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魔法使いの孫【連載版】  作者: たまさ。
魔法使いの母
18/43

その2

「あれ、でもそうしたら今までよくドーン大叔父さんはこの格好について何も言わなかったなぁ」


 今は着替えていつも通りの祖父ちゃんのズボン姿の自分を見下ろし、風香は首をひねった。

女性のズボンが駄目というなら、これだって駄目だろう。

「あら、風香は女の子というより……」

「すみませんね、男の子っぽくて」

 うう、みなまで言わなくて良いです。

祖父ちゃんに似ている自分が恨めしい。


 それに、エリスやこちらの侍女さんを思うに全体的に女子力が高い。女の子は【女の子】が全面押し出しだ。化粧も女らしさの仕草も怠らない。

せめて髪を伸ばすくらいの努力はしてみせよう。

 顔の造作は変えようがないけど。

そう、学生の頃には女の子から黄色い声を送られてしまっていたことはすでに黒歴史だ。


溜息を吐き出し、風香は肩をすくめて腹をくくった。

「とりあえず……コルセットってどうなのよ?」


***


 さて、ドレス。

……結論は実に簡単に出てしまった。

ヘレンは気まずい調子で視線をそらし、侍女は引きつった笑みで「お似合いですよ」などというが、あいにくと風香には客観性がある。

 祖父ちゃん似のハンサムといわれ続けた風香にドレスが似合う訳が無い。男性マネキンにスカートをはかせる並の滑稽さに、風香はいそいそとそれを脱ぎ捨てた。


 何より――ウェストが殺人的に、そして壊滅的に苦しい。

コルセットで締め上げるなどという荒業は根本のところで無理で、風香は涙目で「それは堪忍してやって下さい」と侍女とヘレンに謝り倒した。

 コルセット無しで腹式呼吸のように一気に肺に酸素を送り込み、そして吐き出してなんとかドレスの後ろ部分をとめようとしたが、背後から素敵にぶつりという擬音を確かに耳にした。


……きっと、どっか切れました。


「コルセットで締め上げないと普通に入りませんから」と、侍女はおそらくフォローらしいことを口にしていたが、全然ちっともフォローになっていないし、更にそんなもので締め上げられたら肋骨折れる。

 まさかこちらの女性達は肋骨の一本二本とっちゃってたりするのか?

謎の精霊魔法とやらで。それともまさかの力業。


「風香は膨らませた形状のドレスよりも体に沿わせた形状のドレスのほうが似合うわよ」

 さっき体の線が判るのは良くないとか言ってませんでしたでしょうか。

つか、エリスにしたって胸の形バッチリドレスだけど――その許容範囲が判りません。


「もういい。ドレスは却下」

 ぺしぺしと犬でも追い払うかのように手を振りヘレン曾祖母ちゃんの慰めを投げ出し、風香はぐったりと近くのソファに身を預けた。


 ドレスを着よう――というか、女装しようと思ったのが間違いだ。

いやいや、風香は女性なのだから女装とはこれいかに。


 今までの人生で幾度となく「祖父ちゃん似」と呼ばれて来たが、あれは絶対に褒め言葉じゃなかったに違いない。

 ここまでくると祖父ちゃん似と言われるくらいならいっそのことパグ犬に似ていると言われたほうが喜ばしいほどだ。

 へちゃむくれた顔がなんとも素敵。


「でも、風香はとっても可愛いと思うわ」

「曾祖母ちゃん、それは身贔屓ってヤツだと思う」

 そして今は止めて欲しい。

どちらかというと、なんか傷口に塩を練りこまれているような気がする風香だ。


「仕立て屋を呼びましょう。あなたに似合うドレスを作りましょうね」

 今まで幾度か提案していたことを再度口にし、それが実に良い考えだというようにエリスは一つうなずいて微笑んだ。

 今度こそ断らないと思っているのだろう。

そして、心が弱っていた風香は「どーにでもして」と応えていた。 


「ああ、もうっ。

エリスさえやり過ごせればそれでいいのに」

「エリス?」

 ぼやいた風香の言葉に、脱ぎ散らかしたドレスを一箇所にまとめていたヘレンが呟き、ああっと呟いた。


「ドーンの婚約者の?」

「……はい?」

「エリスよね?」


 突きつけられた言葉に、風香は脱力しきっていた体を跳ね起こし、突飛な声で叫んでいた。

「ドーン大叔父さんの婚約者!?」

 なにそれ!。

聞いてない。聞いてない、聞いてない、聞いてないよ。


「まだ正式には決まっていないのだけれど――ああ、もともとはエリスはヴィストの婚約者だったのだけれど、ヴィストがああいうことになったでしょう? だから、あちらからドーンの嫁にという話がきているのだけれど……」


 おっとりと言葉を続けるヘレン曾祖母ちゃんの爆弾発言に、風香はぐっと拳を握り締めてすくりと立ち上がり、思い切り駆け出していた。


 なんということでしょう!

こんな面白いネタを何故ドーン大叔父さんは言ってくれなかったのであろうか。もちろん、言いたく無かったに違いない。というか、ヴィストの件しか言わないのは非道すぎる。


 なんという卑怯者っ。


 ばたばたと屋敷の廊下を走り回り、目にする使用人に「ドーン大叔父さんはっ」と聞きまくり、書斎で目的の人物をとっ捕まえた風香は、まさに鬼の首をとったかのように拳を握り締め、片方の指を突きつけた。


犯人はお前だ! 


って、何の犯人かちょっと判らないけどね。



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