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魔法使いの孫【連載版】  作者: たまさ。
魔法使いの友
13/43

その4

「とにかく、あたしは生憎とあなたの……って、名前何でしたっけ?」

 なんだかきらびやかな名前であったような気がするが、生憎と風香は横文字に弱い。

一度きいたくらいで覚えられたら世話はない。


「貴様は、本気で俺を怒らせたいのか?」

相手の眼差しが更に剣呑さを増して風香をにらみつけてくる。

威圧感はぱんぱんに膨らんだシュールストレミング並。

決して近づいてはいけない。


「だって仕方ないでしょう? 本当にあたしはあなたの友人の、あなたから借金をしたヴィストじゃないんです。あなたから借金をしてトンズラこいた大間抜けなヴィストは、魔法の失敗でココじゃなくて地球って星の日本って国に飛ばされて、そこでめでたく嫁さんをこさえて、あげく子供つくって、子供が子供を産んだのがあたし――つまり、ヴィストの孫なんですよ、あたしは」


 うわー、うそ臭い。


一息でまくしたて、びしりと決めてみたものの自分で説明していてもうそ臭い。

胡散臭い。そして何より阿呆臭い。

面前の相変わらず尊大な様子の男は、ぐっと腕を組むようにして風香を睨みつける。

厳しい三白眼はドーンをも凌ぐ眼力だ。


この世界はそんなのしかいないのか。


「そんな馬鹿な話を信じろというのか?」

「信じなさいよ、いい加減に」

 こっちだって信じたかないさ。

ふんっと鼻を鳴らして、風香も負けまいと睨みつけると、相手の男は口元を引きつかせた。

魔法の失敗で性転換は信じるくせに、どうしてこっちは信じないんだ。

むしろそっちのほうが理不尽だ。


確かに、もし風香の友人が同じことを言ってきたら即刻病院に叩き込む自信があるが。


「じゃあ、問題のヴィストをつれて来い。

どこぞの国で嫁と孫まで作った大馬鹿野郎を連れてきたら信じてやろう」

「できるか! こっちだってどうしてココに飛ばされたのか意味不明だし。そもそも、ヴィスト祖父ちゃんはもう死んだわ、ボケ」

 シンっと、沈黙が落ちた。

風香の言葉をゆっくりと理解するかのように、面前の青年はただ静かに風香を見下ろしている。なんとなく居心地が悪く感じ、風香はもぞりと身じろぎした。


 親友が死んだと言われた男は、ただじっと風香を吟味するように見つめ――たっぷりと数分。

沈黙に耳がおかしな音をひろいはじめそうなころあいに、鋭い眼光の青年は身じろぎした。


「十万歩譲ってその話を信じてやるとして。

――で、そのヴィストの孫は、自分の祖父の借金の返済に来たのか?」

 冷たい口調で言われ、風香はしばらくの間硬直していたが、やがて引きつった微笑を浮かべ、状況を思い出して自らの行いを瞬時に反省した。

 こんな風に喧嘩を売りにきた訳では決して無い。


 慌てた脳内をアドレナリンが駆け巡り、違った方向にこの場を清算しようと働きかけた。

小首をかしげてひきつり笑いでにっこりと。


「魔法を教えてくださーい」

てへ。


「……」


 突き刺さるようにするどいよ、その眼差し。

風香はあまりの寒さに身震いしてしまった。

 そりゃ、お願いをするような態度でなかったことは認めよう。もともと相手に協力を求める為に来たというのに、来た途端に喧嘩腰になってしまったのは、完全に風香の落ち度だ。

 誠心誠意へりくだり、頭を地面にこすりつける勢いでお願いするべき立場であるにも関わらず、明らかに喧嘩上等! 夜露死苦! くるならきやがれはまずい。


 面前にいるのは、ドーンではないのだ。

果たして――祖父ちゃんのご友人であらせられます何がしさんは、そんな風香に優しい手を差し伸べて――くれる訳が無かった。


「顔を洗って出直して来い!」

 まるで猫でも追い払う勢いでぺいっと玄関から放り出された風香は、額に手を当てて反省した。


――祖父ちゃんの関係者、碌なのいないっ。


 その筆頭はもしかして風香かもしれないという事実を、風香はあえて無視している。

ばたんと力任せに閉ざされた扉だったが、風香が嘆息する面前でもう一度開かれた。

「え……」

 虚をつかれてぼんやりと見返せば、扉を支えてにっこりと――先ほどまで般若の様相で風香に対峙していた相手が恐ろしい程にっこりと笑顔を浮かべて立っている。


 意味が判らず、ついで「もしかして機嫌をなおして手を差し伸べてくれる気になったのか?」と風香の胸に希望がじわじわと湧き出した途端、 


「まずは借金の返済が先だからな、ヴィストっ」

 すばやく言い放ち、ばたりと扉は再び閉ざされた。


だーかーら、ヴィストじゃないったら。


 全然ちっとも人の話を聞いてないだろう、祖父ちゃんの馬鹿友めっ。

風香はぎりぎりと歯軋りし、門前の車寄せで待っていた馬車に唇を尖らせるようにして乗り込み、箱馬車の車内で足と腕とを組んで半眼で睨んでくるドーンと目が合った。


「な・に・を・し・て・る・ん・だ?」


組んだ腕の肘の辺りを神経質にとんとんと指先で叩きながら、まさに蛇のごとく執念深さで言葉を操るドーンの様子に、風香も同じように瞳を細めた。


「祖父ちゃん弟は実は暇人?」




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