066
「ということで、この金どうする?」
【宵闇の棺】にしまい込まれた金額はもはや二人の冒険者で抱え切るにはあまりに大きすぎる金額だった。
「あって困るものではないでしょう?」
「それはそうなんだが……」
「いまは個人でしか使わないかも知れないけれど、それが人を動かすときの金額というわけだから、いずれ必要になるわよ」
「人を動かすようなときがあるとは思えないんだけどなぁ……」
俺は何をするんだ一体……。
「ああでも、ミルムの国を復興させるのはできるか」
「えっ!? い、いいわよそんなことはっ!」
パタパタと慌てだすミルム。
「あとは両親に会いたかったりは、ないのか?」
「会ってみたい気持ちはあるけど、そんなに優先順位は高くないわよ。それこそ、貴方が死んでからでも十分すぎるくらいに時間はあるのだから」
「なるほど……」
不死のヴァンパイアとただの人間じゃあそのあたりの考え方は変わってくるわけか。
「じゃ、俺が死んだらこの金はミルムが受け取ってくれ」
「死ぬまでに使い切れるようにしましょう」
「それは……」
相当難しいな。
王都に豪邸でも立てれば一発で吹き飛ぶがそもそも王都に縁もないからなぁ……。
「あなたはせっかくお金がはいったならまず、ネクロマンサー用の装備を整えたらどうかしら?」
「ネクロマンサー用なんてあるのか……?」
「正確には闇魔法のための装備、ね」
闇魔法のための装備……か。
杖とか水晶とか色々聞くな。
「その指輪、気になってたのだけど多分使い道がもっと別にあるわよ」
「そうなのか?」
「おそらくだけど、ね。そういうネクロマンサー用の装備というのもあるわ。ただ今はそれ以前に、買える装備でどう間に合わせるかだけど」
黄泉の指輪。
使い魔の姿を可視化、不可視化するという説明だったはずだが……。
「神具級の力を感じるのにそれだけということはないはずだわ。まぁ、まだよくわからないけれど」
「ミルムでもわからないのか」
「私だってなんでも知っているわけじゃないわ。むしろ今の世界のことは何も知らないといってもいいくらいよ」
「それもそうか」
ずっと部屋にいたんだもんな。
「ミルムは装備はいいのか?」
「私はこれよりいいものを揃えるのはダンジョンにでも行かないと無理ね」
「ダンジョン、か」
最後に潜った運命の分岐点となったあそこを思い出していると、ミルムの口からもあの場所の名が告げられた。
「近くに神滅のダンジョンがあるでしょう?」
懐かしさすら感じる名前だった。
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