211 クエラの最期【クエラ視点】
「化け物……」
思わずクエラの口をついて出たのは、そんな言葉だった。
思えば、とクエラは振り返る。
ロイグは最後、文字通り化け物としての死を遂げた。
最上位アンデッドモンスター、デュラハン。
人として普通に生きていれば、まず出会うこともないような相手だ。そんな存在に成り下がり、死んでいったかつての仲間を、クエラは哀れに思っていた。
そして目の前のメイルは、怪物ミレオロがその身に巣食ったことでもはやSランクの魔物が可愛らしく見えるほどのオーラをまとう。身体能力、魔力、思考……どれをとってももう、あの頃のメイルとは大きく異なる、化け物にと成り果てている。
そしてそれを正面から相手どれるランドもまた、クエラからすれば化け物に他ならなかった。
「うっ……」
クエラが目の前の光景に吐き気を催す。
パーティーメンバーの辿った道は地獄だった。
ランドさえいればと、そう思っていた幻想すら、目の前の光景に打ち砕かれていくような気持ちになる。
「ランドさんだけはと……思っていたけど……」
ランドもまた、彼女からすれば救われた命ではなかったのだ。
化け物としての生を受け続けることはもはや、彼女にとって救いではない。
自分もそうなってしまうと、そう感じ取った瞬間……。
「おえっ……」
クエラの何かが耐えきれずに溢れ出した。
それは物理的なものではなく、精神的なものだった。
こうなって思うのは、唯一、人のまま死ねたフェイドのこと。
フェイドもまた、狂気に取り憑かれていたと、クエラは思う。
だがそれでも、死がフェイドを救ったと、そうクエラは考えていた。
そう考えられる、最期だった。
だからこそ、メイルの、そしてミレオロの選んだこの選択だけは、看過できないものだった。
「ああああああああああああ」
声にならない叫びを上げながら、人外の化け物たちが繰り広げる戦場に飛び込んでいく。
理由は一つ……。
「フェイド……さん……かはっ……」
メイルとミレオロは、実験室に転がしていたフェイドの死体を、ランドにぶつけようとしたのだ。
その腕にはもうあの神剣はない。
いや、そもそも力も無ければ、技術もない。
ただの屍の、ただの剣による突き。
今のランドなら食らったところで何一つ影響のない、そんな攻撃を……。
「がっ……」
「クエラっ?!」
クエラは生身の身体で受け止めた。
「ふふ……私はこれで、許されるでしょうか?」
「何を……」
戸惑うランドを前に、血を流しながらクエラは微笑む。
「私は、ランドさん……あなたにずっと、謝りたかったのです。謝って、許されて、いえ……願うことならずっと、罪滅ぼしに身を捧げたいと、そう、思っていました」
その言葉に、本人の意図した偽りなどはないのだ。
だがクエラという人間は常に、上辺の綺麗事で自分を塗り固め、何かを犠牲にすることなく、ただ目の前の旨味だけを享受し続けてきた。
本人に悪意はない。
ただそこにあるのはいつも、独りよがりな思いだけだった。
「でも……これで……」
ようやく楽になれると、クエラは考えていた。
ああきっとこれで、誰もが自分を認めてくれる。
もう何かと戦わなくていい。
もう自分は、化け物になることに怯えずに済むと、そんな思いが、クエラの中に満たされていった。
「これで……おしまい……」
そう、何もかもを投げ出した聖女候補を……。
「【ネクロマンス】」
「えっ……』
かつての仲間は許さなかった。
その言葉を言い終える前に、クエラは人間から死を経て、ゴーストになっていた。
『どう……して……』
彼女が最も望まなかった化け物としての生をいま、受けてしまったのだった。
『いやぁああああああああああ』
クエラの悲痛な叫びは、しかし生身の身体からはもう、発せられることはなかった。
3/15 最終3巻発売
3/18 コミカライズスタート
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