213 決戦④
魔法の応酬の時点でもう、わかっていたのだ。
メイルの力は異常だった。
それを支える身体はもう、限界を迎えていたのだ。
「もう、休め」
メイルが一瞬、あの頃のような柔らかい表情を見せて、目を閉じようとしたところで……。
「まダだよ。まダだよぉおおおおおおメイル! まだ出来ることガあるだロう?!」
「ミレ……オロ……」
メイルの身体は限界が近い。
だが身体を捨てているミレオロはその影響を受けないのか、霊体となって叫びだす。
本当に……何者なんだ?
同じ人間だと思っていたがもう、この姿を見ればそれが間違っていたと思わざるを得ない。
今のミレオロは生霊としてメイルに語りかけている。だがそんな、自我を保ってそんなことができる人間を、俺は知らない。
「まだナんとか出来るダろう?! この実験室の仕掛け、メイルなラわかるはずダろ!? そレにあの男に命乞いすれば……! そウだ! まだなんとカなるじゃぁないカ!」
「ん……もう、いい」
「メイル!?」
必死に食い下がるミレオロに、メイルが目を閉じて答えることを辞める。
「メイル! 諦めるんじャなイよ! マだ……!」
「もう、いい……母さん」
「えっ……?」
目を閉じていたメイルが、静かに、優しくそう告げた。
「知って、いたのカい」
「ん……」
「そう……カい……」
ミレオロの霊体が、キラキラと風に流されていく。
抵抗するように、いや、メイルの骸を守るようにして、ミレオロの霊体はメイルに近づいていって……そして、消えた。
「【ネクロマンス】」
──ミレオロの能力を吸収しました
──ユニークスキル【イレギュラー】を取得しました
──メイルの能力を吸収しました
──ユニークスキル【賢者】を取得しました
──ステータスが大幅に上昇しました
──使い魔のステータスが大幅に上昇しました
──ミレオロは完全に消滅しました
『え……?』
ミレオロはあまりに危険すぎるし、そもそももう、この地に残る意思が全くなくなっていた。
対してメイルは……。
「フェイドが命がけで守ったんだ。命は助けてやれなかったけど、迷惑をかけない範囲で生きていけばいい」
『…………ん』
「まあまずは、クエラと一緒に罪滅ぼしをしてくれ」
ネクロマンスは契約だ。
二人が、特にクエラが自暴自棄になってなにかしてくるようなら、その身は維持できなくなるだろう。
「……ふぅ」
「これで片がついたのね」
「ああ……」
流石に魔力を消耗しすぎた俺に肩を貸すようにミルムが支えてくれる。
それをレイとエースも心配そうに見守ってくれた。
「帰りましょうか」
「そうだな」
アールに合図を送る。
嬉しそうに飛んできたアールを撫でながら、俺たちは領地に戻っていった。




