210 二つ名持ちの冒険者②【アイル視点】
「……っ」
アイルは思わず絶句する。
目の前に現れた人間はまさに、アイルが最も警戒したSランク超級の存在だったからだ。
暴風のルミナス。
金色の大槌グローディア。
どちらも大陸に名を轟かせる大英雄。
ほかのSランクとは別格の、それこそミルムやランドクラスの大物と、アイルは捉えていた。
「聞きたいことがあるんだよね。お嬢ちゃん」
ルミナスから声をかけられ、アイルは固まる。
ここで返答を間違えれば、自分が死ぬだけでは済まないということがひしひしと伝わってくるからだ。
もちろんもう、姿を見せた時点で逃げることも不可能だ。
「――っ?!」
――カキン
「へぇ、止めるのか……すごいじゃない」
アイルがなにか動くより早く、ルミナスが斬りかかってきた。
アイルはなんとか剣を出してそれを止めたが……。
「寸……止め……?」
「それもわかるのか……なんだ。只者じゃないねー」
ルミナスの警戒心があがり、アイルは選択を間違えたかと冷や汗を垂らす。
次の瞬間……。
――ブォン
風が吹きすさび、辺り一面に竜巻が発生する。
「なにを……」
「お嬢ちゃんはこの地の人間、それは合ってるよね?」
「そう……ですが……」
「よーし。なら一つだけ質問する。よーく考えて答えな」
ルミナスから放たれるオーラは、アイルが一瞬でも気を抜けば意識を手放しかねないほどのものだ。
これはルミナスからの警告でもある。
返答に嘘があれば、周囲の竜巻がアイルの身体を鎧ごとバラバラにするという……そんなビジョンさえアイルの頭に浮かばせるほどの圧だった。
そして……。
「ここは、いいところかい?」
ルミナスの問いかけはシンプルだった。
アイルもこの問いかけなら、迷うことはない。
「間違いなく」
嘘は一つもなかった。
その答えを聞いたルミナスの周囲から、あの圧と竜巻がまたたく間に収まった。
「そうかい。聞いたかい? グローディア。私はこっちにつくことにした」
「なっ?! 馬鹿なことをいうな! これは王都ギルド、ギルドマスターカイエン直々の命令だぞ!」
「だからさ……カイエンは私にこう言った。この地に生きた人間なんていない、ってね」
「それは……」
ルミナスの周囲に再び風が吹き荒れる。
「私はね、嘘が嫌いなのさ」
「そうか……だが俺はな、一度受けた仕事を放り投げるのが、死ぬよりも嫌いなんだよ!」
その言葉を引き金に、大陸に名を馳せる二人がぶつかり合う。
「ぐっ……衝撃波だけで……!?」
アイルはその場に留まるだけでギリギリだった。
だがそれでも……。
「敵に回ってたと思うと……ゾッとする……」
ロバートが近くにいたなら、ここに出てきたアイルを、そしてルミナスが認めるだけの実力を持ち、気を保って答えたその姿を、褒めちぎったことだろう。
ラストスパート〜!
書影Twitterに公開してますが今回もイラストとても良いです
完結記念にぜひー
コミカライズも今月スタート、お楽しみに!!!




