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「まあそれはおいおい考えてくれればいいとして、どうだい。屋敷くらいは受け取ってもらっても?」
「屋敷か……」
「ここからほど近い……とは言えないんだが、君たちの移動手段であればあっという間だと思うねえ」
地図と鍵を取り出すセシルム卿。
トントン、と地図で指し示した場所は確かに、森を抜ける必要があるが、空からいく分にはそう遠くはないだろう。
「本当は分家の一族が治めていた土地なんだが、今はもう屋敷だけが廃墟として残っていてね。遊ばせておくのももったいないと思っていたんだ」
「なるほど……」
これまでは拠点もなく活動してきたけど、アールがいれば移動もあっという間であることを考えれば悪い話ではないかもしれない。
ただ、これは好意でもらうにしては大きすぎるものだ。何か思惑があるかもしれないな。
考え込んでいるとセシルム卿が口を開いた。
「流石はSランクパーティー。慎重だね」
「そういうわけでもないけど、まあ何かあるのかと気にはなるな」
「よし。正直に話そうじゃないか」
「なにかあるのか……」
「いやなに……竜の墓場とまでは行かずとも、あの地も出るんだよ。アンデッドがね」
「ああ……」
人の気配があった場所が長らく放置されるとアンデッドが発生すると言われている。
しばらく人の出入りのなかった辺境の屋敷などまさにうってつけの環境だろう。
「貴方の領土はそんなのばかりなのかしら」
「はは。耳が痛いねえ。ただ、いたとしても低級のアンデッドであるゾンビやスケルトンくらいだろう。軽い掃除と除霊。報酬は屋敷。どうだい? あまり悪い話ではないと思うのだけれど」
「ふぅん。私は貴方に任せるわ」
頬に手をついて流し目でこちらに判断を委ねるミルム。
まあネクロマンサーにとってはやりやすい依頼だ。
屋敷も一応、もらって困るものではないだろう。
「わかった」
「よーし」
そのまま広げていた地図と鍵をまとめて袋へ入れてくれるセシルム卿。
作業をしながら何かを思い出したようにつぶやいた。
「ああそうだ。屋敷に魔道具があってね。私の屋敷とは相互に連絡が取れるものなんだ。ぜひ使ってくれたまえ」
連絡が取れる魔道具……。やっぱりあったか。
だから門番と連絡が取れていたんだな。
俺が一人で納得しているとミルムがニヤリと笑ってこう言った。
「なるほど……それが狙いだったのね」
「え?」
ミルムが言葉を続けて補足してくれた。
ふらっと出した短編が思いの外ランキングで並ぶほどになっててびっくりしてます
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王女に仕えた万能執事、わがままが度を越したので隣の帝国で最強の軍人に成り上がり無双する〜誰からも評価されず毎日姫のわがままに付き合わされた不遇の執事はいつの間にか大陸屈指の実力者になっていたそうです〜




