ファイル21 玄関の前に置かれる『謎の赤い袋』
ある日、小林が書類を机に置いた。
「次はこれ。事故死なし、事件なし。
普通のアパートなんだが……住人から変な相談があってね」
千堂が資料を見る。
通報内容はただ一つ。
『毎朝、玄関前に赤い袋が置かれる』
千堂
「イタズラ……ですか?」
小林
「管理会社はそう思ってる。でもね、監視カメラには誰も映ってないんだって」
千堂の背筋がぞわりと冷えた。
◇◇◇
現地は、どこにでもある古いアパート。
事故物件には絶対に見えない。
だが、どこか空気が湿っていて重い。
千堂
「……なんか、じめっとしてますね」
小林
「昔からこの敷地は評判がよくなくてね」
何が“よくない”のか。
小林はそれ以上語らなかった。
部屋の中は綺麗だった。
特に問題はない。
だからこそ、
何かが起きる予兆がひどく不自然だった。
千堂が玄関に戻った瞬間
コン……
小さな物音。
ドアを開けると、
真っ赤な袋が、ある。
千堂
「え……!? さっきまでは……」
小林はいつもの調子で肩をすくめる。
「出たねぇ。“この部屋の名物”が」
千堂は震える指で袋を開いた。
中から出てきたのは
・泥で濡れた小さな靴
・湿った黒土の塊
・そして、何かの白い欠片――骨の破片にしか見えない
千堂「ひっ……!」
濡れた土の匂いが鼻を刺す。
まるで“掘り返したばかり”のように生々しい。
千堂
「これ……誰が……?」
小林
「知らない方がいいよ。帰ろう」
彼は珍しく、そこから先の説明を避けた。
アパートを離れたとき、
小林がぽつりと呟く。
「この建物の下、昔はね……墓だったんだよ」
千堂「……え?」
小林
「誰かが靴を届けてるんじゃない。
中にいる誰かが“持ってきてる”んだよ」
千堂の足が止まる。
だが小林は振り返らず、歩き続けた。
その夜。
帰宅した千堂は、玄関の前で固まった。
赤い袋が落ちていた。
しかも、
アパートとは違う。
袋は“雨に濡れたように”湿っている。
震える手で開ける。
中には
・泥水に浸った小さな靴
・黒ずんだ土
・そして――
白く、細長い“指”のようなもの
千堂「……う、そ……」
頭が真っ白になった瞬間。
部屋の奥から、
泥水が床に滴るような ポタ……ポタ…… という音が聞こえた。
千堂は悲鳴をあげ、
そのまま倒れるように眠りに落ちた。
夢の中。
■暗い地面を掘る音。
■泥まみれの小さな手。
■赤い袋を持った子供。
■千堂の前に近づく。
子供「……かえして……」
袋を差し出す。
子供「ぼ、くの……
あし……かえして……」
袋の中には――
腐敗した小さな屍の脚
千堂「やああああああ!!」
彼女は悲鳴とともに飛び起きた。
玄関を見た。
赤い袋は消えていた。
だが玄関に泥の小さな足跡だけが、
しっかり残っていた。
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