ファイル33 眠らない和室
築古の2DK。
問題の和室は、南向きで風通しもよく、湿気の気配はない。
それでも畳の中央に、
人ひとり分の凹みがはっきり残っていた。
管理会社が畳を裏返しても、
新品に入れ替えても、
翌朝には同じ位置に、同じ深さの寝跡。
同行者が首をかしげる。
「夜、誰か入ってきてるんですか?」
そのとき小林は、
何のためらいもなく布団を一組取り出し、
凹みの横に敷いた。
「違うよ」
布団をぱん、と整えながら言う。
「減ってるだけ」
同行者が聞き返す前に、
小林はさらにもう一組、布団を広げた。
「ほら、場所あけて」
畳の上には、
自然と三人が川の字で寝られる配置ができていた。
その夜、
記録用に撮影された和室の写真。
誰も入っていないはずなのに、
布団は三人分、
それぞれが使い慣れたように、
軽く沈み、しわが寄っていた。
中央の布団だけ、
呼吸に合わせるように、
わずかに上下していたという。
※調査後、
和室での宿泊を避けるよう指示したが、
翌朝には畳の寝跡が四人分に増えていた。
小林は報告書の欄外に、
小さくこう書き足している。
「和室はね、
寝る場所じゃない。
数を数える場所なんだよ」
その日以降、 該当和室の図面は
間取り図から消失。
現地では依然として
「もう一部屋ある気配」だけが残っている。




