ファイル20 孤独死した老人の部屋と見守りカメラ
ある日、小林が千堂に資料を渡す。
「次はこれ。孤独死のあった1DK。クリーニング済みだ」
書類には淡々と “告知事項あり” の文字。
数か月前、一人暮らしの老人が孤独死したという。
千堂
「クリーニングしてるなら……普通ですよね?」
小林
「“見守りカメラ”が残っててね。取り外しは家主の判断待ち」
千堂(……カメラ?)
嫌な予感が胸をよぎる。
◇◇◇
内見当日。
室内は驚くほど綺麗だった。
消臭も完璧で、生活感はほぼゼロ。
だが
千堂は天井を見上げて固まった。
黒く光るドーム型の見守りカメラが、
部屋の中央を見下ろしている。
千堂
「……まだ動いてるんですか?」
管理会社
「電源は落としてます。ただ、外していないだけで」
しかし。
千堂が一歩動くたび、
カメラのレンズが ギ……ギ…… と僅かに動き、
彼女を追っていた。
千堂
「今……動きましたよね!?」
小林
「気のせいだって。配線は全部切られてる」
だが千堂には、
確かに“誰かに見られている”感覚があった。
その日の夜。
家主からメールが届いた。
『先日、見守りカメラの録画データを整理していたら、
内見の映像が残っていました。送ります』
え?
電源は切られていたはずなのに?
添付されていた映像を再生すると
赤外線モードの薄暗い映像。
千堂が怖がりながら部屋を歩く姿が映っている。
そして。
千堂の“すぐ背後”に、
ぼんやりと映っていた。
背中を丸めた老人の影が……
千堂の肩をのぞくように、立っていた。
千堂「ひっ……!?」
慌ててスマホを落とす。
震える千堂に、小林は淡々と告げる。
「孤独死した人はね……
ずっと部屋で一人だったんだ。
誰かに見ていてほしいんだよ。
生きてても、死んでても」
千堂「……!」
その言い方が妙にリアルで、
千堂はその夜、なかなか眠れなかった。
数日後。
千堂が自宅でスマホ充電をしようと、
電源タップを持ち上げた瞬間
カラ……ン
中から、小指の先ほどの黒い機械が転げ落ちた。
千堂「……え……?」
管理会社に持ち込むと、
担当者は青ざめた顔で言った。
「これ……盗聴器です」
つまり。
誰かが、
千堂の部屋の“生活の音”を、ずっと
聴いていた。
千堂は、その夜、
部屋のどこからか聞こえるような気がした。
《聴いてるよ君の事》
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