに入力しても、

「該当なし」。


それでも、小林は迷わなかった。


「向こうが呼んでるんだよ」


同行者が聞き返す。


「物件が、ですか?」


小林は少し考えてから頷いた。


「うん。

 空いてるから、入れてあげないと」


その言い方は、

貸す側でも、

調査する側でもなかった。


――迎えに行く側の声だった。


現地は、

住宅地のはずれ。


周囲の家はすべて建て替えられているのに、

そこだけ、

時間が止まったような木造二階建てが残っていた。


表札なし。

ポストなし。

インターホンも、押す部分だけが削れている。


玄関の前で、同行者が言う。


「……鍵、どうします?」


小林は答えなかった。


代わりに、

ノブに手をかける。


最初から、開いていた。


鍵穴は、

使われた形跡がない。


内側から、

誰かが“待っていた”ように。


小林は靴を脱ぎ、

当たり前のように中へ入った。


「ほら。

 ちゃんと覚えてた」


何を、とは言わなかった。


廊下の奥、

一番突き当たりの部屋。


畳が敷かれ、

家具は何もない。


なのに、

床には、

人が立ち上がった跡が

いくつも残っていた。


小林はその中央に立ち、

深く息を吸う。


「……久しぶり」


同行者の背後で、

玄関の扉が、

音もなく閉まった。


振り返ると、

鍵が――

内側から、回っている。


小林は振り向かずに言った。


「大丈夫。

 ここ、出入り自由だから」


その言葉の直後、

廊下の壁に、

新しい影が一つ増えた。


影は、小林の足元から伸びていた。

※追記事項


・該当住所は、行政・地図・登記のいずれにも存在が確認できない。

・ただし小林 治は該当物件の間取り・構造を

 事前に正確に把握していた。


小林 治

「物件ってね、 空くと寂しがるんだよ。

  だから、呼ぶんだ」

と記憶

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