【65】サハギン捜索
ネイアとサーチャがめっちゃ俺をぷにぷにした後、『ポリプ化』を発動させた俺が何日間眠っていたのかを、改めて聞いてみた。
するとネイア曰く、俺が眠ったのは昨日のことらしい。つまり、たった一夜で進化は完了していたことが判明した。
もしもこの世界に地球の生物学者がいたら、この不条理な現象に嘆くかもしれないが、俺にとっては時間を無駄にしなくて済んだわけだから、歓迎すべき現象だろう。
特に今はサハギンの襲撃からアトランティスを護らなければいけないのだから、長く眠っているわけにもいかないしな。
といって、仮に長く眠ることになったとしても、休眠期間は俺の意思で短縮できるわけではないから、どうにもならないのだが。
それならばさっさと進化して、戦力を向上させた方が良いというのが、急いで『ポリプ化』に踏み切った理由でもある。
――ともかく。
俺が進化して目覚めたのが転生六十八日目で、現在は転生七十日目だ。
この数日間で俺の体は雨後の筍もかくやという勢いでぐんぐんと成長し、触手を含めて体長2メートルほどにまで大きくなっている。
体の成長に伴い、低下していた【HP】と【身体強度】の値が括弧内の数値まで回復したので、おそらくこれ以上大きくは成長しないのだと思う。したとしても、急激な成長はしないはずだ。
大きさとしては、アクア・シームーンだった頃とほとんど同じだ。ただ、その見た目が微妙に違っているだけである。
まあ、スキルとかパラメータは結構違うけどね。
ちなみにネイアたちは俺が大きくなって、少しだけ残念そうにしていた。しかし、刺胞が無くなったからか、ネイアとサーチャのスキンシップが以前までより少し増えている。
俺も可愛いお姉さんたちと健全な触れ合いができて満足だ。
実はメスだったとかいう衝撃の事実はともかくとして、このクラゲの体になってから人間のオスだった頃の滾るような性欲は完全に無くなっているからなぁ。
正直ネイアのおっぱいを見る度に触りたいとは思うが、男だった頃の性欲からくる願望ではない。柔らかで触り心地の良さそうなそれに触り、感触を楽しみたいという純粋な欲求である。ネイアたちが俺の体をぷにぷにしたいと思う欲求と同じだ。
男としての性欲を失ってしまったのは悲しい気分だが、人生というのは性欲が全てではない。切り替えていこうぜ、俺。クラゲだけど。
てなわけで、色々なことに思いを馳せつつも、俺は神殿の中で成長のために、食っちゃ寝を繰り返していた――わけではない。
レウスに約束したように、サハギンどもの巣を探すため、アトランティス周囲に着々と「座標」を設置し、千里眼もどきで捜索していたのだ。
もしかしたら、地味に前世よりも働いている気がしないでもないんだよなぁ。
んで。
肝心の巣は見つかったのかと言うと……いやマジで見つからんのよこれが。
まずはアトランティスの海底都市外周からぐるりと「座標」を設置し、「空間識別」で虱潰しに探そうと思った。
しかし、この捜索方法はそうそうに断念することになった。
というのも、この方法だと設置する「座標」の数が洒落にならない。海底都市部分まで含めると、アトランティスの外周は一周、軽く60キロメートル以上もあることが判明した。つまり計算してみると、海底都市部分まで含めたアトランティスの直径は少なくとも20キロメートルにも及ぶ。だいぶざっくりとした計算だが。
一番手前側の外周でそれなのだ。
これを「空間識別」の半径分ずつ外側に伸ばしていき、虱潰しに「座標」を設置していくとなると、サハギンの巣を見つけるまでにいったい幾つの「座標」が必要になるのか想像もつかないほどだ。
なので、この方法は却下。
となると、捜索方法は自然とサハギンどもの活動範囲から絞り込む方法に変わる。
まずはサハギンどもがどの方角からアトランティスを襲撃したかと整理してみた。ここで一定の偏りがあれば、その方角へと捜索の手を伸ばしていけば良い。
だが、ここでも問題が発生した。
ネイアや巡回の兵士たちにも協力してもらい、サハギンがどこから襲撃したのか、情報を集めるべく聞き取り調査を行ったんだ。結果、大規模な襲撃は俺の居候している海底神殿にほぼ集中していたのだが、その他の小規模な襲撃となると、満遍なく全ての方角から襲撃があったのだ。
例外はレウス率いる兵士たちを襲った、2000体のサハギンだけだった。
ここまで来ると、まるで自分たちが何処からやって来たのか、悟らせないためにそうしているようにも思える。
なので、巣の方角を推測することさえ出来なかった。
だが、この俺とて今は一匹のクラゲに過ぎないが、以前はホモ・サピエンスだった身だ。元・現生人類のプライドにかけて、魚類だか哺乳類だかはっきりとしないような奴らに、知恵比べで負けるわけにはいかない。
まだ手はある。
サハギンどもが襲撃してきたら、わざと数匹を生かしたまま逃がし、千里眼もどきで後をつけるのだ。そうすれば奴らの巣の場所が、おのずと判明するはずである。
完璧だ。完璧な作戦だ。
だが、ここでも問題が俺の行く手に立ちはだかった。
何かというと、先日の大規模な襲撃を境にして、サハギンどもの襲撃がぱったりと無くなってしまったのである。
実は先日の襲撃で、全てのサハギンが駆逐されていたのか?
あの襲撃はサハギンどもの乾坤一擲の大攻勢、背水の陣で臨んだ最後の戦いだったのか?
その可能性は十分にある。というより、むしろその可能性の方が高いだろう。やはりサハギンたちは第二楽園島を出た後、少しだけ繁殖したか、あるいは別の群と合流して数を増やしただけだったのだ。
つまり、サハギンの駆逐という女神様から与えられた仕事は、これで完遂した……?
『……いや』
だが、と俺は否定する。
単に繁殖しただけにしては、別の群と合流しただけにしては、群に混じっていた黒サハギンの数が多すぎはしなかったかと。
黒サハギンは、普通の繁殖では生まれないはずである。いや、黒サハギンが親の場合にどうなるのかは、俺には分からないのだが。
だとしても、これでサハギンどもを駆逐したと断ずるには、微妙な違和感を拭えない。
これは仕事が終わったからネイアたちと別れなければいけないかもしれない、それが何となく嫌だという、俺の気持ちとは無関係な違和感のはずだ。
ネイアとレウスは襲撃がなくなったことによって、サハギンどもを、少なくともアトランティス周囲から駆逐できたと考えているようだ。
まだ警戒は続けているが、あと数日も襲撃がなければ、そのように判断するだろう。
しかし、それでも俺は「座標」を海のあちらこちらに設置していき、千里眼もどきでサハギンの姿を探していた。
最悪1体でも見つかれば、そいつの後を追うことで巣を見つけることができるかもしれないから。
だけど、さらに3日が経過しても、サハギンの姿を見つけることはできなかった……。




