045
「逃げたわね」
「逃げた……?」
そう言われて地上に降り立つと、確かにもう誰も人の気配はなくなっていた。
魔法の痕跡まで消えているほどだ。
「さっきまでここにいた気がしたけど、相当高度な魔法ね」
一体誰が……。
いやそれよりもドラゴンのことだろう。
「見た感じ、大丈夫なのか……?」
「いえ……」
見た目だけなら変化のない竜の骸だったが、ミルムの目には違った形で映っていたらしい。
「瘴気を吸いすぎてる。もう多分……ドラゴンゾンビになるには十分くらいに」
「いまから打てる手立ては?」
「こうなるともう、なるべく吸い込む瘴気を減らしておくくらいしかできないわね……。すでにドラゴンゾンビは生まれてる」
まじか……。
「眠りから覚めた瞬間この世に形を持って現れるようなイメージだから……起きた瞬間に叩くしかないのよね」
「目をさますのは……?」
「早ければ数分後、ね」
討伐隊を編成する時間はないな。
「私たちでやるしかないわね」
「実物を見て、倒せそうか?」
「そうね……倒す必要もないんじゃないかしら?」
「え?」
思いがけない言葉に固まる。
「この子、目覚めたってそんなに長く生きられないはずよ」
「そうなのか?」
アンデッド系は一度生まれれば死なないことが特徴だと思っていたが、そうではないらしい。
「放置されていた期間が長すぎるし、象徴となる身体も残されてない」
「この骨はダメなのか?」
「これ、本気で殴ったらどうなると思う?」
竜の骸を指して聞いてくる。
まあ、見た目にももうボロボロになっていることを考えれば……。
「壊れるな」
「そう。もうこれは使い物にならない」
さらにミルムが続ける。
「ドラゴンゾンビとして、おそらくはこの身体を依代にしようとはするでしょうけど、長くは持たない。呼び出された魂も瘴気を使い果たせば終わりね」
「もしかしてこれ、ほっといても何とかなるのか?」
「……依代と想定される骨が持つのはおそらく三十分。仮に放っておいても、近くの街が一つ滅ぶくらいで済むわ」
「それはダメだろうなぁ……」
だが三十分。それだけ持てば、倒せなくとも何とかなるというわけか。
「依代さえなくなれば不安定な精霊状態にしかなれない。そうなった時があなたの出番ね」
「え?」
「ネクロマンス。竜がいれば便利じゃない?」
軽々しくそう告げながらミルムが準備運動を始めていた。
いやいやおい……。
俺、こいつをネクロマンスすることになるのか……?
ちょっと早いけど昼更新!




