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「おい!」
二重顎の偉そうな男は俺たちに嫌味を言った後、すぐに店員を呼びつけた。
「いつもお世話になっております、グリム様。いかがされましたでしょうか」
男はグリムというらしい。
店員が顔を知ってる程度には使ってるということか。貴族ってこの店で買うものあるのか……?
「この店はいつからあんな小汚いやつを入れるようになったんだ? 選ばれたものしか入れないのがここの良さであるというのに」
「ええもちろん。この店にお越しになられるお客様は皆様素晴らしい方々です」
「ではなぜあのような者がいるのだ!」
とりあえず理由はよくわからないが俺のことが相当気に入らなかったらしい。
と思ったらご丁寧にその理由を明かしてくれた。
「ふん。あれは落ちぶれた勇者候補の荷物持ちだろう」
「あら、あなた有名人なのね」
「だめな方にだな……」
なるほど。あのときのことを知っているわけか。
「あれだけ問題を起こしたパーティーだ。被害者ヅラをしていたって問題があるやつだということは明白だろうに」
そうきたか……。
そして男が俺に絡んできたもう一つの理由が判明した。
「あんなものと一緒ではせっかくあれほどまでに美しい淑女も台無しだ。さて……悪いことは言わぬ。私の元へ来い。この店に欲しい物があるのなら何でも買ってやろうではないか? その代わり夜は……わかっておるな?」
気持ちの悪い笑みで男はミルムへ手を差し出した。
だがまぁ、ミルム相手にそんなことをしてどうなるかは明らかだ。店員が「まずい」という顔をしたときにはすでにミルムは喋りだしていた。
「あら。最近の豚はしゃべるのね」
「は……?」
予期せぬ言葉に呆けるグリム。
次第に、その豚と呼ばれた大きな顔を真赤にしていき、顔全体が赤く染まった瞬間、グリムが叫んだ。
「貴様ぁあああああ!」
「こういうところで大声を出すべきでないことくらい、分かると思うのだけど。よほど貴方のほうがこの店に相応しくないのではなくて?」
止まらないミルム。
周囲の客の注目の的になったが、概ねミルムに好意的なのが救いだろう。このグリムという男が普段からどう思われていたのかが窺えるシーンだった。
「少し下手にでてやれば調子に乗りおって! 貴様らのような大した力のない冒険者ごとき、私の力でどうとでもなるのだぞ!」
「へえ。そうなの?」
ミルムがニヤッと笑って店員をみた。
まあ、俺たちに関する情報が勇者候補の荷物持ち、で止まっているあたりからなんとなく男のいう「私の力」というのも伺えるわけだが……。
どう収拾をつけるべきかと思っていたら、助け舟を出すかのようにマロンが来てくれていた。
後何話かでフェイドたち視点に移りますー




