082
「おやおや。これはグリム男爵。これは一体……」
「おお、マロン殿。いやはや、マロン殿ともあろうお方がこのような素性の知れない冒険者を店に招いてしまうとは。私の方から軽く注意させていただきました。なに、この件は貸しということで──」
グリムの言葉は言い終わる前に雰囲気をガラリと変えたマロンに遮られた。
「まさか……この方々を愚弄したのではありませんな……?」
「は……?」
グリムが再び呆ける形となっていた。
「ランド殿とミルム殿は私の命の恩人ですぞ」
マロンの変化とこの言葉。グリムの顔に冷や汗が流れる。
だがグリムもこの程度ではめげなかった。
「まさか! だとしてもこのような場所には似つかわしくな──」
「お二方ともに単独でAランク。パーティーとしてはSランクであり、ドラゴンゾンビ討伐の功労者です。道中に現れたゴブリンキングとそれに伴うゴブリンの大群をたった二人で殲滅し、私の命を救った紛れもない実力者です」
「なっ……」
ここで初めてグリムの顔に焦りが見えた。
そしてその驚きは店内にいた他の者達にも伝染していく。
「聞いたか!? ゴブリンキングだとよ。もうまぐれじゃねえぞ」
「マロンさんが言うんなら本当なんだろうな……にしてもほんとに大型新人だ」
ミルムがちょっと嬉しそうにしていた。
知識はあっても外部との交流がなかったミルムは褒められるとすぐに調子に乗るというのはもうこの短い付き合いで十分すぎるほどわかっていた。誰かに騙されなければいいけど……いやもし騙すようなやつがいたらその後ミルムにぼこぼこにされて終わるか……。
そんな事を考えていると周囲の話題がグリムの方にうつっていっていた。
「それより、いつも偉そうにしてたけどあいつももう終わるな」
「Sランクパーティー相手にあれは、なぁ……」
グリムの顔に流れる冷や汗の量が増える。
だが次の瞬間、ニヤリと顔を歪ませてこんなことを口走った。
「仮に実力があるとしても、私はこの店にとって重要な顧客。この後も大切な商談だ」
「ほう……して、何がおっしゃりたいのですかな?」
冷たく突き放すマロンの気迫のようなものに一瞬たじろぐグリムだったが、めげることなく言葉を紡ぐ。
「たった一度命を守られただけの相手と、これまでもこれからもいい商売相手となる私とでは、比べるまでもないのでは?」
「なるほど……」
マロンから引き出せた言葉に勝利を確信したのか、いやらしい笑みを浮かべてこちらを挑発してくるグリム。
だが、マロンの口から次に出た言葉は、グリムのその表情を凍らせるのに十分なものだった。
よろしくおねがいしますー!




