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魔法使いの孫【連載版】  作者: たまさ。
魔法使いの真実
24/43

その1

「借金を返しに来たのか?」


第一声がそれってどうなのだろうか。

風香は予想はしていたものの、やはり予想通りの台詞を返されたことに深い溜息を吐き出し、肩をすくめて首をふった。


「クリストファー君、そんなのじゃ女性にもてないよ」

「相変わらずだなヴィストっ」

「だーから、ヴィストじゃないったら」

 同じ掛け合いというパターンにはまりつつ、本日の風香が強気なのにはもちろん理由がある。


「ま、とにかく。

あたしはあの腐れジジイではありませんが、一応孫という立場上色々と仕方の無いことだとは理解しているので、渋々ではありますがその証文の通り――耳をそろえて返してやらぁっ」

 どんっとテーブルの上に置いたのは、金貨が三枚。

通貨価値は風香にしてみればいまいち判らないし、金色しているからきっと金貨だろうという曖昧な感じなのだが、ドーンに「これを渡せばいい」と持たされたものだ。

 それでも今朝のドーンは少しばかり不満そうであったが、絶賛ニートも用事があるとかで一人で出かけていってしまった。

 そう、現在はクリストファーの自宅。

まさに敵地だ。


「……」

 ずいっと突きつけられた金貨を前に、クリストファーは胡散臭いものでも眺めるようにして風香と金貨とを眺めていたが、やがて不満気に「どうせドーンに出させたんだろう」と眉間に皺を寄せた。


その通り。


もちろん、この国で無一文ばりばりな風香が耳をそろえてさっくりと借金の返済などできよう筈がない――というか、あくまでも祖父ちゃんの借金であって風香の借金では無い。しかし、ドーンから差し出されたこれに風香が嬉々として手を出した訳ではないことは風香の名誉の為に告げておかねばなるまい。


「ドーン大叔父さんから貰うのは……」

「もともとヴィストの金だと思えばいい。この家をヴィストは継ぐことはもう適わないのであれば、次の跡取りは風香か、私だ。だが風香は帰るという。これは、風香にも権利のある金だ」

 そう言われると、そうなのだろうか?


祖父ちゃんの財産……


祖父ちゃんはその昔にタエ祖母ちゃんを金で買った程に実は財産家だが――おや、今何かが引っかかった。

 風香は眉間に皺を刻んで顔をしかめた。

こっちからあっちに魔法の失敗で飛ばされた祖父ちゃんが何故財産家なのだ? 風香のように無一文で放り出された筈だというのに。

 あちらとこちらでは紙幣が違う。こちらはコインを主としていて、ウィニと称される。もちろんあちらは日本円。

 だが祖父ちゃんはそれなりの金を持って祖母ちゃんをひっさらったという人生の汚点をもっている――あくまでも祖父ちゃん曰くの結納金らしいが、どう考えても人身売買まがいの悪行だ――


「クリストファーさん」

「さん?」

 クリストファーは何やら不満がありそうな顔をしつつも金貨と風香とを交互に眺めている。

あくまでもドーンの金というのが引っかかっているのだろう。


「つかぬことをお尋ねしますが」

「つかぬ?」

「その借金って、祖父ちゃんが消えるどれくらい前にした借金なの?」


風香の声が微妙にビブラート。

だがそんなことより別の点に引っかかる様子のクリストファーは、自分の部屋の椅子にふんぞり返り「そんなことも忘れたのか? そもそもその祖父ちゃんと孫設定もいい加減にしろ。都合の悪いことばかり忘れたフリをする為の下地のつもりじゃないだろうな? お前は昔っから……」

 言いながらクリストファーはおもむろに机の引き出しを開くと一冊の本を取り出した。否、装丁は本のようだが、開かれたそれはどうやらノートだ。

 ぱらぱらとめくりあげ、クリストファーは読み上げた。


「一年と……ああ、ここだな。

X月X日、明け方に濃い霧霧の立ち込めた日。ヴィストがまたしても金を貸せと言い出す。前回の借金をまず返せと要求したが、前回のことはマーリカの件で帳消しだとかふざけたことを言う。ヴィストのおかげでマーリカとデートできたのは事実だが、手元にある金はそのマーリカへの贈り物を買う為のものだと渋ると、すぐに返すからと言う。仕方なく金を貸すことにするが、マーリカの……つまり、オレが振られたのはオマエのせいだっ。おまえが期日どおりに借金を返さないからマーリカの誕生日に彼女の欲しがっていたネックレスを送ることができずに、仕方なく耳飾にしたら彼女は落胆したんだぞっ」


 むしろふられて良かっただろうに、そんな女。

自分の書いた日記を恥ずかしげもなく読み上げたあげく、中身がそれではあまりにも残念すぎる。

うんざりとしながら風香は相手の言葉を蹴飛ばした。

「もういいよ、ヴィストでも何でも。

とにかく、その借金はヴィストが居なくなる何日前?」


「お前が家出する一日前」

「お前かぁぁぁっ!」


絶対にビンゴ。

祖父ちゃんが山の中で徳川の財宝でも発見したのではなければ、絶対に大当たり。

風香は拳を強く握り締めて叫んでいた。


「お前が祖父ちゃんに金を貸すからタエ祖母ちゃんが売られたんだーっっっ」


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