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【ホラー小説ランキング2位達成】5千PV突破 訳あり不動産の事故物件調査ファイル  作者: 虫松
第一部 小林治編

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ファイル27 浴槽が乾かない浴室

事故歴なし。

告知事項なし。


間取りは1LDK。

日当たりもよく、風通しも悪くない。


ただひとつ。

浴槽だけが、乾かない。


常に濡れている浴室


内見に入った瞬間、

若い内見者が眉をひそめた。


「……湿気、すごくないですか?」


浴室の扉を開けると、

空気が一段、冷たい。


浴槽の縁には、

水滴がびっしりと残っている。


拭いても、

数分後にはまた浮いてくる。


排水口を覗くと、

絡みついた長い髪の毛。


管理会社は、

「前に清掃したばかり」と言っていた。


増える髪


排水口のカバーを外す。


中には、

明らかに量のおかしい髪の毛。


短いもの。

長いもの。

色も、太さも、ばらばら。


内見者が顔をしかめる。


「これ……清掃入ってないんですかね。

 汚いです。」


小林は、

浴槽の中にしゃがみ込み、

手のひらで底を撫でた。


「……まだ温かいね」


その声は、

浴室のタイルに吸い込まれるように、

低く響いた。


出てないだけ


内見者が、冗談めかして聞く。


「まさか誰か、さっきまで入ってたんですか?」


小林は、

浴槽から顔を上げずに答えた。


「うん。

 入ったまま、

 出てないだけだよ」


空気が、止まった。


水滴が、

ぽたり、と浴槽に落ちる。


内見者は笑おうとして、

失敗した。


水の形


その日の夜。


調査用に撮影した写真データを、

小林が整理していた。


浴室。

浴槽。

排水口。


最後の一枚。


誰もいないはずの浴槽に、

水跡が残っている。


それは、

偶然では説明できない形だった。


丸く、

背中を丸め、

膝を抱えるような姿勢。


まるで、

人が、ずっとそこに座っていた跡。


水は、

そこだけ乾いていない。


※備考欄


小林は、

物件ファイルの備考にこう書き足した。


「浴槽使用中、退去未確認」


書き終えた直後、

スマートフォンが震える。


管理会社からの着信。


『あの部屋なんですが……

 最近、水道代が

 “人が住んでる時と同じ”なんです』


小林は、

浴槽の写真を見つめたまま、

静かに答えた。


「そう。

 じゃあ、まだ

 住んでるね」

※追記事項


当該物件、浴室使用不可として再募集検討中


排水口の髪の毛、清掃後24時間で再出現


小林治

「お湯は冷めても、人はすぐには出ない」

と記録

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