097
「アイルくんには彼らを屋敷に連れて行く道案内をしてもらいたい」
「は、はあ……」
セシルム卿の口から出たいい案の中身は俺たちはもちろんアイルにも想定外のものだったようだ。
今にも戦おうとしていたのに腰を折られた形になったアイルは気の抜けた返事しかできなくなっていた。
「二人も、ぜひ彼女を連れて行ってやってほしい」
「なるほど……」
ミルムはそれで納得したのか、戦闘モードを解除する。
見ようによっては獰猛ささえもうかがえる金色に輝く目からスッと光を収める。
いつもの蒼い目に戻り、オーラも引っ込んでいた。
「いいのか?」
ミルムに確認する。
つながりを維持したいという辺境伯セシルムの意図はわかるし、別にこちらもそれを拒むつもりはないのだが、一人連れて行くとなると話が変わる。
「ま、いまの私達の状況を考えるなら、悪い話ではないわ」
「どういう……」
疑問を感じた俺以上に、アイルが納得がいっていない様子だった。
「ですが!」
感情を露わにして叫ぶアイル。
にこやかに笑ってセシルム卿はこう答えていた。
「勝負はそうだな……無事に二人を送り届けたらその時改めてということにしようじゃあないか。二人は大切な客人。そして騎士団でいま、最も強いのは君だ。アイルくん」
「あ、ありがとうございます……」
突然褒められて顔を赤くするアイル。
なんかミルムと同じ気配を感じるな。
考えがバレたのかミルムに睨まれたのでこれ以上考えるのはやめよう。
「大切な客人に万が一があってはいけない。君の役割は道案内と護衛だ。できるね?」
「はい! 必ずや!」
「よろしい。というわけだ。二人もそれで良いかな?」
人の良い笑みを浮かべたセシルム卿。
なるほど……。アイルの扱い方はなんとなくわかった。
ただいまいちセシルム卿が何を考えてるかわからないんだよなあ。
ミルムはわかってるみたいだし、考えてもわからないなら害がないことは受け入れるか……。
まあセシルム卿が戦いを止めた意味だけはわかる。
少なくともミルムや俺と戦ったあとじゃあ頼みにくかっただろうからな。あくまで強いアイルが俺たちを守る、その建前は必要なんだろう。
「第二騎士団アイル! これよりお二方の護衛任務に入ります」
「よろしく頼むよ」
「はっ!」
セシルム卿がアイルを改めて捕まえて説明をはじめた隙にミルムがさっきの話を補足してくれた。
「私達はこれから、嫌でもあのセシルムという貴族の影響を受けるわ」
「それはまあ……大貴族だしな」
お抱え冒険者と見られてもおかしくはないだろう。
「あなた、貴族社会の知識に自信があるかしら?」
「いや……ああ、そういうことか」
「私も今のこの国でどんなしきたりがあるかまでは知らない。その点あの子は多分、元々生まれがそちらだから役に立つわ」
「役に立つ……か」
言い方は悪いが要するに貴族社会の知識がない俺たちにとってはありがたい存在というわけか。
あれ……? ということは?
「この道中、何らかの形であの子が私達と一緒にやっていくことになるというのが、セシルムの思惑でしょうね」
「騎士団の精鋭を……」
「そのくらい、貴方を繋ぎ止めておきたいということよ」
ミルムが笑ってそういう。
実感がないが、それだけの評価を受けている可能性があるということか……。
ならせめて期待に応えられるよう頑張ることにしよう。
アルファポリス、カクヨムでも投稿はじめました
いまのところ変わりないですが加筆修正チェックしながら更新していくと思うのでよかったらあっちで「最初はこんな話だったなあ」とか感じていただけると幸いです
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