206 犠牲
『第一陣がぶつかりましたな』
「これは……もうすでにこんなに……?」
『ええ……お嬢様、この戦い、決して犠牲なく終わるものではございません。もちろん最低限の犠牲で済むならばそれに越したことはありませんが、この地に残った者たちの思いは皆ひとつなのです』
「じぃや……」
ゴーレム部隊は団長ベリウス、副団長ガルムのほとんど一刀のもとに斬り伏せられたという。
だがゴーレムには復帰機構が備え付けられている。このおかげで敵陣の中央で暴れるゴーレムという敵ながら可哀想な状況を招いていた。
ここでベリウスたちが引き返してでも救援を試みれば狙い通りだったのだが……。
「そう甘くはない、ですね」
前面の団長以下精鋭部隊はそのまま前進。
すでに一隊、アイルの部隊が消失していた。
こうも早くケリを付けられたのはミレオロの渡した魔道具の影響が大きい。
一般的に耐久力に優れるアンデッドに対して、ミレオロは最大効率で相手が消失するだけのエネルギーを算出する魔道具を騎士団に配布していた。
本来は終りが見えない恐怖との戦いになるアンデッド戦において、相手が後どのくらい攻撃すれば倒せるのかがわかるというメリットは非常に大きかった。
さらに……。
「報告にあった砲筒がいくつあるか……」
『数はないにせよ、上位種が一撃となると脅威ですな』
ミレオロが作ったシンプルな砲筒は、対アンデッドにおけるエネルギー同士のぶつかり合いで大きな効果を持っていた。
だが実のところこの魔道具を作るために訪れたエルフの森で敗走した結果もうすでに使い切ったカードではあるのだが、それを知らないアイルにとっては大きな脅威である。
『お互い、数の勝負は捨てるということでしょうな』
「ダークフェンリル、スペクター、リッチで団長クラスを止めましょう」
上位種では相手にならないとすれば出し惜しみをしている場合ではない。
『かしこまりました』
レイスは拠点防御、というよりは固定砲台の役割を備えた最上位魔法系アンデッド。
スペクターとダークフェンリルが相手の足止めをしつつ、固定砲台から攻撃と考えたのだが……。
「レイスが交戦開始っ!? 近くに救援部隊は……」
『ダメです。何体かは諦めなければならないかと……』
「くっ……」
姿の見えない冒険者たちによる攻撃。
アイルの落ち度というよりは、単純な戦力差の問題ではあるものの、序盤で最上位種の損失は痛手だ。
だがそれは相手も同じだった。
『遊撃に動いていたものたちから逆に相手の冒険者たちも戦闘不能に追い込んだ報告もいくつか。遊撃同士のぶつかり合いも互角と言えるでしょう』
「互角……」
ランドたちが見ていれば、善戦と言っていい状況にあるだろう。
だからこそロバートもアイルの采配に注文はなく、むしろうまくやっていると感心していたくらいだ。
だがアイルは……。
「もっと、もっと出来ることがあるはず……」
ロバートとメイドから送られる情報から必死に活路を見出そうとしていた。
アイルにとってこの戦いはランドたちを待つ防衛戦ではない。
ランドたちが帰ってきたときにはすべてを終わらせておく、そんな心構えで、敵の穴を探しにいっていた。
3月に三巻発売!
コミカライズも始まるのでよろしくお願いしますー!




