086 【元パーティー視点】
「待ってくださいメイル! それはロイグさんの……!」
クエラが叫ぶが、ミレオロにひと睨みされただけで呼吸がままならなくなるほどのプレッシャーを感じ押し黙った。
「まさかメイル……」
「かはっ……はぁ……メイル! ロイグさんの遺体はメイルが供養したって!」
「ん……あれは、嘘」
あっさりと、何の罪悪感も持たず、こともなげにメイルは告げる。
「そんな……どうして……」
クエラが信じられないものを見る目でメイルを見る。
「騎士団は、首だけ見せればいい。でもミレオロは違う」
「さすがメイル。よくわかってるじゃァない」
すでにここに来る前に、三人は騎士団に接触を図っていた。
深く絡めば騎士団は立場上、その身柄を拘束したがる。メイルの魔法を使うことで直接顔を合わせることなくその証拠品だけを見せつけてきていたのだ。
その効果は覿面。
以降、騎士団の管轄下において三人が格段に動きやすくなったことは言うまでもない。
ただしそれは一時的なものであることは、メイルはよくわかっていた。
だからこそこの首を、最も借りを作りたくない女のもとに直接持ってきたのだ。
魔術協会会長。不死殺しのミレオロのもとへと。
魔術の繁栄と教養を広げるという魔術協会の影響力は、国も手出しを渋るほど大きなものになっている。日常に必要な魔道具の普及と進歩は魔術協会による貢献が大きい。
その立場を笠に着る形で、ミレオロは異種族に対する違法な研究を続けている。
不死殺しのミレオロ。
一昔前を知る者にとっては、ヴァンパイアハンターの筆頭。別名、紅血のミレオロ。
アンデッドの最強種ヴァンパイアをはじめ、様々な不死の魔物を殺してきた。ときにはエルフまでその手にかけ、異種族殺しとしての汚名と畏怖を一身に集める怪物がこの、ミレオロだ。
「ん。その代わり」
「わかってるわよォ。騎士団もギルドも、あたしが黙らせてあげるわ」
「ん……」
ニタリと口元を歪めるミレオロと、相変わらず無表情のメイル。
対称的な二人の独特の空気感を前に固まっていたフェイドとクエラだが、なんとかフェイドが口をひらいた。
「待てメイル! 説明を」
「はァ? あんたは弱いくせに頭も悪いのかしら?」
「ぐっ……」
言うだけ言ってミレオロの興味はデュラハンの頭と呼ばれたロイグの頭部に移っていた。
「ふぅん。なるほど。メイル、これはもうデュラハンになっているのかい?」
「ん……わからない」
「わからない、ねェ? 面白いじゃない」
メイルの答えは一見すると機嫌を損なういい加減なものだとフェイドとクエラが焦りを覚えたが、ミレオロは逆に愉快そうに口元を歪めた。
「つまりこれから何かしらの変化を計測できる。この顔は特段処理された様子もないというのに腐る様子もない。これは面白いわ。いいわ。ただ……」
「ん……もう一つ、手土産は用意する」
「さすがメイル。もうそんな頭も力も弱い勇者なんて捨てて戻ってくればいいのに」
メイルに対するミレオロの評価は高い。
メイル自身、魔術に関する能力で魔術協会のトップに立つミレオロに劣っているとは思っていない。
だが、二人の実力差は誰の目にも明らかだった。
そして今回のメイルの行動はミレオロの目から見て、その差を埋めるための、つまりメイルが自分の側へと近づいてくる第一歩だと、これまでの評価を更に改め、歓迎していたのだった。
後一話このままいきます
首のないはずのデュラハンの首をあえて用意したことがミレオロへの最大の手土産です




