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「さて、いよいよ辺境伯邸か」
アールに乗ってたどり着いたのはセシルム辺境伯の屋敷。
屋敷というかもうこれは……。
「城だな」
「城ね」
この城を前にするともう、ギルド支部や教会ですら敷地内にこじんまりと入るのではというくらいの規模の差がある。
そもそも門から建物までの距離がありすぎて危うくいきなり建物の前にアールをすすめるところだったほどだ。普通に敷地の中に竜が降りられるくらいの庭園があるのがおかしい。
「何者だ!?」
そのせいで守衛に声をかけても警戒心丸出しで出迎えられることになっていた。
突然空からやってきたらそりゃ驚くだろうな……。
「ああ……俺たちはセシルム卿の招待を受けてやってきた冒険者だ。俺はランド、こっちが……」
「ミルムよ」
ギレンに用意してもらった紹介状を確認してもらう。
「確かに、紹介状だ……。失礼しました! すぐに取り次ぎます」
「ありがとう」
やってくるお客さんなんて貴族や商人のおえらいさんだろうからな。冒険者がやってくるだけでも警戒しているかもしれない。
しばらくすると迎えが来たと守衛に中に通された。
そこで待っていたのは……。
「竜車!?」
敷地内でそんなものまで出すのか……。
もちろんアールのような飛竜ではないが、地竜は馬の何倍も高い。というか王族でもなければ使うこともお目にかかることもないと思っていた……。
すごい世界に来てしまったな……。
「主人より特に手厚くもてなすよう仰せつかっております」
「ど、どうも」
執事に案内され竜車に乗り込む。落ち着かない俺を尻目にミルムは流れるような所作を見せていた。
「ずっと一人だったはずなのにどこで覚えたんだ……?」
「うるさいわね。……でもそうね……生まれながらに王家なんだから身体が覚えてるんじゃないかしら?」
「何だそれずるい……」
俺は根っからの庶民。Sランクパーティーになってからもこういう場に出ることはなかったので緊張でうまく動けないまま部屋に通され、そわそわしたまま城主との面会を待つことになった。
「よく来てくれたね。歓迎するよ」
現れたのは四十代くらいのはつらつとした男性だった。
聞いていた話より若くみえるのは、人の良さそうな表情の明るさと快活そうなハキハキとした口調が原因だろうか。
「えーっと……お初にお目にかかります」
「ははは。固くならないでくれたまえ。君たちはお客さんであり、私の長年の悩みの種を取り除いてくれた英雄、恩人なのだから」
「そうですか……」
「敬語もいらないさ。冒険者というのはそういうものだろう?」
よく冒険者を理解してくれている貴族だった。
好意的に迎えられたようで少し安心した。
しばらく辺境伯編
書いてる途中なんで少しずつ出しですがある程度まとまったらスピード上げて更新するかもです




