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【ホラー小説ランキング2位達成】5千PV突破 訳あり不動産の事故物件調査ファイル  作者: 虫松
第一部 小林治編

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ファイル30 シェアハウスの靴箱に増える片方だけの靴

物件は、駅近のシェアハウス。

築年数は古いが、リフォーム済み。


事故歴なし。

告知事項なし。


入居率は常に満室。


ただし、人数が合わない。


靴の数


玄関には、大きな共用の靴箱。


入居者は、

契約上、8名。


靴箱の中には


左足の靴:11足

右足の靴:8足


合わない。


デザインも、

サイズも、

揃っていない。


古い革靴。

子供用のスニーカー。

片方だけのヒール。


入居者の証言


「誰か、

 勝手に置いてるんですよ」


「捨てても、

 次の日には戻ってる」


「……履いた覚え、

 ないです」


誰も、自分のものだと言わない。


小林は、

靴箱の前にしゃがみ込む。


一足、

片方だけの靴を手に取る。


底は、

少し湿っている。


「……歩いてきたね」


そう呟いて、

棚に戻す。


深夜。


定点カメラ映像を確認。


玄関には、

誰もいない。


だが、

靴箱の扉が


きぃ……


わずかに開く。


映像が、

一瞬だけ乱れた。


次の瞬間。


左足の靴が、

一足、増えている。


小林は、

靴箱に向かって言った。


「揃えなくていいよ」


返事はない。


だが、

靴箱の奥で、

コトン

と音がした。


「片方だけで、

 来る人もいるから」


翌朝。


左足:12足

右足:8足


増えたのは、

左だけ。


入居者は、

全員そろっている。


それでも、

玄関の靴箱は満杯だった。


備考欄


小林は、調査ファイルに書く。


靴箱

所有者不明の靴あり

※左右不一致 捨却不可


帰り際。


小林が、

靴箱の扉を閉めようとすると


中から、

引っ張られる感触。


片方の靴が、

奥へ、奥へ。


小林は、

抵抗せず、

手を離した。


「……じゃあ、

 そこに入ってて」


扉が、

静かに閉まる。

※追記事項


片方だけの靴、すべて屋外使用痕あり

サイズ分布、過去の行方不明者データと一部一致


小林 治

「人は、 ちゃんと揃って 帰れないことがある」

と記憶

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