表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ホラー小説ランキング2位達成】5千PV突破 訳あり不動産の事故物件調査ファイル  作者: 虫松
第一部 小林治編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/49

ファイル24 空室なのに鍵が返ってこない部屋

築三十五年の低層マンション。

事故歴なし。告知事項なし。

だが管理会社のメモには、赤字でこう書かれていた。


「退去後も、鍵が戻らない」


合鍵を作っても作っても、

翌朝には“使用済み”になっているという。


内見当日。

千堂がまだ在籍していた頃なら、

この手の話は笑って流していただろう。


だが今、小林は一人で部屋に入った。


「……まだ住んでる気なんだね」


誰もいない室内に向かって、

そう声をかける。


返事はない。

だが玄関の三和土に、

新しい靴跡があった。


奥の和室。

畳の中央に、鍵が一本置かれている。


管理会社が紛失したはずの鍵だ。


小林はそれを拾い上げ、

しばらく掌で温度を確かめるように握った。


「冷えてない。

 ……昨日まで使ってたね」


その瞬間、

押し入れの襖が、内側から軽く叩かれた。


コン、コン。


人が入るには、少し狭い。


小林は溜息をついた。


「出てこないなら、

 ここは“空室扱い”にできないよ」


襖の向こうで、

何かが身じろぎする音。


畳が、わずかに沈んだ。


小林は鍵をポケットに入れ、

静かに言った。


「……わかった。

 じゃあ今夜は、俺が管理人でいい」


帰り際、

玄関のドアが閉まる直前、

室内から声がした。


「……かえらない……」


小林は振り返らなかった。


「大丈夫。

 帰らなくていい部屋、

 ちゃんと用意するから」


翌日。

管理会社に返却された鍵は、

内側から濡れていたという。

※備考

小林治、当該物件に対し

 「住んでいる/住まれている」の区別を行わず。

調査終了後、 同様の鍵紛失報告が三件増加。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ