救世主(22)
「何度も何度もしつこいんだよ、この裏切り者が!」
「てめぇこそ邪魔なんだよ。そこをどけ。あの紫を墜としゃ勝負は決まりなんだからよ」
パルタナ操るコフトカにナセールのエンデロイは分が悪い。ただでさえ質実剛健な造りと思えるトゥルーバルのアームドスキンでも上位機だ。量産機ではパワー負けしてしまう。
(時間があれば後継機をもらえたかもしれないのに悔しいぜ)
迎撃戦での彼の戦績はめざましい。可能性は低くない。
(フェンブルならこいつだって退けられただろうに、こんなとこで苦戦する羽目になるじゃん。明らかに腕ならオレのほうが上だってのによ―)
テクニックでカバーしつつ隙を突いて押しかえすのが精一杯。
踏んばらないわけにもいかない。露骨に戦闘力を落としている少年のヴァオロンが、宙賊パトロール部隊に多大な損害を与えていたあのオズ・クエンタムを受け持っているのだ。パルタナていどで泣き言など漏らしていられない。
「抜かせっかよ! お前を撃破して金線を手に入れてやる!」
「つまんねー男だな。もっと大志ってもんがねえのかよ。こっちはバルキュラ再生っていう大義があるんだぜ」
「黙れ、反吐が出る。腹ん中じゃ欲望が渦巻いてるだけだろ」
復讐心と征服欲で動いている人間に負けていられないと思う。ヴォイドの存在を笠に着て正義を唱える気もない。ただ身近な希望を胸にしているだけでも彼のようなパイロットは戦えるのだ。
「おらぁー!」
「うおおおー!」
パルタナの上段からの斬りおとしにナセールはブレードを振りあげた。
◇ ◇ ◇
集中する敵部隊の数にヴァオリーを集めて対処している。友軍の援護も有効だが、オズを振り払うには至らない。
痛みは限界まで投与した鎮痛剤で抑えられていても、頭蓋骨を破裂させるかのような脳の膨満感がヴォイドを苦しめる。ときどき目の焦点が合わない。限界が近いのだと思う。
(せめて此奴だけでも)
名のあるパイロットらしい。墜とせば戦局は大きく傾けられる。
「手応えがないな。侮っておるのか?」
ブレードの連撃で攻めたてられる。
「認めてやろう。お前の腕だけはな」
「ならば退け」
「勘違いするな。認めるのは腕だけだ。信念も義も認めない」
激発して大雑把にならないか一縷の望みをかける。
集束刃の突きをフォトンブレードで絡めて外へと弾く。接近戦ゆえの素早さ重視で雑な照準のビームも読まれて虚空を貫いた。回りこむオズに勘だけの斬撃を放りこむ。ジェットシールドを撫でただけでも牽制になった。
「お前の目指す先には何もない。あるのは繰り返される闘争だけだ。それが望みか?」
続く一撃に微かな遅滞。癇に障ったか。
「ある! 力あるものが生みだす繁栄と安寧がある。市民は気付くのだ。速やかに受け入れるべきだったと」
「違うな。苦しむさ。不自由と孤立に」
「仮にそうだとしても国力には代えがたい。自由と尊敬は国力の先にある」
オズの望む力は隔絶を生むと分からないようだ。
パルスジェットの弾ける音とともに機体をひねる。予想だにしない間合いの取り方にコフトカは一瞬の躊躇を見せた。左腰のビームカノンのグリップをブレードを持つ左手で叩いて砲口を向ける。放たれた光に強引にシールドを押しつけたオズが前に出る。
「軍事政権は幸福を生まない。歴史に習わなかったか?」
両足を突きだしてジェットを噴かす。戦闘宙域の上に機体を流した。
「三星連盟時代は人心をないがしろにし過ぎた。教訓は我らの中にある」
「それでも市民は不満を抱くぞ。全体主義思想は個々の満足を得られない」
「そんなことはない。強大な軍に守られ、平等を謳歌すればそれが普通になる」
追ってくるに任せる。
「お前のような男はいつの時代も平等を謳う。名ばかりの平等を」
「違うと言っている。我らは人類にあまねく平等と平和を招くのだ」
「その上に君臨するのか? 一部の選ばれた軍人が」
攻撃は大振りに、照準は甘くなってきている。かなり熱くなっている証拠だ。年若い者に論破されるのは神経を逆撫でするのだろう。
滑らせたブレードの突撃の間隙にヴァオロンを忍びこませる。予想通り叩きつけてきたビームカノンのグリップに右肘を合わせた。破壊された指がカノンと一緒に飛び散っていった。
「我が理想を蔑むか!」
「そんな難しいことを言っているのではない。僕は上手くいかなかった別の歴史を知っているというだけだ」
左腕の付け根を撃ちぬいて吹きとばす。回転して頭部に踵を落として潰す。離れていくオズのアームドスキンを上から一文字にビームで穿った。
「きーさーまー!」
「恨み言ならもう少し後で聞こう」
爆炎の中に九十年の長きに渡る恨みと妄執は消えていく。無念を長引かせないのが幸せか? それとも生きて理念の誤りに気付くほうが幸せか? 長大な歴史を身のうちに秘めた少年にも判断はつかない。
要となる戦力の撃破は敵部隊全体に波紋のように広がっていく。バルキュラ迎撃部隊はここを機とばかりに戦列を押しあげていっている。
(これでミザリーに最期の言葉を伝えられるかもしれないな)
ヴォイドは機体をヴァオル・ムルへと向けた。
次回 「そんな……、無慈悲な」




