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【ホラー小説ランキング2位達成】5千PV突破 訳あり不動産の事故物件調査ファイル  作者: 虫松
第一部 小林治編

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ファイル28 押入れの奥行きが日替わりで変わる部屋

間取りは2DK。

築年数はそこそこ。

事故歴、なし。


管理会社からの依頼内容は、

ひとことで言えば違和感だった。


「押入れの奥行きが、日によって違う気がする」


測定記録

和室の押入れ。


引き戸を開けると、

中は普通の押入れに見える。


小林は、

メジャーを当てた。


1日目:92cm

2日目:118cm

3日目:74cm


壁に歪みはない。

床も沈んでいない。


変わっているのは、距離だけ。


小林は、

押入れの中を覗き込み、

しばらく黙っていた。


「今日は……少なめだね」


返事は、ない。


だが、

奥の闇が、

わずかに呼吸するように見えた。


「入る人数で、

 決まるんだよ」


誰に向けたでもない声。


小林は、

押入れの奥板に

手のひらを当てた。


板は、

人肌の温度だった。


「順番、

 ちゃんと守ってる」


壁の向こうで、

何かが動いた気配。


ごそり


押入れの奥が、

一瞬だけ、遠のいた。


同日深夜。


再測定。


奥行き:163cm


人ひとり、

無理なく立てる。


小林は、

そのままメジャーを置いた。


「今日は、

 立つ人が多いんだ」


翌朝。


管理会社から連絡。


『昨夜、

 押入れの中から

 物音がしたと

 近隣から通報が……』


小林は、

記録を見ながら答えた。


「はい。

 満室でしたから」


小林は、

物件ファイルに淡々と書き足す。


押入れ

奥行き変動あり

※収納数により増減

夜間使用率高


帰り際。


押入れの引き戸が、

内側から、わずかに押されている。


人が立ったときの、影の形。


小林は、

それを見て、穏やかに言った。


「もう入らないよ。

 今日は、

 これで終わり」


押す力が、

すっと消えた。


翌日、

押入れの奥行きは

58cmに戻っていた。


誰も、立っていない。


※追記事項


当該物件、押入れ内部での人感センサー反応あり

※設置記録なし


深夜帯(1:30〜3:00)に限り、

奥行きが最大値を超える数値を示すことがある(測定不能)


押入れ内から、複数人分の呼吸音が同時に記録された日あり

※数は毎回一致しない


押入れの奥板に、内側から爪で引っ掻いた痕跡

ただし木屑は室内に落ちていない


小林 治

「入る場所があるなら、 出る必要はない」

と記録

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