ファイル19 タワーマンション1504号室の消える内見予約
ある日、小林宛に一本の依頼電話が入る。
「1504号室、なんで内見が入らないんだ? うちに任せたい」
調べてみれば、
家賃50万円クラスの超高級タワマン。
事故物件にも見えず、条件は完璧。
千堂「こんな物件、すぐ決まりますよね?」
小林「……普通なら、ね」
意味深な返しに違和感が残る。
異常な“内見キャンセル率”
前の仲介会社の記録では
・10人が内見予約
・10人全員、当日キャンセル
・理由はすべて「急な体調不良」
千堂「全員が? 偶然じゃないですね……」
3.内見当日 ― エレベーターの異変
タワマンのロビーはホテルのように豪華。
だが1504号室へ向かうエレベーターで。
キーン……
千堂の耳に鋭い耳鳴りが走る。
千堂
「……うっ……!」
小林
「大丈夫か? ここ来ると、具合悪くなる人多いらしい」
千堂は、胸に重石を乗せられたような圧迫感を覚える。
扉を開けると、思わず言葉を失う。
・ダイニングに食器
・ソファにブランケット
・シンクには水滴
・寝室のベッドは誰かが今朝まで使っていたように乱れている
1504号室 “生活の気配がそのまま”
千堂
「まだ住んでる人、いるんじゃ……」
小林
「いないよ。鍵は管理会社が回収してる」
生活感は濃厚なのに、
家主は“存在しない”はずの部屋。
千堂はリビングを歩くほど、
誰かに背後を覗かれている感覚に襲われる。
ふと、キッチンの方から
カタン……
と音。
千堂
「今、音しましたよね?」
小林
「いや……聞こえたか」
冷蔵庫の隙間が、ほんの少し開いている。
さっき見たときは閉まっていた。
中には賞味期限の切れた食べ物がびっしり。
まるで時間が止まった家のようだった。
マンションを出て歩きながら、小林が呟く。
小林
「この部屋の住人ね……」
千堂
「……はい」
小林
「まだ帰って来てないだけなんだよ」
千堂「……?」
小林
「“出かけたまま帰ってない”んだ。
10年くらい前から……ずっと」
千堂
「……それって……行方不明……ですか?」
小林は答えず、前だけを向いて歩く。
◇◇◇
その夜。
千堂のスマホが突然鳴る。
表示された番号は――
「1504」
登録した覚えはない。
恐る恐る出る。
千堂「……もしもし?」
無言。
何も喋らない“誰か”の気配だけが電話越しに流れ込む。
千堂「……あの、どちら様ですか……?」
沈黙。
呼吸音すらない。
ただ、遠くで
エレベーターの到着音だけが鳴った気がした。
プツッ。
通話が切れた。
画面を見る。
着信履歴
1504号室
千堂「ついに……あの部屋に帰ってきたの……?」
ファイル19 タワーマンション1504号室の消える内見予約 完




