204 覚悟【アイル視点】
「壮観ですね……」
『ん……上位種までは全員装備を整えた』
「どれもあのミッドガルドの最高職人のオーダーメイド品……これだけで普通は一生食べていけるだけの財になりますね……」
『大したことは、ない』
アイルの言は大袈裟なわけでも世辞でもなく、事実なのだが、その辺りに無頓着なセラは興味なさげだ。
「一般種も含めて全員が全身鎧を着られるなんて……」
通常全身鎧は高価なもので、これが揃えられるのは王家や大貴族の抱える騎士団程度。
その数もそう多くはないのだが、領地のアンデッド全てがそうなったということは……。
『いよいよ王国と全面戦争でもできそうな戦力になりましたな』
「これから実際に王国の誇る最高戦力と正面からぶつかるだけに、ありがたいのはありがたいのですが……」
『壊れても、予備はある。あと、おまけ』
そう言ってセラが披露したのは……。
「ゴーレム!? それも、あのダンジョンにいたような……」
『技工も増やしてる。パズルが複雑だから、そうそう壊れない』
五体一組となったゴーレムが十五体。
実際に戦ったからこそ、アイルにはこの戦力増強の大きさがよくわかっていた。
「わざわざ貴重な素材を回していただき……」
『ん……工房がなくなると、困る。終わったらまた素材にすればいい』
それだけ言うとセラは作業に戻っていく。
すでにランドたちが旅立った領地。もうこの地に生きた人間はアイルしかいない。
だがそれでも、すでに街は復興をすすめ、領内の整備も進んできたところ。
侵略者に好き放題荒らされるわけにはいかないと、留守を預かったアイルは気合を入れ直す。
「じぃや。ゴーレムも組み込んでもう一度防衛ラインの整備を行うので、各地の連絡要員を集めておいて」
『かしこまりました。お嬢様』
ロバートに指示を送りながらも領地内の戦力指揮をどのように執るべきか懸命に頭を回すアイル。
アンデッド同士にも相性がある。移動手段一つとっても大きな違いがある彼らをどう配置し、どう動いてもらうか。
同じ戦力だとしてもその戦力には大きな差が生まれるだろう。
「相手は騎士団が主だとしても、上位冒険者とそれに匹敵する副長以上クラスを思えば……」
領内の最上位種と、上位ランク相当の相手の数を比較した時、おそらく優勢なのは騎士団側。
そして歩兵の数でも騎士団は勝るだろう。
さらに厄介なのが……。
「ミレオロが魔道具を供給した場合……」
アイルの頭に描かれるのは常に最悪のシナリオ。
あのときのスタンピードと同じことを、今度は人間の騎士団が行ってきても全く不思議ではないのだ。
「そんなことは……させない」
ランドからは領地がどうなろうと再興するから、とにかく生きろと言われている。
だがこれはアイルの誇りの問題だった。
「二度もこの地を、好き勝手されるわけには……!」
無力故に何も出来ず、無力故に生き残った少女が、ようやく過去にケジメをつけるときが来た。
新作共著総合二位です!
よろしくお願いします!
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「田舎者は帰れ!」と追放されそうになったけど、このまま俺が帰るとみんな死ぬけど本当にいい? 〜竜王族に『生殺与奪の権』を握られていることを知らない貴族たちに人類の命運がかかっているそうです〜




